7話「フィーナの実力」
なんだかんだと時間をかけ、なんとか目的の村へと辿り着いた。
煽てに弱いらしいフィーナに、なんとか地面に近いところを掴んで速度を抑えめで飛んでもらったせいで、今回は吐き気を覚えずに飛ぶことができた。
いや、本来であれば飛ぶ必要はなく2日かけていけば済むんだが……。
「あれが目的の村か。……なんか武器を持った人が立ってるけど」
「そんなことよりも、早くオークどもをぶち殺しにいくわよ!」
……いや、お前依頼内容聞いてなかったか?
偵察だぞ、今回の依頼は。
そのことを伝えてみるが――
「偵察? なんで獲物がそこにいるのにそんな消極的なことで無駄な時間を人間のために割かなきゃいけないのよ!」
と、返されてしまった。
こいつ、本当にどんだけの自信家で傲慢な妖精なんだよ。
俺がそんなことを考えている間に、フィーナの姿が消えていた。
かと思ったら――
「人間! オークの出たところってどこよ!早く答えなさい!」
と、守衛らしい村人たちの前にいて、そう問いただしていた。
おいおいおい!
俺は慌てて走って近寄り、フィーナを摘まむと誤魔化し笑いをして丁寧に接した。
すると、存在感のせいで驚かれたが、冒険者で偵察にきましたと伝えると状況を話してくれた。……妖精のほうへ警戒の視線を向けながら。
それによれば、東の畑の付近で村人たち以外のでかい足跡などが発見されたということらしかった。
それが4日前のこと。
そして村には、元・冒険者だったという人がいてその人が言うには、足跡の特徴からしてオークということらしかった。しかし数までは分からないということらしくそのために、近隣の町である俺がいた町まで依頼にきたということらしかった。
「!」
何やら他所を見ていたフィーナが何かを感じ取ったかのように東のほうを見た。
「なんだ?どうした、クソ妖精」
「フィーナよ! ……やっぱりあたしね! もう囲まれてるわよ」
俺はその言葉を聞いて、なに自画自賛してるんだと思ったが、さっきの言葉を思い出した俺はピンっときて、すぐに東の畑のほうへと走っていくことにした。
おっそいわねとか言われ、途中でフィーナに掴まれて空を飛ぶハメになったのは言うまでもない。
現場となる東の畑には、悲鳴、怒声雨あられだった。
フィーナは、そんな現場に着いた途端凶悪な笑みを浮かべて突っ込んでいきやがった。だから、偵察だし!
……とも言っていられないので、戦闘力のない俺は逃げ遅れたらしい農家の村人たちの避難を助けに回るのだった。
「は、早く!」
「きゃあ、あなたどこから!?」
存在感のなさがここでも別の悲鳴という形で現れるのは悲しいことだったが。
3体くらいのオークっぽい体長2mはありそうな豚男たちが小屋などを壊しまくり、畑などを踏み荒らしてる中での避難は足を取られるわ、俺じゃない村人たちを標的とした奴らのターゲット上かなり大変な避難誘導になったが、なんとか避難をさせることができたのだが――
――ゴシャ!
いくら存在感が半減によってない俺でも、誰もいない中で動いていればそれはそれは分かりやすいターゲットになったらしく、避難を終わらされた俺は現在2体のオークたちに狙われていた。
だが、その動きは鈍くて半減の力の有効範囲に入ってることを指していた。
こっちも身体能力やら感知能力やらが半減しているが、それでも鈍いオークの攻撃はなんとか躱すことができていた。
武器を扱ったことのない素人高校生こと、俺は逃げ回るしかない。
それでも奴らの一撃は半減した状態でも元畑にすごい一撃を地面に叩きつけているので元々の力は相当なものなんだろうと思いながらも逃げ回る。
ただひたすら。
あの、突撃クソ妖精が早く戻ってこないかな?という期待を込めて。
しかしいつになっても戻ってくる気配は――
「な、なんだあれ!?」
逃げながら、オークの一撃を避ける意味で後方確認をする上で振り返りながら逃げていた俺が見た光景は、親方空からオークが!の一言を意味する言葉だった。
巨体なオーク本体が、時にはその"残骸"が空から降ってくるのである。
軽く恐怖を覚える光景である。
「あいつか!」
あの妖精、フィーナの野郎……女郎?
途中でめんどくさくなったのか、空にオークをアイキャンフライさせて同士討ちっぽいことを考えやがったのか?
なんせ、後方で俺を追いかけていたオークたちにもその被害が及び俺は足を止めて息を整えることができるようになったからだ。
鈍くなった耳でも奴のいる方向から、高笑いが聞こえてくる気がする。
「プ、プギィ……」
後方でオークの残骸が頭に当たって昏倒していたオークの1体が、そんな鳴き声をあげて起き上がろうとしたのに気づいた俺は、周囲を見渡す。
あ、鎌だ。
使い古された鎌を手に取って、俺はそのオークへ近づき首を掻っ切った。
習ってよかった母方の祖父による養豚場の屠殺経験。
まぁサバイバル経験も少し混じってる殺し方だが、首を掻っ切るのが一番致命傷を与えられることは知ってたので、死がどうのとか考えるよりも真っ先に行動に移した。
その後は、ひたすら屠殺を何度も連呼しながら、オークメテオ(命名俺)を避けながら、死んでいないオークたちを屠殺しまくるのだった。
しばらくして――
ものすごい巨体(2mを超えるだいたい5mくらい)のオークが姿を現した。
何やら豪華な飾りらしいものをしたオーク。
「はぁ……はぁ……、オーク……キングか?」
身体能力も自分の力で、半減してる俺もさすがにこう後処理を何度もすると疲れる。追いかけられた時の体力もまだ回復してないし。
あれ、体力回復も半減してるのか。
どっちみち俺は現在、ピンチだった。
しかし……。
――ドパーン!
っという音とともに、何か小さいものが心臓の辺りを貫いた瞬間そのでかいオークは真っ直ぐとこちら側へ倒れ伏したのだった。
「あーっはっはっは! オークごときがあたしに喧嘩を売るのは1万年早いわ!」
やっと姿を現したフィーナだったが、倒れ伏したでかいオークに指を指して何やら宣っていた。
「はぁはぁ……ク、クソ妖精が……」
そんなことを呟いた俺も、仰向けに倒れ伏した。
疲れが限界であったこともあるし、あっけない最期のオークの姿もそうだし何より、フィーナの実力がここまでなのかという驚きもあったのは言うまでもない。