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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
序章「現実世界と異世界と」
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1話「傲慢の妖精」

あの微睡みから一週間が経った。



あれからの日々は、とても活動的な毎日と言えるだろう。


活動的な夢というのも……いやもう、これは夢じゃないことは理解した。

それによくよく考えてみれば違和感みたいなものも感じていた。

それは――


謎の影の薄さ。

そして、自分を見る時に30cm上を見上げてる構図。

聴力が水がつまったかのような膜が貼ったような聞こえ方。

視力も2.0と良かったはずなのにあらゆるものが見ずらくなっていたりなど。

つまりは、五感がおかしなことになってる感じだった。



だがそんな状態にあっても、一週間もすれば慣れてくるものなのか毎日、掃除やら教会への奉仕活動の建物修理補助作業やら……はては溝さらいなど色々な仕事をしていき、いつの間にかそれが当たり前のような状態になっていたりした。

この街での生活にも馴染んでいっていつまで続くんだろうこの夢、みたいな考えにもさすがにならない。



もう現実として受け止めよう。それしかない。



ちなみにコツコツ系が好きな俺は、ここ一週間の見習い実績は割といいらしい。

見習いポイントの増減の幅が少ない……というかきちんと真面目にこなしていたこともあってプラス評価ばかりなので依頼主さん側からも好評と聞いた。


そういえば、リエナさん(受付嬢さん)がいつの間にか選任になっているが、見習い期間でそんなことはあるのだろうかと思っていたが

期待されているとそういう場合もあることを知って、真面目に仕事しててよかったなという思いである。



「さて考え事はこの辺にして……そろそろ起きるか」



ベッドから起き上がった俺は、ボチボチと雑魚寝仲間らに挨拶をして、驚かれて、小突かれながらも朝食をいただくために下へ降りる。


雑魚寝部屋の護衛番の人にも挨拶をして、驚かれて、剣を抜かれながら下に行くと、向かい側の丁度席が空いていたそこへ座った。



謎の影の薄さが俺にはあるため、宿との取り決めにより割と大きめの音を立てて注文をすると安価な割に、意外とおいしい食事が運ばれてくる。


一週間前から同じことをしてるので、もはやすっかり慣れた光景だがそれこそ最初の2,3日は怒鳴られることもあった。

しかし、もう慣れたらしく誰も文句を言う人はいなかった。



そんなこんなで食事を終えると、馬車に轢かれないように注意しながら向かいの協会の建物にやってきた。




ここ一週間で何度となく轢かれそうになったがために、すっかり大通りとかとは縁がなくなってしまった。




リエナさんのいる受付にやってきた俺は、テーブルを3回指で叩いて鳴らす。


「ああ、おはようございます。シュン様」



「おはようございます」




テーブルノックは宿だけではなく、いろんなところで活用されてる。

影が薄いせいで、声をかけるのが憚れる場面だと特にだ。




「今日の依頼は?」



「はい、手紙の輸送になります」



手紙の輸送。

五感の鈍さもそうだが、影の薄さって点でで唯一と言っていいほど、利点になっている点である。



理由は、主に通行ルートにある。



普段であれば、この場所からこの場所に行くという場合は立地的にこの街のスラムを迂回して届けなきゃいけないのだが……

影の薄い俺はごろつきばっかのヒャッハーたちが住むというスラムの住人に気付かれることなく、届けることができるんじゃないかという提案で、モノは試しとやった結果見事に専属メッセンジャーと相成ったわけだ。



ああ、そうだ。



そういえば先ほどの五感の違和感や影の薄さという違和感以外にも、夢じゃないというモノの中に身体能力の半減というのもある。


気づいたのは3日目くらいだが、仕事の合間に測っただいたいの50m走の時間がとても遅くなっていたのである。

1秒2秒程度ならだいたい50m走だからと違和感は感じないだろうが、それが5秒以上もかかっていたらさすがにおかしいだろう。


中学3年の時に測った体力テストの50m走のちょうど半分くらい。


また、その計測時に感じたのは50m走のタイムだけではない。


妙に体が軽かったという点もだ。


これもだいたいで恐縮だが、体の半分がどっかにいったかくらいのふわふわっぷりだ。



おかげで2日前から始めた手紙の輸送も、体が慣れてきたためか地理を理解してきたか、普段より速度は遅いが割と早く目的地につけるようになったのは僥倖だったと言える。




影の薄さから、身体能力とくれば知力まで含められるのは当然。

物覚えの悪さというか、これくらいなら一発で覚えられるっていうことが、結構な時間を使わないと覚えられないという知力低下も発覚していた。

まぁ、他の知力で試せる機会があれば試してみたいと思う。


あとは利き手。


俺は元々、交差利きという珍しい利き手の持ち主である。


交差利きってのは、右手で文字を書いたり箸を使うが、投げるのは不得意。

左手でボールを投げたり包丁を使うが、文字を書くのが不得意というやつだ。


英語では《クロスドミナンス》という立派な中二ワードで表現されることもあるこの特殊な利き手の左利き側が見事に使えなくなっていた。

なので、今の利き手は右となっている。



さて、色々脱線したが現状はこういう感じだ。



そんな影が薄くてスラムのごろつきに気付かれない存在感のなさと、真面目にコツコツやった実績によって選ばれたメッセンジャーこと俺は、今日も元気にスラムを横切ることにする。




手紙は多い時で一日5件くらい。


少ない時で1件くらいで、手が空けば他の街中作業に従事することになっている。


ちなみに専属になっているので、雑魚寝部屋の中ではわりともらっているほうである。



現実に例えるなら、100円ショップの弁当が雑魚寝部屋仲間の人の食事だとすれば、俺はハンバーガー屋のセットメニューというくらいの差だ。




そんなことを考えながらも俺は、一生懸命走ってメッセンジャーの仕事をこなすことにした。





届け先にて完了の翳しが終わると、協会に戻ってくる。


今日の案件はこれで終わりなので、報告と報酬をもらうと暇になる。

そんな時は人通りの少ない道を経由しながら街をうろついて地理を頭に入れるという作業をすることになる。


今の仕事的にも、この街を知る上でもいい感じに利益になるので知っておいて損はない。




「今日は屋台を回ってみようかな。……裏道から」



そんなことを呟きながら協会の建物に入ろうとした俺は気が付いた。


……建物の中が妙に殺気立っていることに。



荒事はできればごめんこうむりたいので、そっと入ることにする。



そんな協会内では驚きの光景があった。




「や、やめてくれ。お、俺が悪かった!だから、離してくれ!!」




存在感の薄さを利用して、なぜか舞●術をしてる人が見える位置に回り込んでみると、その原因が分かった。




最初はどんな一人遊びやねんと不思議に思っていたのだが、あることに気付いた。



(あれ……、なんだあの小さいの?)



そう。


よーく見ると、胸倉のあたりにパタパタと羽ばたいている体長30cmくらいの妖精っぽいのが見えた。




そんな疑問にそのパタパタしたものは答えてくれた。



「ホント、人間って存在はうっとおしいわね! あたしを捕獲してどっかに売ろうですって? バカじゃないの!あたしに勝てもしない癖に突っかかった挙句に、あんたが言う妖精ごときにこんな目に合わされて……さっ!」



言葉の最後とともに大男を簡単に投げ飛ばして手をパンパンと叩いた妖精らしきものは、近くのテーブルに立つと受付嬢さんに向かって腕を組みながらこう言い放った。



「ここに1週間くらい前にやってきた冒険者がいるでしょ! 名前はシュンスケとやらってやつ。そいつを早く出しなさい!」




……。



…………1週間前にやってきたシュンスケならここにいるんだけど。

とやらて。


でも多分、分からないだろう。


なんせ俺のここでの名前はシュンなのだから。

いやていうか、そもそもなぜ俺の本名をあのちっちゃいのは知ってるんだ?



そんなことを考えていると、奥のほうから何やら偉そうな人が出てきた。



「わしはこの協会の元締をしておる者だが……。妖精族がこのようなところへ何の用だ」



その問いに目線をそちらに向けた妖精族らしい女の子が手を腰に当てて問いかけた。


「あんたがここの長ね、ちょうどいいわ。 シュンスケを出しなさい!」



(いや、冒険者がどうのってのが抜けてるぜ)



ついツッコミを入れそうになるのをグっとガマンしてると、元締めさんがため息をついて答えた。



「……すまんが、シュンスケなる冒険者は登録しておらん。1週間前だったか?その中にもその名前の者はおらんのだ」



(俺であればシュンなんですけどね)




「そんなわけないじゃない! あのクソババアがここに来ているって言ってたのよ! 早く出さないとこの建物壊すわよ」



(ぶ、物騒すぎる!)


クソババアが誰かは知らないが、この建物を壊すとかはさすがにあれなので俺も覚悟を決めることにした。


もしくは俺じゃないことを祈って今まで黙ってみていたが、名乗り出る人もいなさそうだし。




そんなわけで影の薄さを利用してスススっと、人の間を通り抜けて妖精の前に姿を現した。


すると――。




「! いるじゃない! あんたでしょ、シュンスケって」



俺の存在を感じ取ったのか、こちらに振り返ると眉を思いっきり逆ハの字にしながら俺の目を見てしっかりとその妖精は問いかけてきた。



そう、普通であれば俺の顔より30cm見上げて話してくる人たちとは違う俺の顔を、目を、しっかりと見つめて……だ。




こうして俺はこいつと出会った。


今後、できれば御免被りたいほどに長く付き合うことになる超絶タイプなのに小ささが残念すぎるこの妖精と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完全に半分になっているという設定は予想外 でも突然知力も半分になるって辛そう
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