15話「それぞれの事情」
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そこは、緑あふれる光の地。
森と水とが綺麗な風景を映していた。
そして、妖精たちがお互いに何があったかどうかなどを話合う場。
妖精郷。
妖精女王の治める不思議な空間である。
条件を満たした来客というのは頻繁にあるが、この日は格別の存在が現れた。
全身白に包まれた女性で、そのそばに黒い褐色の少女がいた。
「こ、これは……竜女王陛下!」
すぐに飛んできたのは、妖精女王の側近だった。
「ええ、うちの娘が"そちら"に迷惑をかけたのでお詫びに来た次第です」
「さ、さようで」
『いいのです。竜女王、よくいらっしゃいました』
そうして転移してきたのは、妖精女王その人であった。
「竜女王などと、昔のように名前で呼んでいただいても構いませんのに」
そう言うと、妖精女王はクスっと笑顔を浮かべるとお互い立場というものがあるでしょう?と返す。
その言葉に竜女王は、笑顔を浮かべそうですねと返すと居住まいを正し、スッと頭を軽く下げた。
「今回、うちの娘があなたのところのフィーナにご迷惑をおかけしたようで、本当に申し訳ないです」
「も、申し訳ありません~」
すでに竜女王が何かしらの罰を下したのだろう、竜王女は相当な凹みようだった。
『いえ、うちのフィーナもあなた方に大変失礼な態度を取ったと思いますので、これでこの件はなしということにいたしましょう』
と笑顔で口元を抑えて、返答した。
「そう言っていただければ幸い。……下らぬことで妖精族の方、並びに精霊の方々と争いが起こるのはこの世界においてよくはありませんので」
『あなたが、健在なうちは大丈夫ですよ』
その言葉に竜女王は笑みを浮かべ、それから疑問を発する。
「そういえば、かの国のかの人の都市にはあなたの姉上であらせられる精霊女王の御恩人がいらっしゃるとか?」
『……ええ。ちゃんと仕事をこなしているか心配しておりましたが、"今回"もきちんと役割を果たしたようで安心しました』
妖精女王は、全てを知っているという感じで伝えると竜女王はそうですかと返し、再び疑問を浮かべそれを伝えた。
「そこまで大事なのであれば、この郷で囲えばよろしいのでは?」
その言葉に、妖精女王は真剣な表情で伝えた。
『……いくらあの方であっても、それはできません。ここは我ら妖精の国、そこに入るには妖精でなければなりません。それに……姉はすでにその禁忌を犯してしまった身です』
「!? ……あの御方が?」
そこには意外性以外の何ものでもない感じの驚愕が含まれた声色だった。
『……ええ。私はそれを止めることができませんでした……しかも、今も姉はその罰を受けながらもかの方を』
「そうですか……」
妖精女王、そして自分の母親である竜女王の話。
それらの話の内容は分からない竜王女であったが、何やら重要なことを話していることは理解できただが、未だ色々と痛い話をされそうなので竜王女はそっと耳を塞いでおくことにした。
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ルインズさんたちと合流した俺たちだったが、フィーナが組織のボスであるワルガンを一方的に殴りに殴ってそれを止めたことで俺がまるで畏怖されてるかのような、あの協会の時のような空気に包まれた。
気まずい思いをしているのを察したラビィさんが、お二人で先に出られてはと言われたので俺とフィーナはフィーナによる掴み飛行でお先に外へ出ることにした。
ただしその方法は、言わずもがなブチ抜きである。
そして――数日後のこと。
宿でゆっくり休んでいた俺のところへと来客があった。
それは、"奈落の輝石"のルインズさんと"落石の雷"のリーダーさんたちだった。
「えっと、わざわざ来てもらってすいません」
「構わないよ、こちらこそ最後まで見つけてあげられなくて申し訳ないと思ってるし……それで容体はいいのかい?」
「無茶しやがったって聞いたぞ、大丈夫か?」
丁寧に、そして乱暴に心配してくれる2人に申し訳なく思いながらも、大丈夫ですと応えると今回呼びだした理由を伝えることにした。
「あの、お二人ともうちのフィーナのせいで武器を壊されたと聞きました。なので、その代わりと言ってはなんですが……」
そう言うと、ベッドの逆側から今回手に入れた猛火の剣とエルダードワーフのつるはしを2人に差し出した。
「これ、君……もしかして」
「こりゃ、超レアな鉱物資源採取道具じゃねえか!」
「ええ、ちょうどいい感じでお二人の失われた武器に合ったものを今回俺が手に入れたので、フィーナがご迷惑おかけした分のお返しにでも……と」
俺の言葉に何か思い出したのか、暗いため息を吐くとまぁとハモっていた。
いや本当に申し訳ない。
「悪いね、君の収穫物なのに……」
「こっちもだ。助かったぜ!」
「いえいえ、それで……」
あの後というか、組織のボスとかこの都市の責任者の件を聞いてみた。すると、
「今回は起こらなかった――いやまぁ、それ以上のことが起こって上から下への大騒ぎになったがその責任の全てをワルガンの野郎や都市責任者におっかぶせることに決まったようだ。王国のお偉いさんが気の毒な顔でやってきたぜ」
「何せ黒い大きな竜がきたというんだからね、後で僕たちも聞いてびっくりしたくらいだよ」
どうやら悪は滅びた、ということらしい。
黒い竜とやらについては、フィーナからも事情を聞いていた。
何やら古い付き合いがあり、昔からの腐れ縁というやつらしくて、その王女様が毎回チョッカイをかけてくるというはた迷惑な竜だということだ。
……ちなみに起こらなかったというのは、妖精女王による天罰のことだった。
更地になり、そこに住まうもの全てが嘆く木と化するという例のヤツである。
彼らというか、この都市に住まう者たちにとってそれが一番の脅威ということだ。
「……よ、良かったですよね。いや本当に」
まぁ、妖精女王から直接今回は何も致しませんと例の珠を通してすでに知っているので、ごまかすしかない。
そんなことを話して礼を言われた後、また旅立つ時に声をかけてくれと言われたので了解の意思を示して彼らを見送った。
その後迷宮令嬢の2人が来て、先ほど行われたという"処刑"について聞かされた。
俺を迷宮の転移トラップにハメたあの冒険者パーティたちの裏切り者たちは、ある組織のボスというワルガンの手駒だったという。またこの一連の動きはどうやらフィーナを手に入れるために行ったことだったと知った。
《妖精の枷》と呼ばれる古代アイテムを迷宮で手に入れたワルガンは、その効果を知ってずっと妖精を狙っていた。それが今回破格といってもいい暴力妖精ことフィーナ。すぐに"奈落の輝石"及び、"落石の雷"に忍ばせた者たちを動かして、大規模迷宮攻略を実行にうつした。迷宮都市の責任者はすでに買収済みで、国からの干渉もないし、自由に動ければ妖精を隷属化できると踏んだそうだ。
実際あいつ、あれからずっと隷属化されてやがったらしい。
それに対抗できていたのも、ワルガンのやつが余裕を気取って日が暮れるまで戦えば次の日に持ち越しというルールを設けたことによることとのこと。
……だよなと思った。
何せ自分がそばにいるだけでも、あれだけの怪力だし隷属化して自由に戦えるあいつに勝てるやつなんていないだろう。実際、あの迷宮のラスボスも引きちぎってたし。
そんなわけでしばらくは持ちこたえていたみたいだが、武器や防具なども破壊されどうしようもないことになった時のこと、あいつを覆ってた紫色の光がはじけ飛び、急に俺の名前を叫んだかと思ったら地面へと突っ込んで……そして俺の下にやってきたらしい。
な、なんだあいつは……。
「それで、わたくしもフィーナ様の後を追ったというわけですわ」
「そ、そうなんですね……」
いや、本当にご迷惑をおかけしましたと伝えると、ふふと上品に笑った。
「いえ、逆に決断ができたので……どうぞ、今後はわたくしもお連れいただければ」
そう言うと、カテーシーをして俺に礼をしてきた。
……。
え?
……こうしてなぜかラビィさんとリンスさんが仲間に加わった。
そして、また数日後――
俺たちは元の町に帰還することになるのだった。