2話「迷宮令嬢」
2回目の依頼である護衛依頼。
本来は5人程度の冒険者がパーティを組んで行くわけだが、あの町で俺たちとは組みたがる人はいないらしく、たったの2人で依頼を受けることになった。
厳密には、フィーナのやつは冒険者登録してないので俺1人で受ける形だが。
後日、協会へ足を運んでとある中堅の商会の護衛依頼を正式に受けた。
その目的地は、なんと迷宮都市と呼ばれる都市だった。
しかも迷宮に興味があれば、そのまま迷宮に挑戦をしてもいいそうだ。
……気のせいか、迷宮に挑戦してほしそうな感じがしたけど。
何かあるんだろうか?
まぁでも、強い武器なんかや魔法的な何かがあるという迷宮は俺も興味があったし。
というわけで、協会側も商会側もなぜか慌てるように出発を促してきたので、早速出発することにした。
護衛する商会の方は、フィリーさんという方。
妖精を連れた俺との面談では、この方がフェアリーテイマーとか言われたんだが、
俺のいない間になんてあだ名がついたんだと思った。
距離的には2週間はかかるという。
北東方向の道を北からとある町を東にという経路で向かうと聞いた。
それぞれが1週間ほど掛かる距離で、また盗賊が現れる可能性があるので道中は注意してほしいということ。
それは、盗賊の命を奪うことはせずに必ず生かせてアジトを吐かせるようにということでだ。
なるほど、確かにそっちのほうが合理的だ。
それに俺もさすがに人間の命を奪うというのはしたくないし。
オーク?
あれは、豚だ。
というわけで、何やらブンブンと周囲を飛び回る蚊みたいなフィーナを見ながらも、周囲を警戒して進んでいった。道中にかかる経費などは全て商会と協会持ちらしいので俺たちは一銭も出してない。
だからこそ、きちんと依頼を全うしなければという感じだったのだが――
「はっはっは。 ……妖精殿はともかくあなた様は真面目でらっしゃるな。そこまできっちりと周囲を見回らずとも、まだ町から近いここらへんでは気を楽にしたほうがよいですぞ」
ゆったりとした服に、気の良さそうな恰幅のいい商人であるフィリーさんにそう言われれば俺としても気を楽にするしかない。
そんなわけで道中は、御者のやり方などを教わったり、たまにフラーっと出かけてはでかい猪を持ってくるフィーナに驚いたりしながらも、順調に迷宮都市へと向かって進んでいった。
ここで異世界モノでは、盗賊やら高貴なる方がピンチになったりするのだが――
そんなこともなく、本当順調に進み――フィーナがブンブン飛び回ってたり、どこかへ行っては獲物(猪、狼、熊などの)を獲ってくる以外は――ようやく2週間後には目的の地、迷宮都市ダイヤ・ログへと辿り着いたのだった。
町には、依頼であることと冒険者のネックレスをかざして簡単に入場できた。
ここは、他の町のように身元保証をする必要もなく純粋に攻略を進めてほしいという責任者の意図があるため犯罪者などもいてわりと治安も悪いそうだが、迷宮攻略のためにという意味では強い冒険者などもいるため、そんな相互のバランスのせいで治安はなかなかといったところだということだ。
なので町中を通る際は、賑わいもありまた怒声やらもあって俺たちが常駐している町――アランの町――とはまた違った賑わいのある町だなという感想だった。
「フィーナ、いいか?ここでは――」
「ちょっとそこの人間! 迷宮ってのはどこにあるのよ!」
という感じで俺が注意をしようとしたところで、このバカすぐに絡もうとしていた。俺はすいませんという感じでフィーナを握ろうとしたが、もうすでに相手は武器を抜いていた。
「……おい、なんでここに妖精がいやがる。げへへ、俺が捕まえて――」
――ドガーン!
「ぶべろば!?」
という声とともに、絡まれた男抜いた武器を残して不憫にもフィーナに殴られ、色々巻き込みながら吹き飛んでいった。
なんだなんだ喧嘩かと集まってきた人たちはそれを見て唖然とするのである。
そりゃそうだ。
食事の際、エルフの宿を利用しているのだがそこの店主・ミーティアさんが言うのは妖精族というのは魔法に長けており、物理的な力はからっきしだというのがこの世界での常識なのだ。それが、あんなに小さいのにあれだけぶっ飛ばしたりできるのは異常ということらしかった。
と、そんなことよりも止めなきゃ。
「やめろ、フィーナ! 聞き方ってもんがあるだろが!」
「シュンスケ! 何かあったらあたしを掴むのやめなさい! 変態!」
へ、変態とは心外な。
そりゃ掴んだ際に色々柔らかいのを堪能してるのは事実だが!
「変態いうな。ほら、周囲に人が集まってる! 逃げるぞ!」
そう言うと俺たちは、その場を離れようとした――しかし。
「お待ちくださいませ」
という言葉と共に、吹っ飛んだ男がこちら側に返ってきた。
それを俺の戒めから抜けただしたフィーナは片手で止めると、ポイっとどこか投げ捨てた。
コツ……コツ……コツ……。
そんな足音を響かせて現れたのは、トランクケースを持ったメイドさんとなぜかこの場で優雅にお茶を楽しむお嬢様風の人たちだった。
「いきなりの非礼を詫びることもせず、こちらに向かってあのような男を投げてくるとは何事でしょうか?」
と言って、次の瞬間――
――バキッ!
そんな音がした瞬間、メイドとフィーナがぶつかり合っていた。
「? ……なんでしょう。この違和感」
「面白い人間ね! ふふふふふふ」
そう言うとフィーナは、歯食いしばりなさいと的に拳をはあっと息を吹きかけるとメイドに向かってつけようとした。
いや、待てよ!
俺は寸前で、妖精の羽をグイっと引っ張って制したがもはや打撃は止まらなかった。そこへ――
「お、お嬢様!?」
優雅にお茶を飲んでいたお嬢様もいつの間にか、間合いに入りメイドさんは持っていたトランクケース、お嬢様のほうは足を高々と掲げてはフィーナの攻撃を受け止め、そしてそのままずずずーーっと後方へとその姿勢のままに吹き飛んでいった。
すげー……。
俺が止めたとはいえ、あのフィーナの攻撃を受け止めたのは初めて見た。
俺は関心と驚愕という微妙な感じでその衝撃を受け止めた。
「おい、あの二人」
「ああ……。"迷宮令嬢"たちにあの妖精、喧嘩を売りやがった!」
という声が聞こえた俺は、何やら面倒な目に遭う予感がしたのは仕方のないことだった。