10話「砂漠の冒険⑤」
「シュンスケ! あんたねぇ!」
「……ああ、はいはい」
俺は、飛んできたフィーナを適当に避けるとラビィに話しかけた。
「無事で良かったよ、ラビィもコーディも」
そうしてコーディの頭を撫でると、剣を咥えながら飛び込んでくるので危ない思いをした。
「フィーナ、リンスが伝えたようにこっちにいるメジェネア……様が言うには、大量に魔物が沸く。お前の出番だぞ」
「まったく仕方ないわね! あたしがいないと何にもできないんだから!」
と、何やら自信マンマンなフィーナにはいはいそうですねと返し、ラビィから情報を聞いた。それによれば中央の大きな建物へと集まってるのが今回の戦力らしい。俺たちもとそこへと駆けだしていった。
中央の大きな建物の前、そこでは何やら偉そうなヒゲを蓄えたおじさんが決起集会のように演説を行っていた。
「過去――2万5千年も前の文明を治めておられた最後の女王と言われし、メジェ・ネ・アラシア21世陛下が封印を施した血塗られし魔物――ルビーデーモンどもを駆逐する勇者たちよ! さあ、我らの戦いの準備はできた! 向かうは、ルビーデーモンどもの討伐だぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヒゲを蓄えたおじさんの掛け声に、勇者たちと言われる戦力が戦士の咆哮を持って答えた。
なぜか俺の外套を借り、顔を隠したメジェネアが何かを呟く。
「足りぬ……これでは」
いよいよの戦いという時に不吉なことをいうメジェネアに思うこともあったが、今はそれどころではなく、どこに誰が戦力を割くかなどの話し合いが行われていた。
ラビィたちが俺たちを待つために、町に留まりここ数日で挙げた実績によれば、俺たちが担当するところはなかなかに大変そうなところであった。
足りない、その言葉に俺はメジェネアへ率直に聞く。
「……どこが足りない」
「東じゃ……わらわの記憶が確かならば、じゃがな」
「フィーナ!」
「何よ!」
「お前、東に行ってとっとと魔物たちを倒してこい! そしたら、少しは見直してやる!」
「……ふっふっふ、言ったわね! まかせなさいよ!」
そう言うと、フィーナは超速で飛び出していった。
「確かに妖精族は魔法に長けておるが……」
「いや、メジェネア。この場合のあいつは魔法とは違う腕力で解決できるんだよ!」
「婿殿……」
「婿殿いうな」
俺は他に戦力を割くところ必要のありそうなところを聞くと、ラビィとリンス、そして俺たちをそれぞれ西と北側に設置した。
「ラビィ、まかせていいよな?」
「……不問ですわ。シュンスケ様こそ、大丈夫ですの?」
「メジェネア……様も、いるしコーディもいるから大丈夫だよ」
「ふふ、では!」
そう言ってラビィは、西へと駆けだしていった。
「俺たちも行くぞ、メジェネア様、コーディ!」
「様付けは必要ないのじゃ、婿殿」
「そっちが婿殿呼ばわりをやめたらな! コーディ、いちいち威嚇しなくていい。ほら、いくぞ!」
そうして俺たち3人は北側へと急いで駆けていった。
俺たちの向かった場所はすでに多数の血のように赤い魔物――ルビーデーモンたちが暴れていた。それに抗う冒険者みたいな戦士たち。
そこへ俺たちは駆けだして、助太刀に入ることにした。
「俺は半減の力を、メジェネア様とコーディはそいつらの相手を頼む!」
メジェネアにもいつものように声をかけたが、コーディと争うように了承の声が返ってきた。
▽
北に東に西にと、戦力を分けた砂国の勇者たち。
それに抗うように血塗られし魔物たちルビーデーモンは、全身血の色をした化け物で、時にはサソリであったり、時には蛇であったり、時には……というように砂漠に住まう魔物が全て血色に染まって、なおかつ強さも何倍にもなっていた。
南に位置取る勇者部隊の本部は、ここ数日で異次元の狩猟能力を見せた者たちがこちらに来ていないことに疑問を持ち、その行方を探っていた。
すると、突然現れた3人組と合流したその狩猟者たちはその1人の男の指示で、東と西と北に別れたということを聞いた。
「何を考えておる……」
「何やら、男は狩猟者たちの長だと思われるものと外套を被ったものの指示によって動いている様子。妖精族の者は東へ、異邦の令嬢たちは西へ、そして男たちは北へと向かったとのことです」
「……いい。戦ってくれるというのであれば、この際は」
痛そうに頭を抱えて首領である男は、項垂れながらも異邦の首領者たちの勝手にさせることにしたのだった。
西へと向かって飛んだフィーナは……暴れていた。
瞬介の力が及ばない――ここ最近は彼自身が制御している風だが、未だに完全ではない――範囲で思う存分その力を振るっていた。
「よわいよわいよわいよわいよわいーーーーー!!!」
ボコっと穴を開け、そして次に襲い掛かろうとしたルビーデーモン相手にも一歩も引かずに突撃をして掴んでは引きちぎり、凶悪な笑みを浮かべて宣った。
「まったくここの人間も脆弱ね! この程度らの魔物たちも満足にあたしほどに蹴散らせないなんて!」
そこにいた連中は、みな思った。
―いや、そりゃあんたレベルで倒せる奴がいたら俺らなんていねーよ
ドン引きの戦場は、さらにドン引きさせれるがしかし戦力の低下は起きずに、余った戦力をよそへと移すほどに余裕を持って対応していた。