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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
最終章「バイバイ! シュンスケ!」
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8話「元帝国令嬢」

ドサッっという音とともに、彼女たちは倒れ伏す。


「弱いな。こうまで貴様の取り込んだ精霊力とは弱いのか……さすがの俺もがっかりだぞ」


それに答えることなく、ただ苦しそうにして立ち上がるラビィとリンス。

円脚を含め、これまでの技を全て叩き込んだのだが剣で軽くいなすだけで面白いくらいに彼女たちは吹き飛んだ。


「魔王城を解放したのであれば、あの者らと戦ったのだろう? だったら残念だったな。俺たちはその10倍は戦力がある。絶望したか? 届かぬ己たちの無力さに」


「……」


それに答えることもなく、2人は示し合わせてまた再び攻撃を加えていく。

ただひたすらに何かを忘れるかのように、その怒気を隠すこともなく。


「つまらぬな、人形か貴様らは。 先ほどの怒気が嘘のようだな……つまらんぞっ!」


その一撃は、鋭く躱そうとする令嬢たち毎大地を切り裂いてもなおその威力は衰えずなそんな一撃だった。

衝撃波も伝わり、それらを彼女たちに容赦なく襲い掛かる。


華奢な体は軽く、それらを容赦なく暴力で侵すという図は男にとって愉悦な姿ではあるが、何も言葉を発しもせずというのはとてつもなくつまらない存在だった。


「どうした? 先ほどの技……中々に面白かったぞ! もう放たんのか?」


肩に剣を掛けて挑発をするも、やはり黙って立ち上がり構える2人。

そして――


「ふう……小手先が通じないとはこういうことなんですわね」


「お嬢様」


「ええ。あなたも大分血の気がぬけたようですわね」


「はい」


そのまま2人は、そこに誰もいないかのように何事か会話をしていた。

さすがの男もそれには額に血管が浮かぶほどの侮辱だったようで――


「貴様ら……俺を無視できるものだな。なぁ! 女ぁぁぁぁ!!」


そしてその肩に担いだ剣を両手で握ると、その剣を思いっきり振り抜いた。

先ほどまでとは違うその威力だったが、彼女たちは頷き合うとそっと足と手を出し――


「流転蘭乱――」


そう呟くと、


「一心導対」


触れる様にその剣撃の周囲を包み、そして蹴りと拳で流して後方へと流すように動く。その剣撃は彼女たちに何もダメージを与えることもなく流されていった。


「なにぃ!?」


「申し訳ありませんわね。淑女たるもの、頭に血が登った状態で相手にするべきではありませんの……ゆえに」


「私たちは元々1人の存在であり、半身に分たれた存在」


「故に同じ殿方に懸想をするべきものではないと思っておりましたのに……」


「メイド如きと思っておりましたが、やはり私も彼女――ラビィであると思い知りました」


「「ご無礼のほどを」」


そして彼女たちは、互いに手を取るとある魔道具を取り出しそれを翳した。

眩しい光が辺り一帯に輝き、そしてその光は2人を中心にして――そして。


「さ、では続きと参りましょうか」


いつの間にか手に着けていた赤い拳皮と赤い靴。

また先ほどとは違い、真っ赤なドレスに身を通していた。


身長も1人1人が157㎝ほど――いや、もはや1人となったその姿は165cmほどに成長し、女性の象徴たるその二つの果実も溢れんばかりに実り、容姿も2人だった時とは違って美を凝縮したような容姿となっていた。


日の光を受けてもなおその輝きは失われず、むしろその日の光こそがただの照明にすぎないかのような髪をかき上げる姿はまるで女神のような姿だった。


その美しさに見惚れるのは仕方のないことだった。

いや、むしろ――


「……貴様、それが本当の姿か?」


「ええ」


肯定し、そして華麗なるカテーシーの後、


「ラビィリンス=リーステッド、 帝国元子爵家が次女ですわ」


そのまま何の気ない様子で佇む。


「……子種など上書きできる! いいぞ、その容姿もらうぞぉぉぉ!!」


「……失礼いたしますわ」


そう呟くと、剣を手にその体躯に似合わない異常な速度突っ込んでくる男に令嬢はまるで風に解けるように男を過ぎ去り、そして立ち止まった。


「が、が……がはっ!」


一撃の威力と二撃目の威力に蹲り、遅れてきた激痛にようやくして血を吐いて答えた男。


令嬢はだがその様子を済ました様子で、見つめていた。


「バカな……なんだいまのっ!」


そこに見えるものに、男は疑問を感じた。

令嬢の後ろにうっすらと2体の存在が見えたからだ。


《ようやく我らの力を解放したのね》


《あなたたち時間がかかりすぎよ》


それは水色と緑色のオーラに包まれていて、男はその姿を見てようやく思いついたことを言い放った。


「ま、まさか精霊か!」


《人の子》


《外れよ》


そして彼女たちのふう~という吐息から生み出された風と水の圧力によって男は散々ぱら切り裂かれることとなった。自らも取り込んだ精霊力がまるで役に立たないかの如く。


「だ、大精霊……だと……」


取り込んだ精霊力の強弱でその強さがある程度想像できた男だったが、自身が想像しうるその力以上のモノに、次元違いの力を感じた。

それは精霊女王が生み出した、6体の大精霊。


火、水、地、風、光、闇。


「なぜだ、なぜそのような力を……」


「……あなたのおっしゃる子種から得た力ですわ」


「まさか、あの男が……精霊女王の!」


《人間がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!》


《様をつけなさいよぉぉぉぉ!!!!!!!》


その激怒の力はすぐに形となって現れ、あらゆる水分を凍てつかせそしてあらゆる気圧をも変化させた男の体はパンパンとなってはっきりと成れの果てが姿となって現れた。


「バカな方ですわね。シュンスケ様以外に不敬な態度を取ればそうなっても仕方ありませんわ。では、そろそろさようなら――いえ、違いましたわね」


そして令嬢は構え、そっと蹴りの一撃を男に叩き込んだ。


「――明鏡止水・紅風車ムーラン・ルージュ


その一撃を受けた男は、静かになったかと思うとやがて激しく全身から血を噴き出しながら回転していきその場に倒れ伏した。


その最期を見届けた令嬢は、やがて力尽きる様に膝をつき

そして――また光とともに、2人に分たれた。


《やっぱりまだまだね》


《ほんとうに人間って弱いわ》


「も、申し訳ありませんわ……ですが、次こそは使いこなせてみせますわ」


「ええ、もうこれ以上あのお方に心配をかけたくはありませんもの」


《いい心がけね》


《今度何かあったら、次こそちゃんと使いこなしてみなさいよ》


そう言ってうっすらと輝いていた2体の大精霊はそれぞれの体へと消えていった。


「リンス、立てますの?」


「ええ、あの方も到着されておりますしなによりも……」


「そうですわね」


そして2人に戻った彼女たちは、到着している瞬介の元へと向かうのだった。

ただの屍となった男には最後まで視線を送ることもなく。

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