7話「迷宮攻略組」
――翌日
ぎゃあぎゃあ騒がしい様子に、異世界側に無事戻れたことに安堵した。
「またあんたあっちでいっぱい遊んでたわね! ずるいわよ!」
「……あそんでねえよ、クソ妖精」
寝起き早々、いやこっちでは起きてぼーっとしてたんだろが、俺からすればこっちでは目覚めたばかりという感じである。
とりあえず、自分の力を確かめるために拳を握ってみた。
あ、ちょっとだけど瘤がある。
それに以前よりも体が軽いのが分かる。
あっちで感じた感覚がそのままだ。
「……遊んでたでしょ、あんたの魔力底上げされてるわよ!」
え?魔力……。
あ……。
「しまった……魔法という選択肢を完全に忘れてた……」
「ププー! まさか魔法を使おうと思って遊んでたの? バカみたーい!」
こ、こいつ……。
まぁ、まぁいい。
魔法については今度だ。
とりあえず俺は、フィーナに迷宮攻略当日かどうかを確認した。
すると――
「ふん、当日っていうか……人間たちって本当どうしようもないのね!」
と言ってきた。何かあったのか?
そう思った俺はフィーナに何があったかを聞いて見ると――
どうやら2日前くらいに、協会のほうでとある提案があったそうだ。
それは『冒険者パーティ合同での迷宮攻略』というものだという。
ようするに数十人かのパーティで徒党を組んで、一緒に迷宮を攻略しましょうってことである。"奈落の輝石"と呼ばれるこの都市でも有数の冒険者パーティの呼びかけで発足したそうである。迷宮令嬢の2人組もそれに参加するそうで、一緒に攻略予定の俺たちもそれに引っ張られる形で攻略することになったのだそう。
フィーナにとっては、遊びでしかない迷宮攻略は別にどうでもいいことらしく、二つ返事でOKしたそうだ。
……まぁ確かに、俺が向こう行ってる間はフィーナにしか決断ができないだろうし俺が事前に知ってればってのもあったんだろうけど……。
いや、チャンスかな?
大多数の人で攻略すれば、それだけ攻略確率も上がるだろうし……"奈落の輝石"とやらの有名冒険者パーティが複数参加もするということは、それだけ安全性も保障されるというものだ。
「仕方ない……。それでいいよ」
そうつぶやくと、俺は伸びをして早速出かけることにした。
一階に降りると、宿屋の酒場になっている一区画でのんびりとお茶を飲んでいるお嬢様と傍に控えるメイドの姿が見えた。
そこへ行くと挨拶をした。
「おはよう、ラビィさん……とリンスさん」
「おはようございますわ、シュンスケ様。それでお話しておきたいことが――」
おそらく、大規模の迷宮攻略のことだろう。
「フィーナから聞いたよ。俺もそれに参加する予定だから、一緒に頑張ろう!」
「話が早くて助かりますわ。ここ数日、お見えになられずまたフィーナ様に聞いてもあんな奴知らないの一点張りで……」
「申し訳ないです。ちょっと用事があって……」
まぁ、フィーナにしてはよくやったと褒めておこう。
……心の中で、だが。
そんなわけで俺とフィーナ、それから妖精令嬢たちは宿を出ると冒険者たちの集まる迷宮前まで向かうことにした。
迷宮前は、多数の人たちでごった返していた。
見た感じ全校集会の四分の一といったところか。
相当な規模の迷宮攻略戦になる感じがする。
ぬるま湯暮らしで、鍛え始めたのも2週間前の俺にとっては大規模なイベントだ。
しかも失敗すれば死ぬという……。
何が何でも生き残って、あっちに帰らないと。
そんなことを考えているうちに、何やら演説みたいなものが始まった。
「冒険者の諸君。僕が今回の迷宮攻略における総司令となる"奈落の輝石"のリーダー、ルインズ=クルセイドだ!」
そう言うと爽やかな顔で周囲に手を挙げた。
女冒険者たちにはとんだ甘いマスクなんだろう、すごい黄色い歓声が響いた。
男冒険者たちにもその武名は轟いているのかうおーっという歓声も聞こえた。
……圧倒的に女冒険者の歓声のほうが勝っていたが。
「今回の目的は完全なる迷宮攻略だ!最深部にあるのは何かまでは確認できてはいない!しかしだ! ……我々迷宮都市に生きるものとしてこの攻略はなんとしてでも完遂させねばならない!」
なんでだろう?
理由までは分からないが、どうしても攻略を急ぐ必要があるということだ。
「皆は実際に目にした者はいない人が多いだろうが、迷宮とは生きていると言っても過言ではない! それはつまり、迷宮による魔物暴走も起こる可能性があるという情報が入った!」
魔物暴走ね。
なんかあり得るといえば、あり得る。
ラノベなんかでもよくそんなことがあって、都市がピンチになって全員で守るみたいな流れもあったし。
「そのため、我々は迷宮管理者たちの力も借りて、一刻も早くこの迷宮を攻略するべく今日のこの日を実行日とした次第だ! まずは迷宮に潜る順番を決めようと思う! 第一班は――」
その発表通りに進むこととなった。
ちなみに俺たちは第一班だ。
第一班のメンツは、ルインズさん率いる冒険者パーティ"奈落の輝石"、ラビィさんとリンスさんの迷宮令嬢パーティ、俺とフィーナ、そしてドワーフか?というくらい小さくて頑丈そうな見た目と武器を持つ"落石の雷"という中堅規模の冒険者パーティらの編成だった。
なぜ俺たちも第一班なのか、それはもちろんフィーナの力頼りだろう。
ルインズさんもそう言ってたし。俺がよろしくと挨拶した時に驚かれたのは、毎度のことだった。
フィーナとの力比べや、元々ラビィたちもここでは悪辣な者たちを率先してはっ倒していたらしいその武力を頼りにしていると言っていた。
「さあ、では行こうか。迷宮は待ってくれない!」
ルインズさんのカリスマ性を存分に発揮して、俺たちは迷宮攻略へと進むこととなった。