2話「フィーナと少女②」
少女を掴んで、どこにいけばいいのよと尋ねるフィーナに少女は答えた。
「え、えっと……こっち」
するとフィーナは指を指した丘の上のほうにある建物へと飛んでいった。
少女はフィーナが降ろすとありがとう! 妖精さん!と伝え、一直線に丘の上にある木へと走って行った。
ふん!と照れ隠しに腕を組んで向こうを向いていたが、何やら木の下に不出来な石が2つ並んでるのが見え、そこにフィーナが買った花が置かれていたのが気になったため、少女の下まで飛んで聞いた。
「何よ、それ」
「おねえちゃん……わたしに良くしてくれたおねえちゃんとそのおかあさんのお墓なの」
お墓?
それは確か、定命でありながら獣ほどの時しか生きられない人間が作るやつだとクソババアに聞いた気がする。……いや、クソババアだったか?
「ふーん」
興味のないフィーナは、自分が今日1日使ってやったことが何か無駄になったような気がしていた。
なんせ、郷にも咲いてないような粗末な色の花1輪のため――幼生体のためとはいえ――苦労がそんなことのためだなんて思わなかったからだ。
「じゃあね」
すっかり興味を失ったフィーナは、飛んでいこうとした。
そこへ――
「妖精さん! ありがとうねー!」
と言って大きく両手を振って見送ってきた。
フィーナはそんな少女を気に掛けることもなく飛んでいった。
翌日――
「シュンスケ! いい加減依頼とやらを受けなさい!」
「待てよ、フィーナ。俺は力を色々検証しなきゃなんだ」
「くっ……ぐぬぬぬぬ」
「……いいから遊びに行って来いよ。あの少女のとことかいいじゃないか?」
フィーナは、そういえばと思い出したように知らないわよべーっとあかんべーをして、瞬介の下から外へと飛んでいった。
なぜ瞬介が少女のことを知っているのかも気にせずに。
そして昨日訪れた丘の上の木まで飛んでいった。
するとそこには、昨日と同じようにとはいかない感じで少女がもっと粗末な花というよりも草を墓とやら捧げていた。
何をやってるのと声をかけるでもなく、フィーナは飛んでいった。
その日の夜は、綺麗な満月だった。
あれからフィーナは宿に戻って自分のベットで1日中ゴロゴロしては寝ていたりしたためか、あまり眠れずにいた。
ぐっすり寝ている瞬介を恨めしそうに見ながらも、フィーナは外へと出かける。
それは本当に偶然だった。
満月を見ながら飛んでいた時に、何やら厳重に警戒している人間たちの建物を見つけたフィーナが興味を示してそこへと飛んでいった。
警備兵は気づかなかった。
それほどまでに妖精というのは、見つけづらいというかそもそもこんなところには飛んでこないというのが正直なところだろう。
ある場所に来た時、ごほっごほごほっという咳をする音が聞こえてきた。
フィーナはその場所へと行くと、鉄格子からあっさりと中に入り話しかけた。
「人間、こんなところで何やってるのよ」
「誰だ? ……妖精?」
それは満月の光照らされた妖精の羽を羽ばたかせた綺麗な妖精の姿だった。
男はその綺麗さにしばらく見つめていたが、咳払いをして話しかけた。
「君は、妖精なのか?」
「そうよ、人間! すごいでしょ」
何がすごいのか、男には分からなかったがそうかと伝えるとしばらく何かを考えて粗末な石机に乗ったある物をフィーナのほうにつきだしてあることを頼んだ。
「頼む……、妖精。この手紙を……ある場所まで運んではくれないか?」
「なんでそんなことをこのあたしが!」
頼む……。という人間の男に、フィーナはよく顔を見て死期のようなものを感じた。それほどまでに男の顔色は明らかにおかしかった。
なぜかは分からない。
ただ、フィーナは男の様子から何を思ったのかそれを受け取る。
人間の住む巣の場所は分からなかったが、とにかく言われた場所を覚えたフィーナは瞬介に聞けば分かるだろうとその手紙を持って、飛んでいった。
その場に残され、鉄格子越しの満月の夜に消えていった妖精をしばらく見送った男はそのまま眠りについた。
さらに翌日――
「なんだ? この汚らしい書付みたいなのは」
「ふん! 昨日の夜に――」
といってフィーナは瞬介に事情を説明した。
そして、その場所を聞くと仕方ないなとでもいうように行くぞとフィーナに伝える。
フィーナと瞬介は、その場所に訪れた。
そこは――廃墟と化した廃屋のそれだった。
近くに老人がいたので、瞬介がすいませんと前置きしたうえで聞いた。
「そこには一家が暮らしておったんじゃがな、父親があることで投獄されてから体を悪くした奥さんがしばらくして亡くなって……身寄りのない娘さんがあの丘にある木の孤児院に連れていかれてのう」
ということだった。
「なぁ、その男って他に何か言ってなかったか?」
「知らないわよ!」
と突っぱねられれば、瞬介も困ってしまう。
ただフィーナはあの丘の木かと瞬介とともに飛んで移動した。
瞬介のお前すぐ飛ぶんじゃないという言葉を無視しながら、だ。
孤児院に到着した瞬介たちは、木の下で祈る少女に会った。
フィーナたちに気づいた少女は妖精さん! と言って駆け寄ってくる。
そこに供えられてたのは、またもや粗末な花だった。
「なぁフィーナ、もしかして……」
「……知らないわよ!」
そう言って飛んでいくと、瞬介は仕方ないなとでもいうようにその場に留まって手紙を見せた上で少女に話を聞いてみるのだった。
その頃、飛んでいたフィーナはある話を聞いた。
それは――明日の昼に人間たちが処刑されるという話だった。