11話「最深部での戦い」
「ようやく、それっぽいのを見つけたけど……つ、疲れた」
先ほど、何度目かの転移トラップを潜り抜けた俺は、宝箱から謎のつるはしを手に入れてそして今この場にいた。この立派な門の前に。
その高さは2mを超えるオークですらもやすやすと入れるほどの門だった。
門に描かれているのは何かを掘り起こす人々の意匠が施されている。
そこへ来た俺はと言えば、ボロボロになった冒険者風の服に燃える剣と先ほどのつるはしを背中に括りつけ、腰ひもには水差しを括っていた。
こんな状態の俺で、果たしてこの……最深部っぽいところをクリアできるんだろうか。
これまでの疲れを労うように、俺は水差しを出して体を洗うことにした。
なぜかここまでの間――つるはしを手に入れるまでの間――魔物っぽい気配がないためである。なのでゆっくりすることにした。
体力回復が人の倍の時間がかかるのだ。
あの小部屋でも休めたが、そこからも自分じゃ次元違いの魔物たちからは逃げるしかなかった。ちなみに状態異常は水差しの水を飲んでればなぜか治ってた。
治るのも倍の時間がかかったわけだけど。
「さてと……いっちょやってみるか」
もはやここまで来て、フィーナを待つというよりもせっかくここまで来たのなら攻略したいという恐怖心すらも吹っ飛んだ状態だった。
勝てるとは思ってないが……ここに居てもあいつは来ない気がするし。
だったら当たって砕けろってやつだ。
「よし」
そうつぶやくと、俺は立ち上がり門に手をかけた。
すると特に何の力もなく、ゆっくりとあいていったのだ。
本当だったらもっと早く開くんだろうな、きっと俺の力の範囲だからだろうと思いつつそのまま待った。
そして、開ききったと思い中へと入るとまずその空間の広さに驚いた。
吹き抜け式のショッピングモールなんて目じゃないくらいの高さと広さ。
だがしかし、中央に見えるのは何やら並んでいるものたちが見える。
そっと中に入り、俺は中央に向かって足を進めた。
すると門はまるで俺が逃げるのを阻止するかのようにゆっくりと閉じていったが、
ある地点まで俺が離れるとその閉じる速度は急激に増した。
ああ、そうか。
効果範囲があるのか。
ということを暢気で考えて、俺は中心に向けて歩いていく。
そこへ急に暗闇の中だったその空間に光が差した。
といっても、中央にまるでボーリングのピンのような並び方で並べられた木製の何かにだ。
「なんだあれは?」
俺は背中から剣を抜いて、構える。
剣道でいうところの正眼の構えである。
準備が整ったのかというように、中央の一番前の木製の何かが立ち上がった。
それは――
体長2mくらいの人形、いや……あのなりはゴーレム?
実際に見るのは初めてだが、ゲームなんかではお馴染みのミシミシという音を響かせたゴーレムだった。
もっとでかいかなとも思えるほどだったが、その大きさはゴーレムにして小さいと感じた。
そんな木製のゴーレム、ウッドゴーレムはいきなり襲い掛かってきた。
まぁ、いつものように俺の力の効果範囲に入るとその速さは半分になったが。
と、ぼーっとしてる場合じゃないと俺は急いで門の側に逃げながら思いっきり剣に力を入れた。ある種の賭けだが、うまくいけばこの戦い俺の勝ちだ。
奴は俺を追ってくる。
ハーフリンカーの力の効果範囲のギリギリを見極めて、俺は振り返ってその剣の刃の部分を持って思いっきり投げるとまたすぐに全力で走り始めた。
振り返ることなどせずに、全力で、だ。
門のところへと辿りついた時に振り返った俺は、賭けに勝ったことを確信した。
そこにあったのは剣が突き刺さり、炎によって燃え盛るゴーレムが止まってしまったからである。
「はぁはぁはぁ……やった!……って、まだなんかありそうだけど」
ボーリングのピンは、先頭に1つ。
そして2列目も3列目もある。
……。
…………。
「はぁっ……はぁっ……!」
走り込みやっててよかったと思いつつも、それでも足りない体力が恨めしい。
やっぱりあった2戦目。その相手は、2体のストーンゴーレムだった。
しかもさっきよりも、でかい。
その体長は3mくらいだ。
それらを俺は、さっき拾ったつるはしでなんとか撃退した。
わりと長い時間をかけて。
2体までの相手は、東郷兄妹との実戦でなんとか出来た感じだが、もちろん半減の力も加味されている。
動きで翻弄しつつ、つるはしを剣に見立てて面やら胴やら小手やら、色々やったりした結果何やら分からない文字が掛かれているところを削り取った瞬間に、ストーンゴーレムの動きが止まったのだ。
おかげで合計3体のゴーレムを倒すことができたのだが――ちょっと時間をかけすぎだし、自分の体力を削りすぎた。
しかしそんな俺の状態にお構いなしに次のゴーレムが起動してきた。
今の足りない頭でも考え付く3匹のアイアンゴーレム対策のために、俺は急いで燃える剣を取りに走った。もはや、体力は限界という感じだったが……。
燃えカスとなったウッドゴーレムから剣を引き抜くと、その場で俺は休憩をする。
ただ全てが半分な力はメリットもデメリットも併せ持っているので、少し休憩をしたらすぐに奴が立ち上がるまでに中央へと向かっていった。
半分というのは、立ち上がるまでの時間も含まれているのでその時間を無駄にしないためにである。
これぞあらゆる事象も含まれているがゆえの結論だ。
ゆっくりと立ち上がるのを待ちながら、水差しの水で喉を潤し休憩をする。
そして立ち上がった瞬間に俺は、握力を最大限に込めて剣を握りしめた。
――キーン!
体長4mほどのアイアンゴーレム3体が立ち上がったと同時に斬りかかる。
俺の体力では斬れるとは思ってない。だから逃げる。それを繰り返す。
体長も4mになると、腕を使わず敵は足で攻撃をするほうが多くなっていった。
故に動きが単純で分かりやすいが、俺のほうもそろそろ限界に近いというかもうすでに限界突破状態になっている。
「全力だったらすでに死んでるなこれはっ……!」
あらゆる半減で未だ、戦えている状態に自分で自分を褒めなんとか切り裂くことはできずともにアイアンゴーレムたちの温度を上げていくために、握りしめては斬りつけ、避けて、握りしめては斬りつけて逃げてを繰り返していく。
もはやサウナ状態になるほどになってくると、あとは――水差しに手を伸ばす。
そして、水差しをアイアンゴーレムたち全体にかかるように投げつけた!
すると――
――ドーン!
という水蒸気爆発とともに、アイアンゴーレムたちは爆発するのだった。
俺をも巻き込んだ爆発は威力が直に来るかと思うだろうが、半減の力のために爆風も威力も全てが半減して襲い掛かってきた。
だが、俺としてもこれで終わりというならばという謎の決断力で実行に移した。
並んだゴーレムの数はこれで全部。
あとはもうない!
吹き飛びながら、色々なところに鉄の破片を受けながらも俺は転がって勝ちを確信するのだった。
……しかし、俺はあるものを見たことで自分が如何に考えが甘いことだったかに気付いてしまった。
広い部屋の中央、まるでボーリングのピンを補充するかのように5列目、6列目、7列目という感じで"ゴーレムたち"が補充されたのだから。
「つ、次は銅銀金とか……メダルシリーズ……かよ……」
そこには絶望的な光景しかなかったのである。
俺はそこで初めて、毒づいた。
フィーナの野郎、あの世で呪ってやると――薄れる意識の中でそんなことを考えるのだった。