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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
序章「現実世界と異世界と」
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4話「現実世界」

俺は病室にいた。

寝て起きて、まるでさっきまでのことが夢であったかのような。


いや、夢ならいい。


夢であってほしいと俺は、

まだあまり動かない体を駆使して病室備え付けの鏡を手に取って覗いたり、離してみたりした。


結果、


「……ち、縮んでる」



あの世界で感じた虚脱感にまた襲われて俺は力なくベッドへ沈んだ。


そんな中、ドアがノックされてることに今更だが気付いた。



応対の呼びかけをすると、ドアが開き、そこにいたのは見慣れた俺の両親である判子ハンコさんに藩次郎ハンジロウさんご夫妻だった。


心配そうだった母さんだったが、無事だと分かるとふぅと言って親父と話しながらもチラチラとこっちを見ていた。


親父も同様だったが、こっちは本当に心配したぞという表情だ。



「どうだ、調子は? 先生から聞くところによれば、経過は良好だというが」


話しかけてきた親父に対して俺は、まずまずとしか答えられない。


それくらい頭の中がパンクしそうな状況なのだ。


俺の様子を見て、何かあったのかと思ったのだろうか母さんはそっと俺の"本来の顔があるだろう部分を掴むように"包むとじっと見ていた。


俺の30cm上だ。


「ホ、ホントに大丈夫なの? 食事は?ご飯は?」


食事とご飯は同じだろうとは言わない。


母さんは昔からうろたえるとこうなる。


気が弱いというか、心配だけど心配してる風に感じられるのが逆に心配をかけちゃうという気の遣い屋だ。



まぁ、今のようにホントに俺の様子がおかしいと感じたら、そんなのは無視されて純粋な心配となるんだろうけど。

ほんとにややこしい人だ。



「だ、大丈夫だから。 ……ちょっと夢見が悪かったっていうか」



その言葉にホッとしたのか、俺の顔があるだろう部分から手を離すと親父の持ってきた二脚のパイプイスに二人が座った。

そして両親と1週間ぶりの会話を交わした。


そう、あくまでも俺の感覚では一週間前のあの眠りはじめから起こったことだ。 だが――


親父たちと話している分には、時間のズレなどなく俺はこっちの世界じゃひと眠り程度のことだったらしい。




それにしても、さっきのあれ。


俺の30cm上を掴み上げたあの所作。

完璧にあれは夢なんかじゃないというのが実証されてしまった。


身長も半分ということだろう。


元々、高身長と言える部類なのだが現実に縮んでるのが確認できるとなんとも言えない気持ちになる。



あとで備え付けの体重計でも体重を図ってみよう。

というか、さっきは体の違和感を感じて力が抜けた感じだったが体調としては万全だ。


両親が帰ってから、少し試してみよう。



……存在感の薄さやらを。



俺がそんなことを考えているとは知らないが、心ここにあらずというのが分かったのだろうか

両親は俺の暇つぶし用のゲーム機やら新しく入学して支給される教科書やらを置いていくとさっさと帰っていった。


親父のほうはさすがに空気が読めるというか、察しがいいというか。


将来成人したら一緒に酒を飲んでみたい親父でよかったと思う。



そんな両親の気遣いに感謝をしながら、俺はしばらくストレッチをして病室からでてみることにした。






しばらく散策をしているが、やはり俺の存在感は薄いらしい。


わりとまぬけな顔をして歩いているのに誰も目を合わせない。

……合わせたくない、関わり合いになりたくないという可能性もあるわけだが、そういう感じもしない。


ただ本当に気づかないという感じだった。



変な顔をしていたせいで視界が悪く、ぶつかりそうになったりもしたがそれでもおっとごめんよという感じにはならなくて

ん? なんかあったっけ? みたいな表情ですれ違う人ばかりなのである。




売店によって、雑誌を手に取りそのまま出ても誰にも咎められなかった。


……もちろん試した後は普通に声をかけて、買ったよ?





そんなこんなで試せるものを試して病室に帰ってきた。




ベッドに寝転がって、適当に買った雑誌を見ながらも考える。


あっちの世界で、今俺はどうなってるのか。


そもそも、ハーフリンカーという力のこと。




あらゆる事象を半分にという意味不明な力を、俺が誰かを助けたことによって得られたというもの。



俺の身長も体重も存在感も五感も身体能力すらも……そしてなぜかは分からないが異世界とこっちの世界に半分ずつという。

世にも珍しい異世界"半"転生という状態。


そうだ。


知力を試すとしよう。




結果――見事に半分だ。



試したのはゲーム機の内蔵されたいくつかの脳トレ系。


スコアが事故前のやつと現在のとで比べてみればどれもが見事に半分。

計算能力とかも恐らくそんな感じだろう。


「はぁ~……」


ため息がでるってもんだ。

それでもお腹は……、そういえば気づけばもう夜だ。

なのに全くと言っていいほど腹が減らない。

この分じゃ、食欲といった欲とかも半分なんだろうなと考え付いた。


病室から見える、前よりも悪くなった視力を駆使して外を見る。

灯りのついた街並みが見えたが、そんなことよりも今後どうするべきかをぼーっと考えているんだが、なかなかこれがどうして考えがまとまらない。


あのクソ妖精が言っていたことが正しければ、俺は眠りに就けばまた"あちら"の世界に行くんだろう。そしてあちらで――


「そういえば、あっちで一週間は寝て起きてもこっちで目覚めなかったな……何か条件でもあるのか?」


とりあえず、検証用にと病院に併設されてたコンビニで買ったカレンダーで今日の日付に丸をつけておく。これで次に目覚めた時、あっちで何日過ごしたらこっちで何日過ぎているのかが分かるだろう。


というわけで、俺は眠くないがとりあえずあの妖精のいるあちら側へと行くために寝ることにした。




――床につけたのは、それからすぐのことだった。

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