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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
第三章「砂国の冒険」
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1話「フィーナと少女①」

町に入るまでずっと眠っていたフィーナが起きた。

定宿としているミーティアさんの宿で。


「ちょっと! なんでもう着いてるの?」


「……お前がぐっすり寝てたからな。いいじゃないか、よく眠れたんだろ?」


その答えに納得がいかないのか、ぐぬぬと言っては自分の巣であるテーブルにある妖精用のベッドに向かった。

ゴロゴロとしていると、もう飽きたのかフィーナは起き上がりどこかへでかけようとした。


「どこ行くんだ?」


「飛んでくるのよ! いちいち、うっさいわね」


「いいか、人間とか言って見下して偉ぶったりして、迷惑かけるなよ」


「ふん!」


そう言ってフィーナは宿の窓から、飛び出していった。


「さて、俺は力の使い方を考えないと……」


こうして、俺とフィーナは別々の行動をとるのだった。







「まったく! シュンスケはうるさいのよ!」


フィーナは、瞬介の愚痴をいいつつ適当に飛んでいた。

そんな中、とある店屋でのやり取りがフィーナの目に留まった。

やり取りしているのは、少女と店主だった。


「あ、あの……ど、どうしてもだめですか?」


「悪いが、こっちも商売でやってるんだ」


興味を覚えたフィーナは、そっとその場に近づいて話しかけた。


「人間! 何してるの?」


「あぁ? ……うぉ、あんたあの冒険者の」


フィーナの噂は町に住まう者ならば誰でも知っている。

妖精使い(フェアリーテイマー)の飼っているとある冒険者の噂だ。


「よ、妖精さん?」


だが、少女は知らなかった。


「ええ、そうよ! 幼生体! で、なにしてるの?」


「……金が足りねえんだ。だから、花を売れないって」


「……」


がっかりしたように少女が項垂れるのを見て、少女に見える形でフィーナはふん!とでも言うように店主に言い放った。


「よく分からないけど、人間! こんな幼生体からお金を巻き上げて恥ずかしくないの!」


「いや、俺たちはそうやって稼いで生活してるんだ……無茶言わんでくれ」


「人間の成体なら、幼生体にくらい優しくしたらどうなのよ!」


それは、大人と子供ということを伝えたいというのだろうと気づいた店主が、ため息をついて応える。


「あのな、妖精さんよ。優しさで飯は食えねえんだ。あんたの主人も、依頼をこなして飯食ってるんだろ? ……そういうことだ」


「ふん! 知らないわよ、いいから幼生体のいう花とやらをやりなさい!」


と、いつもならごめんなさーいと言ってフィーナに従うはずの人間が違う反応をしてきたのにフィーナは驚いた。


「あんたの噂は聞いてる。……だがな、そんなことしてあんたの主人の名前に傷がついてもいいのか? 妖精を使ってそういうことをしてるって噂がつくってことだ」


「……シュンスケが?」


シュンスケの名に傷がつくと言われ、それならとフィーナはまた別の町に行けばいいと返答するが――


「そうやって町を変えていき、やがて人間の町に暮らせなくなったら?」


「ふん! それなら妖精郷……あ」


妖精郷に住まわせるわよと言いかけて、やめた。

それは禁忌だからだ。


妖精郷というのは、妖精たちの園。

そこに妖精以外が入ることは例えどんな事情であったとしても、許されない。


「……なんかよく分からんが、答えはでたみたいだな」


といって買わないならあっちに行ってくれと少女とフィーナを手で追い払う。


「くっ! ……いくわよ、幼生体!」


そう言って少女の手を掴んで、飛んでいった。




そして向かった先は――


「シュンスケ! 金とやらをよこしなさい!」


「はぁ?」


瞬介が泊っている宿の部屋である。

フィーナは、瞬介がお金という人間が使う物を持っているのを支払うところを見ていて知っていたからだ。


「どういう事情があるのかしらんが、よこさないぞ」


「なにいってんのよ!」


「……いいか? フィーナ。お金ってのは働いて稼ぐもんなんだ。それをよこせと言って渡したら場合によっちゃ犯罪――ああっと、禁忌に触れることになる」


「禁忌?」


それはフィーナの知る郷の禁忌と同義だと思った。


「……ならその金とやらを稼ぐという方法を教えなさい!」


というわけで、今度は少女を掴んで向かった場所は協会だった。

少女にしてみれば町中を飛ぶことに最初は喜んだが、何やら妖精さんが変なことをしていると知って戸惑うくらいの心境になっていた。


「人間! あたしが冒険者になってあげるわ!」


―おい、あれって……

―ああ、あれが妖精使い(フェアリーテイマー)の飼ってる妖精だ。手を出すな


というざわざわとした空気を気にせず、いつも瞬介が話しかけているリエナに声をかけた。


「そ、それでは……登録のために――」


と言ってなんでもないように剣ほどもある針を器用に自分について冒険者登録をした。


「あの、もしよければ……シュン様のパーティに入るということは……」


「シュンスケのパーティ? よく分からないけど、入ってやるわ!」


ということで、瞬介の知らないところで新たなパーティメンバーが加入した。




協会の外で置いてけぼりになっている少女にフィーナは飛んで出てくると声をかけた。


「喜びなさい! 幼生体! これで金とやらを稼げるわ!」


そう言うとまた少女を連れて、森のほうへと飛んでいった。

そしてここで待ってなさいと言われる場所で放置すると、フィーナはどこかに飛んで行ってしばらくするとでかい熊が空を飛んできた。

いや、よく見るとそれを抱えてる妖精・フィーナが帰ってきた。


片手に熊、片手に少女を掴んでまた飛ぶと、協会のほうへと向かいそこで熊と少女を出してリエナに話しかけた。


「人間! これでお金とやらが手に入るのよね! さっさとよこしなさい!」


「ビックベアーは了承いたしますが……こちらの少女は?」


「ふ、ふん! さっさと金とやらを渡しなさい!」


それでは手続きをしますので、と言ってリエナがその場を後にするとフィーナは後ろに冒険者が並んでるのも気にせずに飛んで待っていた。


その後は、受け取りの際はあちらの椅子にかけてお待ちくださいねと言われたが、それをスルッと無視してフィーナはお金を受け取ると、少女をまたまた掴んで今度は先ほどの店主のところへと飛んでいった。


「人間! お金を持ってきたわ! これでこの幼生体が欲しがってる花をよこしなさい!」


「もう、閉店なんだが……。わかったよ、ちょっとまってな」


そうして店主が奥から花を1輪持ってくると、一緒にいて戸惑っている少女に手渡した。


「これで文句はないわね!」


そう言って手持ちのお金を全部渡すと、また少女を掴んで空を飛び始める。




「お、おい!これはもらいすぎだ!」


妖精にとってお金とは食べられないし、郷の外に滅多に出ないことから金銭感覚は無きに等しい。つまりゼロなのである。


店主は、困った顔をして飼い主である瞬介に返そうと心に決めたのだった。



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