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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
第一章「メイドとお嬢様」
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10話「すれ違う2つの戦場」

瞬介は、まだ生きていた。


体力も限界、体調も先ほど戦った魔物の何かしらのバッドステータスで悪い中だったが。


「はぁはぁはぁ……。毒食らったかな? なんか視界が歪んでる気がする……」


とりあえず、水差しを取り出すと水を飲んで排尿を促して毒を流そうと考えた。

それくらいしか今の瞬介には考えが付かないほど、色々と限界だった。


当然だろう。

彼は、まだ16歳に満たない子供。

そしてラノベとかゲームとかそういう平和な娯楽がはびこる中で育ってきた少年である。それがいきなりの迷宮攻略――しかもかなり奥――で1人きりの戦いである。色々限界が来ても仕方のないことだろう。

故に――


「早くこいよ、クソボケ妖精。護衛なんだろ、俺がヤバいだ、早く来いってんだ。くそーくそーーー!!」


と、精神までおかしくなっても仕方ないことだろう。

だがこれでもマシだろう。なんせ半減されているからである。


恐怖も、精神も、それらに対する負荷もあらゆるものが半減されている。

孤独感も半減されているので、これが全力であるならばとっくに潰れている頃であるのは想像に難くないだろう。


そんな彼は小部屋を見つける。

色々限界だった彼だが、それまでに培った経験で探り安全であると思った途端に小部屋に駆け込んで一息就くことができた。


もはや彼にとっては荷が重すぎるほどに強力な魔物たちが徘徊するエリアにきていたために、一瞬の緊張も抜けない状態だったからだ。


「ははは……、さてとどうしようか……」


もうどれほどの時間が経ったのかすら分からない中で、彼は転移トラップを踏みまくってはフィーナたちのいるところからどんどん遠ざかっているなど知らぬこと。と言っても、半減した知力でも分かるくらいに敵がものすごく強くなっていることは分かっている。


なので、さっきはどうしようもなかったが、ここまではどの敵ともやり合わずに過ごしていっていたからだ。


(俺の想像通りなら、きっとここは下層階なんだろうな……)


それほどまでに敵の見た目から強いのなんのという感じだった。

今の俺が寝たらどうなるんだろうとか、そういうことが考えられるくらいまで回復したと感じられた時だった。


―ガアーー!!


という声とともに、小部屋の扉に突撃する音と魔物の声が聞こえてきた。


「ふ、ふざけるなよ……もう少し休ませてくれ!」


そんな怒号とも悲鳴とも言える叫びを消し去ってしまうほどの声が聞こえてくる。

俺は扉に近寄って入ってこれないようにして扉を抑え込む。

これで向こうにも半減の力が発揮されればいいなという感じで、である。


なんかの状態異常なのか、まだまだふらふらだし体力が全開ということでもないため、こうやって半減にさせれば半分の時間で敵が諦めるかと思ってのことだった。


果たしてその賭けに勝ったのかしばらくすると、それらの気配は消えた。


「はぁーーーー」


ため息でこの場を切り抜けられたことにため息がもれた。

……ていうか待てよ、扉の強度も半分ってことになるからもしかしたら俺はやばかったかもしれないと考えるとすぐにその場を後にして、小部屋の斜め端に移動した。


また襲い掛かってこないとも限らないので、俺は眠ることもできず――そもそも眠気も半減されてるし、眠る時間自体が半分だけど――食欲なども半減してるせいかお腹も半分満たせばいい感じなので、ちょっと寝ては移動を繰り返すということをしていた。


ただ気を抜くと、このエリアでは俺の存在が分かる魔物がいるらしく先ほどみたいに襲い掛かってきたりするので、気は一瞬とも抜けない。


ここに居ても、扉破られたら詰むしもう少し休んだら進むか。




そして、誰もいないのを確認した俺は急いで小部屋から出て移動を開始した。







「くそ、あいつ……完全に心が折れるのを待ってやがるな」


一方その頃、

フィーナに襲い掛かられている方はと言えば、小休憩を取っていた。

"落石の雷"のリーダーが呟いた通り、もはや負けはないと思ったのか組織のボスであるワルガンがある提案をしてきたのである。


『いいだろう、お前たちがそれほどまでに俺たちの下へくるのを拒むというのならば……1日戦い続け、その後は休憩時間を入れてやろうではないか。さて、どれほどまで粘れるか……グッグッグ、ガッハッハッハッハ!』


戦争気取りである。

戦争相手は、フィーナ1人。

持ち越し条件は、1日中戦い続けて休憩となる日が暮れる時間まで粘ること。


そういう条件を持ち出してきたので、それに乗った形である。

しかし――


「はぁっ!円脚――!」


と、ラビィが叫ぶと華麗に回し蹴りを繰り出して蛇型の魔物の首を切り落とすと

リンスが後に続いてその頭をトランクケースで潰した。


攻撃を終えたラビィは髪をかき上げると、その場に土などが付くことも構わずに座った。


「ラビィくん、助かった」


「いえ、これくらいは」


ルインズの感謝の言葉に、冷静な声で答えたラビィ。


そう、彼らは迷宮の中にいて敵は前ばかりではなくどんどん奥に追いやられていて、そこにも敵がいるのである。いわば、両方が紐に縛られた小豆入りの小豆袋のような状態だった。


「全く持って腹立たしいが……できることがねぇ」


「お嬢様どうぞ……残念ながら、白湯ですが」


「ええ、ありがとう」


こんな感じでも、その場の空気を読まずにティータイムを楽しむラビィ。

そしてそんなラビィを冷静に見守るリンスという構図に、落ち気味である士気もなんというか微妙な保ち方をしていた。


前にも敵、そして後方にも敵。

そんな状態で援護なども期待できない状態では、もはや後方にあえて下がり

食料などを調達するほかに選択肢などはなかった。

飲み水はどうにかなった。

これまた不思議なことに、リンスの持っているトランクケースからアンティーク調の花瓶を取り出すとそこから白湯が無限に出てくるのだ。


それをどこで手に入れたのか、などという野暮なこと聞く余裕はない。


貴重な戦力である彼女たちの機嫌を損ねればと考えれば、当然のことかもしれない。


「シュンだったか……、あいつはどこまで行ったと思う?」


「さあね。ただ、ここまで探しながらも見つけられないということは相当遠くまで行ってる感じがするね」


そう、後方に下がって戦っている理由は食料だけでもなく、攻略しながら唯一制御可能な瞬介を見つけるためにあった。それはラビィの提案である。


それを思えば、相手が油断をしているのは彼らにとっても幸いなことでもあった。


「ともかく、互いに休憩を挟みつつあの妖精への戦力とこちらの攻略とで時間をかけていかないとね」




こうしてフィーナを相手にしながら攻略もしつつ、瞬介を探す冒険者パーティと、瞬介はどんどんと離れていくのをお互いに知る由もないまま――時は無常に過ぎていく。

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