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異世界”半”転移譚  作者: 武ノ宮夏之介
最終章「バイバイ! シュンスケ!」
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6話「帝国領での戦い⑥」

宇宙に出て、そして俺の住む世界――地球を目指してという言葉を聞いた俺は驚きながらもアーロンド=レニアの続きの言葉を待った。


「シュンスケ、僕は兄さまの生きたこの世界を守りたい。だからこそ、あの連中の中で生きそして起点となる君に情報を告げたいと思っていた。もう少し僕が早くこの情報を伝えられたらと思うと実に……」


「いや、あの頃は帝国の横やりもあってこっちも色々警戒してたし。それにすれ違うからこそ俺たち人間だろ? これから分かり合えばいいと思うよ」


「ああ、そう言ってくれてとても嬉しいよ。それでだ、彼らの狙いであるその冥海へと向かう手立ては――」


そんな語り始めから語られた言葉は神話の話だった。


かつて、この世界を生み出した星母。

そしてそれから生み出され最初の人となった天を穿つ大巨人。

この世界にあらゆる生命を星母と生み出し、そして命尽きてその遺体が大陸になった。血は海や燃える血の海に……きっとマグマのことだろう。


そして、古代国家"公国"はこの神話を元に世界を牛耳るために、その星母の力を狙っていたということだった。だが、眠る星母が再び目覚めればそれはこの世界の崩壊を意味することを知った公国は、目覚めないまでも夢を見る力に着眼点を当てにその当時から最上位種であった精霊族らを超えるために、その夢の力を手に入れようとしたということだった。


やがて、多種多様な種族による混沌の時代によって、古代国家としての公国は滅びるわけだが血筋は耐えることはなく、新たに起こった帝国の兄弟国として、影として将来のためにと研究を続けながらも決して血族を耐えることなく、続いていったということだった。


「それが、レニア家ってことか?」


「昔は、レニアじゃなくレニアスだったそうだよ」


「レニアス=トランドって、うちの仲間に聞いたよ」


「そうだ。そのレニアスは影に生きる暗殺者として生きながらも、この世界を手に入れることを考えていた……だけどあることでその狙いはこの世界を超えたところへと徐々に移っていった」


「精霊女王の捕獲か?」


『……』


「ああ、研究として使ったこの世界でも稀なる巨人の隕鉄と呼ばれる鉱物によって妖精族を捕獲するための首輪を偶然作り出したんだ。そして、それは精霊族にも……。果ては友好的な訪問ということで訪れていたその頂点に立つ精霊女王に効いたがため、それを使用して捕らえることに公国は成功した」


「妖精女王様!」


『……わかっています』


姉妹を捕らえられたという言葉に、妖精女王の精霊力が圧を伴って押し寄せたのを俺は言葉でたしなめた。


「それを解き放ったのが、君――いや前世の兄さまであり、この公国の第三公子モーメンツ=レニアだったんだ」


「グルゥ」


その言葉に今度はコーディが唸ったが、撫でて抑えた。


「公国はそりゃもう大激怒さ。兄さまは僕を残し、そして自らこの国から去り冒険者として死んだ……獣国のとあるダンジョンで"公国が作った罠"によってね」


そうだったのか……。

あの森国とか獣国で見たあれは、公国の仕業だったのか。


「その後、公国は精霊女王が力を与えた魂の存在を知り、それを追って君たちの世界へと渡れる木を見つけそして異世界転移を果たした」


それは、精霊女王が送った贈り物であるハーフリンカーの力を宿した今の俺という魂で生まれた赤ん坊の俺なんだろう。


「君たちの世界の存在を知った大公は、この世界の支配ではなく、脱出しこの世界よりもさらなる発展をはたしている新たな世界――まぁ君たちの世界なんだけど、そこを目指すためにこの世界を滅ぼすという選択をしたんだ」


そんなことで……。

ただ俺からすれば、こっちのほうがまだまだ発展段階という感じだ。

なんせあっちには魔力という概念もないし、そもそも資源不足だなんだと言われているくらいに枯渇してるわけだし。


「大公にとっては、君たちの世界の創作物――銃を始め、ロボットとかそういうものがとても魅力的に映ったのだろうね」


大公は平和な世で暮らしてればさぞかし無害なただのオタクなおっさんだっただろうにと思ってしまった。


「だけど、そんなに都合よく目覚めさせることなんてできるのか?」


「ああ……それは、星母に悪夢を見せることだよ」


「悪夢?」


「君も知っているだろう? 嫌なことほど早く覚めたいと思う夢を」


そういうことか。

つまり、今の星母はこの世界がきちんと管理されている夢を見てそれをいい夢だとずっと眠りに就いていたいという感じなのだが、大公は逆に星母の力を取り込むために悪夢を見せてこの星の崩壊をいうことで目覚めさせたいわけなんだな。


たしかに、血で血を洗うような争いなんか誰も観たいとは思わない。


血?


血のように赤い魔物……。


「おいおい、血のように赤い魔物――ルビーデーモンって悪夢が現出した結果みたいなものか?」


「その通りだよ、過去砂国にいたという魔術師は公国の者で砂国を使ってそれらの実験にも関わっていたということだ」


メジェネアのやつ、怒るだろうな。

自分の国をめちゃくちゃにした原因は、ただの実験だったわけだから。


「なぁ、エルフ族が弱くなったって聞いたんだがそれも関係あるか?」


「ああ、もちろんだよ。帝国――その影にある公国は森国とは隣国関係にある。徐々に彼らの魔力、精霊力を吸い取るモノを彼らの大事にする結界樹に仕込んでいたんだ」


だからメジェネアもあの頃に比べればずっとエルフ族は弱くなったとか言ってたのか……。なんか色々と繋がっていくと本当に面倒くさいことをやっている公国だと感じた。


「大公は言っていたよ。星母の悪夢マザーテラオブナイトメアを起こして、星母を目覚めさせその力を使ってこの世界を脱し、そして君たちの世界へと向かうと……くっ」


「大丈夫か!?」


「す、すまない……僕は大丈夫だから。やっと君にこのことを話せられて満足したら、気が緩んでしまったらしい」


「ありがとう。それに悪いな、こんな風になるまで助けるのが遅れてしまって」


「気にしないでくれ……さ、僕は大丈夫だからさっさと――」


その時のことだった。

ズズーっという音とともに、何か浮遊感のようなものが俺たちを襲った。


「まずい……この公国の場所――いや、正確には帝国城のある場所が天穿つ大巨人の頭脳の部分にあたる……大公はもうすぐっ……」


そう言うと、アーロンドは気を失ってしまった。


「大巨人の頭脳部分? え、ってことは――」


『シュンスケ、まずい……です……私たちの……』


珠から発せられる力が徐々に失われていき、そして完全に妖精女王のホログラフが消えた。


俺はアーロンドを抱き上げて、上の階の適当なベッドに寝かせると外に出て帝国城へと急いで向かうことにしたのだった。



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