13話「フィーナvs???」
それは人々にとっての悪夢だった。
全人類の悪夢と言えばいいほどの出来事だったと、その場――迷宮都市にいた者たちは後に語った。
▽
「もう! こんな時にめんどくさいわね!」
と迷宮都市上空まで登って、ある一点を見つめながらフィーナは呟いた。
そこへ――
黒い巨躯を持つモノが飛来してきた。
「久しぶりね~!フィーナァ~!」
それは、周囲にも聞こえるほどの咆哮だった。
それに気づいた都市に住むものは空に浮かぶ巨躯に、悪夢だと感じた。
特徴的な翼にありえないほどの覇気を纏った人類など到底叶うはずもない遥か天上に住まう種族――竜種である。
悲鳴、怒号あらゆる声が都市から聞こえてくるがそれを気にせずにフィーナと巨躯の黒い竜は話続けた。
「あんたもしつこいわね!」
「私の目標はあんただもの~、ふふふ~王女としても……敗北は許されないのだわ~!」
ガアアー!と聞こえたその声だけで、周囲の建物が突風によって吹き飛ぶ。
信じられないくらいの力を備えた咆哮にフィーナは、シュンスケのいるであろう方向に目をやると、その瞬間――
黒い竜の頬に一撃をかましていた!
その衝撃に、竜はたまらず吹き飛んでいき、ある程度吹き飛んだところで、翼を使って制動させるとブレスを吐き出す。真っ黒な炎のそれは上空にいるフィーナへの攻撃であったのだが、その燃えカスはまるで溶岩の噴煙のように都市へと降り注ぎそれが火事を引き起こした。
急に消えた竜に安堵する住民たちだったが、急な真っ黒い炎のブレスが見えたと思ったらその燃えカスが自分たちの住宅に火をつけたのだ。
その混乱ぶりは半端じゃない。
「何よ、その攻撃! あんたにしては弁えた攻撃じゃない!」
「うるさいわね~、あんたとの"こないだ"の傷が癒えてないのよ~!」
「ふん!」
竜の言葉を鼻で笑うと、フィーナはまた再び黒い竜に突っ込んでいっては容赦なく殴りつけていった。その攻撃は衝撃だけで地面を穿ち、木々をなぎ倒し余波だけで都市へと暴力的な突風を引き起こした。
「やっぱりあたしの力ってこれよね! ふふん!」
フィーナはそんな感じで、半減されていない状態の自分の攻撃力にニマニマとしそして黒い竜が自分の攻撃で墜落したところを見た。
「ガ……ガハッ!」
黒い巨躯の竜は、フィーナの攻撃によってすでにボロボロだった。そこへ――
もっと大きな巨躯を持つ竜が、転移をしてやってきた。
その巨躯は迷宮都市の住民全ても見ており、全員が絶望した。
転移してきた竜のその白い鱗は、太陽の光すらも取り込んでなお一層美しい輝きに満ちた光を宿していた。
「ゲッ! ……クソババアの差し金!?」
フィーナは、その白い竜の出現で今の自分の状態ではまずいという思いを感じでいた。
いつも好戦的なフィーナにしては本気で勘弁してほしい相手だったのは言うまでもない。
「違いますフィーナ。わがバカ娘を連れ戻しに来ただけです。迷惑をかけましたね」
すると――美しき白い竜は、光溢れる息を吐きかける。
すると、周囲の地形が元に戻り、なおかつ迷宮都市の建物などもまるで時間が逆行するかのようにして元に戻っていった。
もちろん火がついたところもすべて綺麗に消え去った。
「人間たちにも迷惑をかけました。フィーナ、あなたはあなたの護衛対象の元に戻りなさい。妖精女王には後でお詫びを入れておきますので」
そう言って、白い美しい竜は娘とされる黒い竜を咥えると、その場から消え去ったのだった。
「ふ、ふーん! ……ハァ……あ、あいつだけはヤバいわ。ってそうだわ、シュンスケのバカは大丈夫でしょうね!」
先ほどまで一方的な戦闘を繰り広げていたフィーナが若干焦った声で呟くと、元に戻った迷宮をまたぶち抜いてシュンスケの元に戻るのだった。
迷宮が誰にも聞こえない悲鳴を上げたのはいうまでもない。
△
何やら上が騒がしいと休憩していた俺は、自力で立つと様子を見ていた。
だが今は戦利品の回収だ。
とりあえず、燃える剣とかつるはしとかを回収しなければと歩いていった。
「なんだこれ……」
フィーナが暴れた後の酷いこと。
そこら中に色々な色のゴーレムが転がっているし、何よりラスボスらしいゴーレムの姿は作り物とはいえ見るに堪えないほど引きちぎられ飛散していた。
それらを通り抜けて先ほど剣やつるはしを回収しようと近寄っている途中のことだった。
誰かが2人ほど上のほうから降りてきた。
おそらく冒険者の誰かだろうと思っていた俺だったが、それらはメイドとお嬢様たちだった。
「シュンスケ様、ご無事でしたのね」
俺は彼女たちのボロボロな姿に、痛む体を堪えて慌てて近寄った。
「いやいや! 2人のほうがボロボロじゃないか、大丈夫ですか?」
「ええ。それにしても、迷宮を攻略されたんですのね」
「いや、俺じゃなくてだいたいフィーナが……なんですけどね」
俺なんて最初の木、石、鉄くらいのものだ。
あとのメダルシリーズから宝石シリーズ、ラスボスまで全てフィーナがやったことだった。
「……正気に戻ったようで何よりでしたわ。それで、宝珠は?」
「ああ、宝珠はなかったですね、たしか……ほら、宝箱です」
その言葉に、ラビィさんはため息をつくとそうですかと呟いた。
とそこへ――
真っ白い光が差したかと思うと、フィーナが落ちてきた時の瓦礫が戻っていくように上へと向かっていった。
俺の周囲だけゆっくりとだが。
「うわ、なんだ?」
「なんでしょうね……とんでもない力を感じますが」
そうしてしばらくすると、ゴーレムたちはそのままにあとは全て元通りという感じになっていた。
謎の光で出口が塞がってしまったのだが――
――ズガーーーーーーン!
という音とともに、またフィーナが現れた。
「お前は門とか扉とかを使って入ってこないとどうにかなる家訓でもあるのか!?」
「うるさい! ……で、そいつら何……?」
「ラビィさんたちだろ、いい加減覚えろよお前……」
相変わらずこいつは、俺以外の人間を覚えない。
とまぁそんな感じでフィーナがブウブウ言いながら俺の近くに来たので、剣とつるはしを回収した後ラビィさんたちとともに中央の宝箱のところまで行くことにした。