9話「孤独と魔物と戦い」
「くそ、やられた……!」
突然の裏切りで、どことも知らぬ場所に転移した俺は拳を叩きつけるしかなかった。
ヤバイ。
必然的にその状況を思い浮かべると、俺は自分が震えているのが分かる。
騙されたとか裏切られたとかを感じる前に、今まで安全圏で黙って見守っていた側から急に戦う側になったのだ。
突然のソロで迷宮に放り出された状態で、だ。
「どうしよう……。とりあえず、影の薄さも魔物に通じるといいんだけど」
そこには、自分のことで頭がいっぱいとなりフィーナがとか、ラビィさんたちがどうだという心配すら思い浮かばなかった。
何やら両方の冒険者パーティらの中の連中が示し合わせて、俺を転移トラップに突き落としたのは目的があってのことだろうと思ったのだが……。
それよりも今は自分のことだ。
ため息を吐く、そして動き出すことにした。
丁度いい、これまで2週間の間頑張ってきたことを試すチャンスだ。
そう思いなおした俺は、迷宮の奥へと進みだした。
「ゲギャアー!」
それからどれくらいの時が経ったのか。
魔物が使っていた武器を奪って、戦いながらも俺はまだ生きていた。
半減した存在感の力でそっと忍んで、武器を持ってる奴の手を合気道で習った攻撃で折ってはその武器で魔物を倒し、そうして手に入れた錆びた両手剣らしいもので戦っていた。
ワンパターンであるが、今の俺の戦い方はこんな感じだった。
剣が折れれば、その都度武器のある魔物を襲ってはそいつから手に入れて、逃げてそして不意打ち気味に叩くという変質的なヒットアンドアウェイだ。
魔物の感じからここがどこかはあたりがついていた。
中層階のどこか、転移トラップを踏むまでに戦っていた連中の相手していた魔物が出てきていたからだ。
どっちが正解かも分からない中、そうして慎重に時には休憩を入れつつ一刻も早くフィーナたちのほうへと向かっていた――のだが。
「これって……運も半減してるからなのか?」
何度も何度も、転移トラップを踏んでしまっていた。
さすがにトラップを踏みすぎてもはやここがどこかは分からないし、何より――
出てくる魔物の質まで変わってきていた。
「……ギリギリだな。運がいいのか悪いのかこの剣を手に入れてからは楽にはなったが」
それはとある場所にあった宝箱。
分かりやすくて、大分時間を要して開けた宝箱なのだが、そこから出てきたのがこの"力を籠めると燃える剣"である。
魔法なんて知っちゃいない俺からすれば、強く握るだけで出る炎は灯りにもなるし、何よりもめっちゃ強い剣である。
剣道をかじり習いをした俺は、東郷の言う通りに気配を最小最小に考えては面とか胴とか小手を繰り出しては逃げまくった。
体力とかも半減しているので、連続で戦えないし体力を鍛えたとはいえ剣の重さもなかなかなので何度も戦ってられない。
中にはヤバそうな敵(角が生え斧を持った牛)とか、かなりヤバそうな敵(蛇のようでいて、それが尻尾だったりするなんかめっちゃゲームに出てきそうな3つの頭を持った敵)とかそういうのは逃げてやり過ごした。
さすがに自分のレベルは弁えてる。
レベル表示がないので、現在の自分の強さなんかが分かってはいないんだが。
それでも時間をかけて、順調に進んでいるとは思う。
「ただな~……あ、宝箱だ」
ものすごい時間をかけて罠がないかを確認し、開けると何やらアンティーク調の水差しっぽいのが出てきた。
「お、これ飲み水になるかな?」
もはや手持ちの水は尽きかけていた。
ここでこの水差しがと、一応水差しに尽きかけの水を入れてみた。
すると、先ほどよりも水差しを重く感じた。
ほんのちょっと入れただけなんだが――と、俺はその場でその重くなった水差しを流してみた。せっかくの飲み水をだ。
しかし水は耐えることなくずっと流れ続ける。
「これってもしかして!!」
俺は、菌がどうのとかを考えずに水差しをラッパ飲みのように傾けて飲んでいった。
「うまい!」
なんと味もおいしくなっていた。
よし、なんかやる気が出てきた。
そんなわけで俺は、もはや自分がどこへ向かってるのか分からない状態の中で進んでいった。
しかし――
――ポワーン。
「なんで、ひたすら転移トラップが発動するんだ!」
という声とともに、俺はまたどこかへと運ばれていくのだった。
▽
ところ変わって、組織のボスであるワルガンが操る妖精・フィーナによる攻撃により冒険者パーティたちは絶体絶命の危機に瀕していた。
彼らにとって幸運なことと言えば、その攻撃が単純すぎて玄人ほどその攻撃が予見できるようになったことだ。しかし、その力は迷宮の壁をやすやすと崩壊させたりとまるで手加減がないだけに、間接的な被害は出ていた。
唯一対抗できているのも、第1班の冒険者パーティたちのみだ。
……それも消極的な方法でだ。
彼らは単純な攻撃でありながらも、威力が絶大なフィーナの攻撃を互いに示し合わせた方へと受け流しそして壁に衝突をさせて衝撃を逃していた。
しかしながら彼らにも、体力の限界が近い。
「さすがは迷宮都市でも1、2を争う冒険者どもだ。くっくっく、だがもうすでに詰んでいるようだな……お前たちがどうしてもというのなら俺様たちの組織に加わってもいいぞ?」
もはや勝機は見えた勝ち誇る組織のボス・ワルガンは、高笑いをしてはそう言い放った。
「……冗談じゃありませんわ」
先ほどから自分たちへと向けられる気色の悪い視線は、とてもではないが自分たち女性がロクな目に合わないというのは想像に難くない。
"奈落の輝石"、"落石の雷"ら冒険者パーティたちも、思惑は違っても彼らの組織には入りたくはないと考えていた。
それゆえに戦っているのだ。
無謀と言われるような戦いに。
「……本当に誤算だった。彼が消えただけでこうなるとはね」
「あいつ、全然頼りねぇのに唯一あの妖精を手懐けられてたからな」
彼らは思った。
もっと、彼を大事に扱えばよかったと……。
しかし、彼らが思い描く彼はと言えば……。
△
「またかよーーー!!!」
自分が話題になってるとは知らず瞬介は、
同じようなセリフを残して、また踏んでしまった転移トラップで迷宮のどこかしらへと消えていくのだった。