5話「攫われた母親」
「瞬介くん!」
「瞬介!」
俺が駆けだそうとするのを、2人が抑えた。
「は、離せ!」
焦った俺を両手で軽く叩くと、悠人が言った。
「君の気持ちは痛いほどわかるが、今焦って飛び出しても仕方ない!」
「そうだよ、瞬介! まずは家に入ろう」
「そ、そうだな……悪い」
俺は悠人の声に落ち着きを取り戻して、まずは家の中に入った。
その上で手紙をよく見ることにしたのだが――
「……瞬介くん、君もしかして……」
「あ、ああ。悠人には言わなかったんだけど――」
と、俺はあの組織の建物の前で写メを撮ったり、建物を撮ったりしたことを明かした。それを聞いて2人はため息をつく。
「瞬介……それはさすがに」
「……はぁ」
何か悪いことをしたんだろうか。
と思っていると、説明された。
「最近のテレビのニュースで、あらゆるところに監視カメラが設置されてるのは知ってるよね?」
と言われたので、俺はああと頷く。
それに付随する形で、誠太が付け加えた。
「つまり、あの建物――特に怪しいことを企んでたり、腹を探られたくない連中ってのは監視カメラを四方に付けてるもんなんだよ」
ってことは……。
「……堂々と建物の前でっていうのは」
「そう。つまり、君の映像が――力のことがあるかは分からないけどちゃんと残ってるってことだよ」
――じーっ
何か視線を感じると思ったら、誠太が俺にスマホのカメラを向けてパシャっと撮った。そしてスマホをいじってしばらく見ると、やっぱりかと俺たちにそのスマホを見せてきた。
「なんだ?」
俺と悠人がその画面を見ると、俺が驚いた顔で映っていた。
ただなんか映像が薄いというか……鮮明という感じの映像ではなかった。
「これも瞬介の力だよね? ……ちなみにこのスマホ最新式だ」
「ちらついているような……何か存在感が薄く感じられるような映り方だね」
「ああ」
「多分だけど、だからこれだけ時間がかかってようやく身元が分かって実行に移してきたって感じがする」
母さんを攫ったやつに、憤りを感じてしまうが今はグッと我慢をする。
時間が結構経っての行動ってことはそういうことだろうと俺も思う。
にしても、親父を連れてってどういうことだろう?
「父親――つまり、金の成る木をってパターンだね……」
「金の成る木?」
「つまりこういうことだろ? 瞬介の親父さんに大金と引き換えに母親を交換と」
「親父までダシに使うのか!」
俺はまた怒りが沸いてくるが、落ち着いてという言葉に俺はまた頭を冷やすことにする。だめだな、家族が関わってくると昔から俺はキレやすいというか……。
「ともかく、君の母親を取り戻すという作戦を考えよう」
「そうだな。おいらも今回の件はちょっとやりすぎだと思うし」
「お前ら……ありがとう」
そうしてその日の夜は、俺の家で作戦を練ることにした。
途中で親父が帰ってきて、母さんのことを尋ねられたが何とかごまかしてママ友のところに泊まってることにした。
この件で、親父を巻き込めない。
なにせ今回の作戦、親父は一切関わらせないことが決まっているからだ。
そして翌日――
誠太は、学校に来ていない。
それは今回の件で家にいるからだ。
悠人もあることで合流はしない。
俺は、そのまま授業を受けそしてそのまま帰宅した。
そして電話をかけると――
「付けられてたね」
と、悠人が報告してくれた。
どうせ奴らのことだからと悠人が学校を休んでまで、俺の後をつける奴を探ってもらったのだ。そのおかげで俺に尾行が、親父にも尾行が付いていたのが分かった。
恐らく奴らの手先が、今もまだ俺の後を付けている可能性がある。
だから――
「よし、決行だ」
俺は初めて意識して、自分の存在感を消すようにしてアパートの窓から降りた。
そしてそっと靴を履いて、そのままアパートの敷地外に出て、周囲を見渡す。
何やら黒い車が不自然に止まっていて、俺のアパートの部屋を監視しているのが見えた。
成功だ。
俺はそのまま奴らをやり過ごして、誠太に電話をかけた。
「監視の奴らにバレずに抜け出せたぞ、そのまま奴らのあの建物まで行く」
「おっけー、こっちも準備はできてるぜ」
「悠人のほうにも連絡をよろしく」
「まかせろ!」
電話を切ると俺は深く深呼吸をして一路、数日前に向かった建物への行先を検索してから向かうことにしたのだった。