15話「あれから3ヶ月」
あの戦いから3ヶ月。
フィーナが去ってから3ヶ月。
俺は、異世界での戦いの後学校に通学していた。
本当に高校1年は1学期から3学期までパーフェクトに遅刻を達成してしまった。
2度あることは3度あるって本当だったんだなと思った。
「なぁ、瞬介」
「……なんだよ」
「本当にいいのか?」
「……ああ、Halfassは解散だ」
そう。
俺は、あの時の2人の変身また精霊力を宿していたことの事情を聞いた。
当然その行為は俺にとっては許されないことで、彼女たちが戦いの後にという言葉を聞いた意味が理解できた。
あんな美女とヤれたんだからとか、そういう問題じゃない。
俺だって男だし、そういう意味ではいいとは思うが何の相談もなくというのとか、
親父と母さんが俺に弟か妹を作ろうと頑張って、でも出来なかったときの涙を考えると……そういう行為にはどこか潔癖なところがあった。
フィーナもいなくなってしまったし、リーダーとして2人を除名した後Halfassを解散することにした。
ミーティアさんも関わっていたというのは個人的にショックだったな。
2人は言い訳をすることなく、パーティを去っていった。
相棒であるコーディと冒険するためにたまにあちらに行くが、その後の彼女たちについては知ることはなかったし、リエナさんも経緯を知ったのかそのことについてはあえて触れなかった。
「……はぁ~。まぁ、おいらは何も言えないよ。瞬介のパーティなんだし」
「……」
俺としてもガキっぽいと思う。
あんなに頑張って、俺のためにも命を張ってあの皇帝と戦ってくれたり冒険の最中に色んなことを体験してくれたり、文化祭にも来てくれた仲間だったのに、と。
きっと、フィーナがいなくなったからなんだろうな。
そんな言い訳をして、さらに――
「フィーナがいなくなったのが悪いんだよ」
「妖精のか? ……それはずるい言い訳だ」
「分かってるよ」
桜が咲く道を歩きながらも、俺たちは通学路を歩いて学校に通学をした。
そして2年生に進級した放課後のこと――
誠太は用があるということで、俺はゆっくりと歩いて帰っていた。
なぜだろう? 未だあの時の喪失感は消えてない。
あんなに大人びた顔ができたんだなとか、ふざけるなよとか色々とあいつには言いたかったし……なによりも、初恋だったのにとか結局俺も男だったのかという自己嫌悪に苛まれたり。
あの時、あいつが言った星母を正しい方向に導くという役目。
色々考えればあいつは天を穿つ大巨人の血が入った特別な妖精で、その怪力もそれに付随したものと考えられるわけだが、もう一つ考えられることは、もしかしたらあいつは星母がどうにかなった時にその大巨人の力を使ってかなんかで、元に戻せる力でもって星母をどうにかできるから去っていったんじゃと自己解釈をしていた。
なんにしてももう戻ってこない奴のことを考えても……。
ベンチがあったので、そこに座り空を見る。
親父の田舎に比べるまでもない汚い空気を吸いながら。
桜はそんな中でも綺麗に舞っていて、綺麗だなだとか、しぶといなだとか、たくましいなだとか色々と浮かんでは消えていった。
そんな風に黄昏ていた時のことだった。
「そこの人、ちょっとベンチを空けてもらってもいいかしら?」
空を見上げたままの俺は、その声に何も言わずにベンチの端に寄った。
あちらで嫌というほど聞いた声、それでいて"小さかった"から必死で大声で話していたあの時は違って普通の音量の声。
俺とは逆側のベンチに座った女性に、俺は視線をやる。
緑ではない髪色だったがその特徴的なポニーテールに、俺的なドストライクな容姿で"妖精"サイズなのが残念だったという俺の初恋の相手。
そんな彼女が人間サイズで桜の中、空を見上げて何やらワクワクしていた。
「ふん! 相変わらずね! ここは言葉をかけるところでしょ!」
「……驚かされた余韻ぐらい待てよ……フィーナ、お前なのか?」
俺の疑問に思いっきり俺の顔を見て、そしてあの時見た大人びた顔でそうだよと答えた。
「……なんでお前がここに、それにその恰好」
それは日本に染まった外国人っぽいどこか的外れな印象を持つなんちゃって日本スタイルという感じの衣装だった。
「どう? 似合うでしょ!」
相変わらずの口調でくそむかつくドストライクなその容姿を誇るフィーナ。
「ああ、それからあたし精霊女王だからね!」
「はぁ? どういうことだよ」
「妹にあの世界を追い出されてから、あんたの世界まで急いで向かっていたの。私の分身体であるフィーナを異世界に解き放って――もちろん妹には内緒でね!」
「よく気づかれなかったな……」
「姉だし、あたしのほうが上位存在よ! 完璧だったわ」
「そういう事情だったのかよ」
「で、あたしがあんたの力を目覚めさせて――」
「おい待て」
「なによ」
「俺の力を目覚めさせたって……」
あ、やばいとでも思ったのかダラダラ汗を流し始めたフィーナ。
「……あの人の子、悠人だったかしら? あそこで運転手として採用されたのよ! それで――」
俺は最後まで聞かずに遠慮なく、フィーナの頬を引っ張った。
「いはいいはい! こぇからあやまおうと!」
「お 前 が そ も そ も の 原 因 だ っ た の か よ !」
「痛いわね! だから悪かったわねって謝ってるじゃない! それにあんたが校舎から飛び降りた時に突風を吹かせてフォローしたり、あんたの母親が死なないようにギリギリで死ぬのを抑えるためにあんたが気づいて病院に運ぶまでの間にも時間をゆっくり経過させたりフォローしたのよ!」
あの突風もこいつの仕業か!
それに母さんが迷惑系なんちゃらに刺された時にやけに時間が遅く感じたが、それもこいつが。
再び俺はこいつの頬を引っ張る。
「お前が余計な突風を吹かせたせいで危うくバランスを崩すところだったんだぞ!母さんのことはありがとよ!」
「いはい! いはい!」
ったく……。
本当にこいつは、いつも俺に迷惑しかかけない。
だが……。
俺は立ち上がると、改めて手を伸ばす。
「なによ、その手は」
「おかえりフィーナ、俺はお前が好きだ」
あの時伝えられなかったことをやっと伝えられた。だがやっぱり恥ずかしいので、顔をみることができずに下を向いてしまった。
「ふ~ん♪ あんた、あたしのことが好きなのね」
「それはいいから! 今後も……友達でもなんでもいいからよろ――」
その言葉は奴が俺の口に自分の口を合わせてきたことで、物理的に塞がれてしまった。
後ずさった俺にいたずらっぽい目を向けて、その後の言葉を言い放った。
「でも条件があるわ! Halfassを復活させなさい!」
「お前な……」
「あの子たちとは対等に勝負したいの! 正直なことをいいなさい! あの子たちに好意を持たれて悪い気はしてないんでしょ?」
「……」
だが、仲間としてだとは言わない。
「それに明花にもまだ答えを出してあげてないし、あんたが本当にあたしが好きなのか……これからちゃんと考えるためにも、あたしがきっかけを与えた力を信頼して冒険者パーティHalfassを復活させなさいよ! あっちのあたしも待ってるわよ!」
「あっちの……あたし?」
その言葉に俺は、思わずポカーンとしてしまうのだった。