密室の懺悔の間で許されざる罪を告白されてしまった話
「罪の告白をいたします」
古びた教会の奥に設えられた、第三者に盗み聞きされないよう厳重な密室となっている懺悔の間で、青年は両手を組みひざまずいた。
「うかがいましょう」
顔は見えないようになっている格子窓の向こうで、聴聞師が応じると、青年は自らの罪を口の端に乗せた。
「ぼくは禁断の裏ワザを見つけてしまいました」
「どのような」
「スマホのブラウザって、オフラインのとき、ダッシュする恐竜でサボテンやプテラノドンを避けるゲームで遊べますよね?」
「あれ、単純だけど結構むずかしいですね」
「実は、画面を横にするとすごく簡単なんです」
「か、神よ。この罪深き子羊をどうか許したまえ……」
告白を聞いていた聴聞師の声が震えた。
そんな……何度やっても、背景が夜になるあたりでサボテンを踏むかプテラノドンに刺さってしまうのに! わたしのハイスコア750点なのに!
「さらに、低スペックの安いタブレット端末だと、処理能力が足りないせいなのか、プテラノドンが出ないんですよ」
「ああ、なんという大罪を! 神よ、はたしてこの者は許されますでしょうか……?」
安タブだとプテラノドンなし!? うそでしょヌルゲーじゃん!
そこにちょうどポンコツタブレットがあるんですけど! 最近のはやりに乗ってテレ礼拝アプリ作ろうとしたらしいけど、予算不足でポシャったやつが!
けっきょく聖書の電書版入ってるだけで、ほとんど役に立ってない板切れが!
いますぐ試したい……。
「いやあ、簡単に1万点超えちゃって、これはまずいと思ったんで、懺悔にきたんです」
「あなたは、やってはならないことをしました。でも、神はきっとお許しになるでしょう……たぶん」
「心がずいぶん軽くなりました。じつは……もう一件あるんです」
「……!?」
いけない! それ以上闇のウェブライフハックに手を染めては!
しかし青年はさらなる闇を語ろうとしていた。
「某パンダの間違い探し、ありますよね」
「だめ! それ以上は!!」
聴聞師はついに大声をあげ、青年の告白を中断させた。
「いかに神といえど、この罪は許されませんか……」
「神は許してくださるかもしれません。ただ……わたしは耐えられない」
「ご迷惑をおかけしました。この罪は、墓場まで持って行きます」
青年は深々と頭を下げ、懺悔室から退出した。
聴聞師はさっそくポンコツタブレットを機内モードにして恐竜ゲームのスコアアタックに挑み、あっさり3000点に到達して罪深さに戦慄した。
追記
スマホブラウザの恐竜ゲームはAndroidのGoogleChromeとその派生アプリで遊べます。iPhoneでもChrome入れれば動きます。