7話「帝国領での戦い⑦」
その浮上は、ラビィたちそしてメジェネアのほうから見えた。
「シュンスケ様!」
「婿殿!」
場所は違えど、それは偶然にも一致したリーダーへの呼びかけだった。
帝国城へと向かっていたラビィは突然の地揺れとともに、浮かび上がるその光景に目を疑った。
それは、メジェネアも同様だった。
帝国城までの道中、突然の地揺れに驚いたがそれが帝国城を中心としたある一定の場所の浮遊を目撃したのだ。
そこにいるのは、彼女が愛する瞬介――彼女にとってはいの一番に駆けつけなければという思いでいち早く駆けつけられる包帯を使った包体によって移動速度を上げていた。
「婿殿! 間に合わせるのじゃ!」
「陛下ー!」
「主らは、避難しておくのじゃ! わらわ1人でゆくのじゃ!」
そうして浮遊するにつれて落ちてくる岩やら石などを、足場に駆けあがっていく。
それはラビィたちもだった。
やがて――測ったようなタイミングでラビィたちとメジェネアは合流を果たす。
しかし。
「貴様たち……なぜに貴様たちがそのような精霊力を宿しているのだ」
「殿下……」
その呟きは、元リーステッド子爵家で唯一対面をしていたラビィの父から出た言葉だった。
「ほう、俺を知っているのか? ん? 貴様……はっはっは。そうか、リーステッド家の」
「はっ……今は身分を失くしている身ではございますが……それよりもなぜ殿下がお二人とも」
そこにいたのは2人。
そして、ラビィの父がいう言葉が正しければ彼らは王族である帝国の王子らだとメジェネアも理解をした。
「そうか、主らがこの国の王子……なんとも見るに堪えぬ"その身"じゃ」
メジェネアが指摘したのは、見た目だった。
発言したほうは顔は50代に差し掛かった顔で、若い頃はさぞかしもてはやされたであろうその顔に見合わぬ鎧を身に着け、剣を担いでいた。
だが身長が3mという異常なほどの大男だったのだ。
もう一人は、40代半ばの見た目に同様の色の目をしていて、こちらも3mを超える身長だが魔法使いのようないで立ちで片方は先の闘技大会で見たような大口径の銃をその片腕に宿していた。
「弟は我が父に似て革新的ないで立ちだが、俺は違うぞ? この身は大きくあろうとも昔からこの剣で……クックック」
ラビィからしても異常な目つきで、その力を讃えているかのように立っていた。
「兄上、あの異世界の者と"同様"の力を奴らから感じる……」
「女だぞ、気づかぬか? 奴の子種でも貰い受けたのだろう。その美貌らにはもったいないものだな」
「!」
その言葉に、ラビィもそしてメジェネアすらも怒気を抑えるのに必死だった。
「……すでに手付きか。下品極まりないな」
「まぁよい。捕らえたのちにその腹をかっさばいてかの子を腹から出してやればいい。奴が悔しがるだろうて」
そこにいるのは、邪悪極まりない笑みを浮かべさらには彼女らにとっての禁句をただただ述べるだけの薄汚い元人間の成れの果てだった。
彼女たちの中ではそう結論付け、そして構える。
「……語るつもりはありませんわ。道を遮るのであれば、ただの化け物となられた方に用はございません。冥府へと送って差し上げるだけですわ」
「……まっこと、腹の立ちようことがうまい化け物どもじゃ……わらわたちがどのような思いでこうまでせねばならんかったのかの一寸たりとも理解はできぬのじゃな……本当に、腹立たしいのじゃ」
静かに、魔王城でも激情のままに相手を屠ったメジェネアでさえその怒りはただただ静かだった。
その2人の圧に、ラビィの家族は後ろに下がるようにしていた。
なんという、自分の家族にこれほどの恐怖を覚えるなどというほどにその怒りは恐ろしかった。
「まぁいい。奴がここへくるまでの間に――」
「我らで弄んでやろうではないか……クックックック」
その瞬間だった。
ラビィは、第一王子、メジェネアは第二王子へと攻撃を仕掛けた。
だが、2人ともにうろたえずその攻撃を流してそして高笑いを浮かべて言い放った。
「面白いものだな、これほどまでに痛めつけがいがありそうな令嬢とは……」
「知っているぞ、お前元女王なんだろう? フッフッフ……」
「お父様」
「あ、ああ……」
「少しこの場を離れますわ。シュンスケ様がいらっしゃったら少々お待ちいただくようにおっしゃってくださいませんか?」
「ラビィの家族よ、そのように頼むのじゃ」
その怒気にすっかりリーステッド家の家族は震えるばかりにいう通りにしようと思った。
(この怒り、我が妻の怒りを超えるかもしれんな)
「ラビィ、存分に」
「はい、お母さま」
「ラビィ、もはや容赦はいらないわ!」
「ええ、姉さま」
そうして距離を開けた家族にラビィは、こちらですわと攻撃を仕掛けた上でメジェネアとは反対のほうへと駆けていく。
メジェネアも納得したのだろう、一度目を向けてこっちじゃと相手へと示唆した上でそちらのほうへと歩いていった。
しばらくして右から左から、それぞれに巨大な力のぶつかり合いを感じるラビィの家族たち。そこへ――
「あれ? ラビィに似たような感じの人たち?」
そこへ問題の瞬介が現れた。
リーステッド家の面々は、頷きそして――
「君がうちのラビィリンスに色々お世話している少年かね?」
と、代表して語り掛けてきた。
「え、あ、は、はい……」
瞬介は思った。
なんで彼らはこれほどまでに上から下までじっくりと見られているのだろうと。
まるで品定めするかのような視線にたまらず、瞬介は家族へと質問をした。
「あの……ラビィの家族ですか? すいません、あい――いやお嬢さんと褐色の黒髪の偉そうな美人がここに――」
「ああ、来ているとも。そして変容した殿下らと今戦闘を繰り広げているよ」
そうかと納得した瞬介は、今もバチバチにやり合ってるほうを見ながらとにかく待つ選択をすることにした。参戦したがっているフィーナとコーディを抑えて。
「……助太刀には、いかないのかね?」
「あいつらが負けるわけないですから」
即答。
その言葉に、元子爵であるラビィの父親はうーむという声を出さずにはいられなかったのだった。