5話「ふたたび異世界へ」
顔が腫れあがるほど痛いというのは初めての経験だった。
……まぁ"力"のせいか普通よりも鈍いらしい鈍痛って感じだったが。
「……この鈍い痛みについて説明してほしいんだが、クソ妖精」
「あんたが、いきなりぼーっとなるほうが悪いのよ!」
どうやら現実に戻っている間に、こっちの俺はこいつの平手打ちで目覚めたはいいがずっとぼーっとした感じの状態だったらしい。ある種、ゲーム機の待機モードみたいな感じだろうか?
だからって――
「喋りにくくなるまで叩くことじゃないだろ! ……くそ、痛いのは痛いのに微妙な鈍痛ってなんだこれ」
「そんなことどうでもいいわよ! とりあえず、この珠を見なさい!」
どうでもいいって……くそ、やっぱり好みのスタイルと顔をしてるのに小っちゃいこいつ嫌いだ。
ギャーギャー耳元でうるさいので、俺は見ろと言われた珠を見ることにした。
すると――ポワーンとした光とともにその光が広がり、まるでホログラムのような感じで天井らへんに1人の女性の姿が映し出されたのだ。
その容姿の美しさと言ったら、もうこの世のモノでは表現できない美しさと言った感じだ。……語彙力がなくて悪かったな。
水色の長髪に、目を閉じたままだったその長身はスラっとしているが、
なんというか……そう、超一級の芸術品という感じだった。
「クソババア! ちゃんと見つけたわよ! ほら、早く褒めなさい!」
そんな綺麗な方に向かって、いつものような暴言を吐くクソ妖精。
なんて口の利き方なんだ。って、クソババアってことはこの方が妖精女王なのか。
『……はじめまして。シュンスケ様』
乱暴な口の利き方をした妖精をサラっとシカトした妖精女王に俺も、はじめましてと挨拶をした。スルースキルすげーなこの人。
「あの……色々聞きたいことがあるんですけど」
『もちろん、そのためにその子を遣わせたのですから』
「クソババアも、シュンスケもあたしを無視するな!」
……こいつのことは無視しとこう。
『まずは、事情を告げもせずに急なこの世界への招待をお詫びいたしましょう』
そういうと、妖精女王様はスッと頭を傾けた。
「いえいえ! 俺も不注意で事故っただけですし、このクソ妖精が何か俺に助けられたからとか聴きましたので」
誰がクソ妖精よ、生意気な人間ね!とブンブン飛び回る妖精は無視して俺も妖精女王に向かって頭を下げた。
『そうですね。まずはそこからご説明をしなければいけませんね』
そういうと、その綺麗な口を開き事情を明かし始めた。
確かこの妖精から聴いた話では、俺が誰かを助けた礼だとか聞いたがどうやらそれは"今の"俺の話ではなく前世での話らしい。
妖精女王の姉に当たる、精霊女王がいるそうなのだがその精霊女王を前世の俺が、助けたということが全ての起因ということらしい。
「前世でのことですか。それじゃあ覚えてないのも無理ないですね」
『ええ。ちなみにあなたの前世はこの世界でとある冒険者をしておりましたね』
え、俺ってこの世界の冒険者だったの?と驚くのと同時に、もしかして伝説の冒険者だった?とか色々期待してしまったのは仕方がない。
だが――
『……申し訳ないですが、どこにでもいる冒険者でしかもとある迷宮で罠を誤って踏んでしまい亡くなられたという次第です』
ドジって死んだのかというがっかりした最後を聞かされてしまった。
『しかしながら、あなたが姉の助けとなり姉もあなたに感謝をした結果として、現在あなたの有している"ハーフリンカー"の力を与えたということでもあります』
ということだった。
力を宿す切っ掛けというのが、"俺が命の危険に直面する"ということが条件ということだった。つまりは交通事故が切っ掛けで現時点でおかしな半転生状態になっているらしかった。
「質問なんですけど、存在感が薄かったり五感とか身体能力が半減されてるのって、その"ハーフリンカー"の力のせいだったりしますか?」
『その通りです。今は弊害になっているかと思いますが、この世界においてあなたが努力すればした分、その半減された力は上昇していく流れになりますし、何よりそれは"対峙したあらゆる事象すらも半減させる"という力もありますので、あなたにとっては得する能力だと思っていただいて構いませんよ』
そうか。
例えば今は半減して5の力しかなくても、こっちで努力すれば20に上げれば10の力になったりするってことか。あれ……ってことは――
「それって向こうの、現実世界でも反映されるってことですか?例えば向こうで運動した結果がこっちでも反映されるとかそういう……」
その答えに、妖精女王は二コリと笑ってその通りですと答えた。
てことは、だ。
あっちで走った結果はあっちでも、こっちでも反映されるわけだし
こっちで冒険した結果があっちでも反映されるということ。
あれ、結構チートじゃねと思うんだが――そうは問屋が卸さないらしい。
『――ご実感されていると思いますが、あらゆる事象の半減はあなたご自身にも反映されております。五感も身体能力もそうですがそれは成長も半減されるということでございますのでご注意ください』
あ、そうか。
確かに、あらゆる事象だから、俺自身の成長力も半減しちゃうのか。
ということは倍くらい頑張ってようやく人並みに成長できるってことになるから、
わりと大変な道のりになるってのは容易に想像できてしまう。
それに、この目の前をブンブン飛び回ってる妖精は、俺を平手打ちしたと言っていたが、大男1人くらい持ち上げる怪力を持ったこいつの平手打ちといったら加減したとしても半減されてしまうし、自分の五感――この場合触覚か?――も半減されるわけだから鈍痛という結果になったということも考えられた。
そんなデメリットもあるが、ようするに頑張ればいいだけなのでそのデメリットも打ち消すくらい頑張ればなんでもなるって感じか。
『……わが姉は、事情があり姿を見せることができませんが、あなたには非常に感謝しておりました。姉に成り代わりお礼申し上げます』
色々質問をした後はそう締めくくり、妖精女王は今まで無視をしていた妖精のほうに向かって視線を戻して言い放った。
『フィーナ。あなたはそのまま、シュンスケ様が立派に成長なさるその時までの護衛を命じます。いいですね』
「くっ!? このクソババア! あたしを<妖精号令>で……!!」
「よ、妖精号令?」
『妖精女王である私の命令です。これは妖精に属するモノであれば逆らうことはできませんので今後、その子があなたの身辺を護衛することになりますし、何よりシュンスケ様、あなたを傷つけることは不可能になります』
そ、それって!
「ほ、ほほう!ってことは!」
俺は飛び回る妖精をガッと捕まえると、顔をぷにぷにし始めた。
やわらけー。
「ぐっ、このっ! やめらさいよ!」
頬を押されてやめなさいよと言えない妖精を突きながら、
「うるせー!このクソ妖精! ……反撃が怖くてほっといたけど、もうやられないっていうなら、こうだ!」
「やへろー!」
そうしてぷにぷにしまくった。
『ふふふ。これなら仲良くできそうですね。いいですか、フィーナ。その方は姉にとっての大事な方なのです。これからしっかりと護衛の仕事を果たすのですよ』
その言葉を聞くや否や、フィーナと呼ばれたクソ妖精が妖精女王にふざけるななどあらゆる暴言を浴びせるが、それを笑って流し唐突に妖精女王は姿を消した。
他にも色々聞きたいことはあったが、まぁ力のことなんかは自分で試していけばいいか。
そんなわけで俺はこれからこの妖精と一緒に異世界側では活動することになった。