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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
第一章「メイドとお嬢様」
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4話「迷宮令嬢の事情と暗躍」

一体どこから出したんだろうと思ったが、気にしないことにした。

トランクケースがあるし、さっきの動きも人間技じゃないと思ったからだ。

フィーナの攻撃を半減した状態であったとしても受け止めるその技量は、なかなかいないだろうし。


「お茶の時間ですの。どうぞ、おかけになって」


ラビィさんに言われれば、頷かないわけにはいかなくて回りの目がすごい気になるけど、席に着くことにした。


フィーナと言えば、なぜか大人しくしてて2人組のほうに視線を向けている。

こいつにしては珍しいな。


なんか気になることでもあるんだろうか?


「さて、こうして案内したのはあなたがたに頼みがあってのことですのよ」


そう言うと一口、カップの中身に口をつけてカチャっと置いた。


「頼み?」


「ええ、あなた方……正確にはあなたの手懐けている妖精さんに、ね」


「手懐けてる?……いや、別に手懐けてるわけじゃ」


こいつは妖精女王から護衛という名目で俺の近くにいるだけだし。


「あんなに大胆な捕らえ方をして、さらに攻撃もされない理由は?」


「それは……内緒っていうか」


「ふふ、いいですわ。何か理由でもあるのでしょう?」


そしてまたカップに口をつけた。


「それで、聞いていいですか? なんの頼みか……」


「その前に、敬語を使わなくてもよろしくてよ」


「あ、はい」


なんか出鼻をくじかれたな。

とりあえず聞き出そうとしたとき、お茶をどうぞと後ろに控えていたリンスさんに勧められるままにお茶を一口飲んだ。


「我々は、ある目的のために動いております。その上で迷宮攻略を目指しているのですが――」


そこから話された内容は、なんというか壮大だった。

彼女の実家であるリーステッド家。

それは、実質的な取り潰しにあった伯爵家の分家筋だったそうだ。

その本家筋が侵した罪によって、リーステッド家も取り潰しという憂き目にあったということらしい。


原因は非公開とされているが、とある町の代官もしていた伯爵家がある"禁忌"に触れたというのが事実だったのだそう。それは、妖精族を捕らえようとしたこと。


その話を聞いて俺は、ある出来事を思い出した。

それは――


「へぇ~。あれってあんたたち人間の巣の親のせいだったのね! ふん、ざまぁないわ」


「こ、こら!」


「いえ、いいの。そうですわね。妖精族の方でしたらご存知のはず」


そう。

あの協会での元締めで、こいつが言ってた20年前に起こったある町の悲劇というか妖精女王の起こした天罰というか。代官が治めていた町ごと襲った謎の光。

そして残されたのは、苦悶、絶望などの表情の顔に彩られた木々という町の人たちと代官と更地。


なるほどな、そのあおりを彼女たちは食らったってことか。

……ただの分家ってだけで。


「わたくしとしては、妖精族に手を出した伯爵家に文句はあれど、被害者となりそうだった妖精族の方々に恨みはありませんわ。そうなったのは、こちら側の責任ですもの」


このお嬢様、すごいな。

自分の家がひどいことになったってのに、きちんと責任の所在を明確にしてる上で他者である妖精族を恨んでない心の強さっていうかそういうのが。


「話を続けますわ」


そう言ってカップでまた一口、お茶を飲み話を続けた。


伯爵家と運命を共にすることとなった子爵家のリーステッド家。

しかし、彼女の両親も彼女も自分の本家であった伯爵家は何かと問題を抱えていたということでどうにかしようとしていたところだったため、自爆的だったとはいえ問題が解決したことで、国に忠義を尽くせてよかったという。


……本当に彼女らは、すごいな。

そんなことを思った。


そして、両親は平民となり普通の暮らしをしているというがその生活が慎まし過ぎることに心を痛めたラビィさんは、冒険者になるべく領土だった近くの洞窟へとついてきてくれた4人の侍女たちと修行の旅に出たという。しかしそこは――


「迷宮でしたの。侍女たち4人全員を犠牲にわたくしは……攻略を果たしましたわ」


少し浮かない顔をしてしまったラビィさんだったが、申し訳ありませんと謝ってきた。

空気を変える意味でも俺は、いえいえといった上で気になったことを質問した。


「わたくし?いやだって、後ろの」


「ええ。実はこの子は、わたくしの半身ですの」


え?

どういうことだ?


「聞いたことがあるわ! 願いの迷宮。七罰の迷宮。試練の迷宮なんて言われてる迷宮があるって、あのクソババアから聞いたことがあるわ!」


と、フィーナがいつの間にか俺のティーカップを勝手に飲みながら言ってきた。

てか、勝手に飲んでんじゃねえよ。このクソ妖精


「そう。攻略をしたのはいいのですが、わたくしが願ったのは帰還をするための戦力――それも失った4人の戦力。しかし死した者を生き返らせることはできないと……なので、では戦力になりそうな何かが欲しいと願いましたわ。すると、宝珠が輝き、何やら4人の生前の姿が現れそして、わたくしの半身となるこの子が生まれたのです。そちらの妖精族の方がおっしゃった願いの迷宮である可能性があるここでわたくしはまた再び、1つになりたいとそう思っているのです」


半身が生まれた。

つまり――

「それってあなたの力の半分が後ろにいるリンスさんに移ったということですか?」


「ええ。おかげであの迷宮を脱出することができました。しかし――」


そして、迷宮というのは宝珠と宝箱と最終試練をクリアしたらそれぞれ報酬が違うというのを突き止めたという。


「えっと、もしかして……その頼みというのは」


「お察しの通り、そのためにこの迷宮攻略に力をお貸し願えればとそう思っておりますの」


という頼みだった。

うーん、個人的には力を貸してもいいと思う。

なんせいきなり男を飛ばしてしまったことだし、そのことで迷惑をかけてしまったのだからお詫びの意味でもって感じで。


ただ……。


「はっきり言いますけど、俺たちにではなくこのクソ妖精だけですよね?」


俺の言葉にハッとした顔をしたお嬢様は、申し訳なさそうにした。

いや、そういう顔をさせたくて質問したわけじゃない。

だが、その顔を見るとさすがにショックというか、戦力外通告された感じがしてなんかアレだ。


「申し訳ございません。そういうつもりでは……」


「何言ってるの。シュンスケも当然加わるべきでしょ? あんた自分の力知ってるでしょ」


半減の力――ハーフリンカー――のことだろう。

こいつが言ってることは。


だがそれは……


「力? ……そういえば、何やらあなたの近くにいるといつもよりも怠いというか力が抜ける感じがいたしますけど、もしかしてこの感じがその力というものですの?」


「えっとまぁ、ぶっちゃければそういう感じ。ただ、俺自身も半減しちゃうっていうか一緒について行っても迷惑かけるだけになるだろうし」


「ああ、迷宮の攻略速度についてですか? それならば、問題はありません。リンス」


「はい、お嬢様」


リンスさんが自身が持っているトランクケースを持ち上げて、説明してきた。


「こちらは先の迷宮で手に入れた、無限に物が入るというストレージボックスという品にございます。こちらであれば数日はおろか、数週間ほどの物資保管も可能でございます」


おー、アイテムボックス的なものか!

俺はキラキラした目でそのストレージボックスなるものを見て、目を輝かせた。


「……そのお力、存在感が薄くなったり、何やら気だるくなるお力も加えてフィーナ様のお力も加わればより迷宮攻略が簡易になると考えられますわ。なので、この場合、あなた様にも加わっていただきたいと思っております」


そう言われたら答えなきゃいけないだろう。


答えは、YESと。





「なんだと? 妖精が!?」


「どうやら、うちのモンが見つけたようですが、ひでえ怪力でぶっ飛ばされたということで」


その言葉にとある場所にいる組織のボスは、暗い笑い声をあげて言い放つ。


「クックックック。こりゃ俺らにも運がめぐってきたじゃねえか! "こいつ"でその妖精を縛れば……」


「しかしですね、ボス。20年前のあれが――」


「バカヤロウ。あんなの売り買いしようとしたからじゃねえか。だが俺たちは違う。ただ、こいつで縛って飼いならすってだけだ……それに妖精には珍しい怪力だぞ。見逃す手はないってもんだ。おい、あいつらに声かけとけ」



そう言うと、ボスと呼ばれた男は奥の部屋へと行くとそこから嬌声が聞こえてくるのだった。


「全く、ボスも好きものだな。おい、計画通りに進める。奴らに声をかけて計画通りに進めろ」


そう言うと男は、別の扉から外に出るのだった。


こうして瞬介やフィーナの知らないところで、フィーナをターゲットとした陰謀が進められるのだった。

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