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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
第二章「現実世界の依頼」
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7話「解決と説明と」

そこから先は覚えてなかった。


気が付けば、俺は目の前の男を思いっきり殴りつけてそのままひたすら殴りまくっていた。


「てめぇ!!!よくも母さんを!!!!」


目の前でヒキガエルが何度も殴られ、苦しそうに呻いているがそんなこと知ったことじゃない。俺は"殺す"勢いで半減した状態であっても全力でその男を殴り続ける。だが――


「瞬介! やめなさい!」


そんな俺にストップをかけたのは、倒れたはずの母さんのほっそりした手だった。

何やら腕を抑えているが、無事だったと安心した俺はようやくそれに気づき、母さんに抱き着いた。


「母さん!! 無事で……無事でよかった!!」


「瞬介、あなた無茶をして……」


「はぁ~良かった。瞬介くん、大丈夫。君のお母さんの腕をかすっただけだから」


「瞬介さん」


俺に安心するようにさらに声をかけてきたのは、悠人明花兄妹だった。


「わ、悪い……取り乱した」




そこからは至るところで騒ぎが起こっていた。

だが、そんなことはどうでもよく俺にとっては母さんが撃たれながらも無事だったというだけで、本当にどうでもよかった。


建物を出ると周囲を囲うように、パトカーやら護送車などといった警察車両で埋め尽くされていた。そんな中でこの場に似つかわしくない軽い言葉が俺にかけられた。


「瞬介! うまくいったな!」


「あ、ああ……はぁ~」


俺は、とあることで非常に気まずい思いをしていた。

そのことを思い出したのか、悠人たち兄妹に母さんまでもクスクスと笑う。


「……? なんだい? 何笑ってるんだ?」


「……なんでも……ない」


そんな俺たちのところへある人がやってきた。

それは――


「この前も"今回の件"でも……どうも、瞬介くん」


誠太の家で見かけた顔、優奈ちゃんと一緒にお見送りをしてくれた誠太の母親。

そう、何を隠そう誠太の母親は――


「あ、どうも。刑事さん……いや、誠太のお母さん」


女刑事さんだったのだ。




作戦の概要はこうだ。


俺が単身で向かったかと思ったかに見えたが実は、俺の力が及ぶ範囲で存在感を半分にした悠人と明花についてきてもらっていた。

そして角を曲がり、やはり単身で建物の門の前に現れた。


監視カメラの類は、誠太によってハッキングされて俺1人のみの映像を事前に撮ってもらっていたものに差し替えておいたし、その他のカメラも事前にハッキングを済ませたなんでもない映像を映し続けたものに差し替えていた。


あの時、俺が門の向こうへ投げたのは念のために男たちに気をとらせ、悠人たちが門の中へ入るために仕組んだ行動の1つだ。

わざと足跡を響かせたのもそれ。


そして、母さんの無事を確かめるために1人で来たと伝え、相手の油断を誘ってあっさり母親を捕らえていることを男ともども姿を現れさせたのだ。

まぁこれでダメだったら母さん!と呼んで、強引にその場を押えようとしたのだが。


押えるというのはもちろん、証拠だ。

俺が殴られ、俺が目立っている間にソッと忍び込んだ悠人と明花にスマホで映像を記録してもらうという作戦のためだった。


それを素早く、メールで送りそして誠太の母親である刑事さんに誠太が事前に家にいてもらって号令をかけられるようにして、そしてそっと周囲を警察車両で囲った。


男たちが母さんと呼んで近づくのを抑えるのを阻止したのは、映像を送り終えた悠人たちだ。


予想外だったのは、いきなり母さんに向かって発砲したことだ。

これには全員引いたのは間違いないことだろう。


そんなわけで事情聴取やら、何やらを終えた俺は今両親の前にいる。




母さんの腕の処置は以外と早く済んだ。

掠ったといっても銃創は結構深くまでいってるはずだったが、なぜかそれほど大したことがない状態だったらしい。


そんなわけで帰宅し、事情を聴いた親父とともに今テーブルに向かい合っていた。


「全く。母さんから事情を聞いた時はびっくりしたぞ。……どうしてこう無茶を」


「も、もちろん母さんを助けるためで……」


「瞬介!」


俺はその叫びとも言える叱責の声に、ビクっとなって黙った。


「お前の気持ちは分かる。俺だってそうしただろう……だがな、お前がそんな無理をして何かあったら……俺は俺が許せない!」


そうやって怒鳴る親父を見るのは初めてのことだった。


「ごめん……なさい」


俺は、俺のために叱ってくれていると分かっているからこそなんだか泣けてきていた。母さんも泣いてるし、親父だって涙で溢れていた。


「……いい。反省してるならそれで。いいか?もう無茶を――」


「そ、そのことで話が」


俺は、親父や母さんの疑問的な顔を見ながらも、両親からすれば荒唐無稽である異世界のこと、そして自分に備わった力のことを話し出した。

嘘偽りなく一切の真実を、真面目に。


両親は、疑問的だったが俺が話すのを止めようとせずに話を続けさせてくれた。


今回の件、母さんが攫われそれを奪還しようとした作戦も俺の力を利用したものだと言って俺は一連の説明を終えた。




「そうか」


親父はそう言うと、分かったと一言だけ伝え母さん風呂に入ってくるよと言ってその場を後にした。


信じてもらえなかったかと話したことを後悔したが――


「あの人ったら……ふふふ」


その言葉に俺は母さんに視線を向けた。


「大丈夫よ、瞬介。信じるわ、もちろん」


俺はその言葉に再び謎の涙を流すのだった。


その時丁度考えていたことが、異世界側で起こっていたこととリンクしているとはこの時はおろか、その後も知ることはなかった。

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