4話「国命依頼」
あれから数日、フィーナはよく外を見て何かを考えるようになっていた。
俺はと言えば、翌日協会から派遣された職員によって謹慎ということで町へは一歩も外に出ることができなかった。おかげで俺としては自分の力の検証や操作など色々集中できたが。
それに――
不敬罪とかいうふざけた罪で処刑された男の件で色々と貴族に対して、思うところがあった。そんな生活をしているうちにラビィが俺の部屋へと入ってきた。
「シュンスケ様、協会から協会の元締めが呼んでいると……」
「……ありがとう、行くよ」
とうとう来たか。
恐らく俺も、あの男同様に処刑妨害罪とか言われたりするのだろう。
その覚悟を決めて早速空を見つめたままぼーっとするフィーナを置いて協会へと向かった。
協会内は、冒険者の数が少なくみんな依頼に向かっていると分かるほどの静けさに満ちていた。
まぁ、今は昼間だし。
リエナさんと合流し、その案内で元締めであるガルマさんの部屋へと行く。
「失礼します」
そう言うと俺も一応失礼しますと伝えて、部屋の中に入った。
「……きたか。まぁ、座ってくれ」
「はい」
俺は頷くと、ガルマさんの目の前に座って話を聞く態勢に入った。
「……はぁ。問題ない、楽にしてくれ。何も先日のことでお前に罪を言い渡すわけではない……まぁ、この依頼を受けてくれなければどうなるかは分からんがな」
と、ガルマさんが言うので俺はそうですかとだけ伝え、そのまま聞くことにした。
「先日の処刑妨害について、お前には妨害罪がつくことになるはずだった。しかしな、王の一案によってお前のソレはなしになった。もっとも、先にも言った依頼を……"国命依頼"を受けてくれること前提になる話だがな」
「国命依頼?」
「国命依頼というのは、国自体が冒険者に対して依頼をするというもの。お前の冒険者パーティ"Halfass"の力を国が頼って依頼をということだ」
おそらくは俺の力というか、フィーナとかラビィとかの力だろう。
まぁフィーナを制御できるという意味ならば、俺の力も確かにって感じだが。
「……その依頼というのは?」
「うむ。その依頼だが――」
そう切り出したガルマさんの話は、単純な調査の依頼だった。
いや大陸を跨いだ依頼になるから本来であれば大ごとなのだが、フィーナという飛行手段がある時点で大分簡易的になるのは仕方のないことだろう。
大陸が離れていると言っても、そこまで離れているわけでもなくただし入るには固く閉ざされし場所というその国、だいたいこちらで言えば2万5千年の時から閉ざされし砂の国、砂国への潜入兼調査をしてほしいということだった。
「砂国? 名前とかは……」
「2万5千年だぞ、もはや名前すらも滅び国も存在するかどうかすら怪しい……が、王としてはお前を含めた戦力や飛行能力などを活用して調査して文明があれば、交渉してほしいということらしいな」
「文明がなかったりした場合は?」
「それはそれで仕方のないことだと、王も諦めてくださるということだ」
その話に俺は、貴族よりも先に王からの依頼かとなんというか微妙な感じになってしまったが、まぁ先の件がチャラになるならと依頼を受けることとした。
それに先ほどよりも剣呑な雰囲気を外し、途端に笑顔となりそうかそうかと喜んだガルマさんの印象が残ってしまった。
そのまま、国命の依頼書となる立派な依頼書にネックレスをかざし、文明があった場合に王からの書状としてこれまた豪華な書状を預かった。
▽
アランの町を治める貴族、ならびに国王はその報告を聞くとまず最初にため息を吐く。先の迷宮都市からそれほど時間が経ってないにも関わらずまた再び問題行動を"あの"冒険者がやらかしたのだ。
竜女王御自らが顕現するという、国王対応をしたばかりなのに、だ。
問題行動――それは貴族に対する不敬罪による処刑執行妨害である。
処刑はその後問題なく執行されたのだが、なぜ執行妨害をされたのか貴族も、そして国王も分かってない。
ただ、妖精の保護下にあるからと例の冒険者を無罪にすることはできない。
それが人間の世界でのルールであるからだ。
事前に妖精女王には事の成り行きを説明しており、承知してもらっている。
処刑執行妨害と言えば、妥当なのが鉱山における長期間……少なくとも数10年ほどの懲役刑が最も適当と言えるものになる。これで執行ができなかった場合は、死刑は間違いなかったがそこは貴族も国王もホッとしたところだった。
「陛下、例の件を依頼としては」
宰相である老人が提案をした。
それは渡りに船とばかりのものだった。
「…そうであるな。余としてもそれで問題ないと思う。では、国命依頼としてアランの町の元締めには話を通しておくように」
「……かしこまりました」
そして、アランの町を治める貴族もその案を了承し、きっと面倒な考えになっているだろうと察知したその貴族はガルマ越しの依頼契約を頼んだ。
深いため息とともに、それを了承したガルマとしても色々と胃が痛んだのはいうまでもないことだった。
△
「シュン様、これは……」
「分かってますよ、リエナさん」
それはリエナによる警告の意味でもあったが、瞬介としてもそれは嫌というほど理解している。自分がとてもめんどくさい立場の人間であるということに。
妖精全体が人間に怖がられているのに、自分はそんな妖精を叱咤したり、止めたりできたりということができることでその扱いはとても面倒なんだろうなということに、だ。
「ガルマさんにもこの依頼が終わったら、また改めて謝ります。リエナさんにもご心配を」
「いえ、いいのです。あなたは冒険者見習いの頃から真面目に依頼に従事してらっしゃるのですから私としても……」
「ありがとうございます」
そう言って、瞬介は協会の外へと出て行った。
そして、宿に帰ると全員を集めて今回の件を伝えた。
反応は様々だが、全会一致で今回の依頼を受けることにしたのだった。
……フィーナは未だ心ここにあらずだったが。