1話「第二の依頼」
「やっと戻ってきたわね。本当にシュンスケはしょうがないわね!」
あれ、俺って異世界側に来たのか?
というほど今度は両頬に違和感がなかった。
「ああ、あっちでは学校生活が始まったし、何より鍛えたかったからなんだけど……」
「3日間つまらなかったわ!」
「3日!?」
どうやら俺があっちで1週間生活してる間に、こっちでは3日も経っていたらしい。
というか、こっちの俺は相変わらずぼーっとして何も活動せずだったので、面倒を見るように言われたこいつとしてはそれはそれは暇だったということを耳元でギャーギャー騒いでいた。
俺はそんなフィーナを押しのけると、ベッドから降りて背伸びをした。
オークからの避難誘導とか、それが切っ掛けでの逃走劇しかしなかったとはいえ、さすがに疲れが残ってるのかなと思えば、そんなことはなかった。
3日も寝てれば当たり前かと俺は協会へ行くことにした。
……散々留守番してろというフィーナも連れて、だ。
協会へくると、なぜか一層ざわついた雰囲気を感じた。
こいつ、なんかしたな。
「お前、なんかやったのか?」
「ん? ただ新入りに分からせただ――ひひゃいひひゃい、ひゃへにゃさい!」
―おい見ろよ。あいつ、あの暴力妖精を
―すげーよな。あいつくらいだぜ。あんなことできるの。
なんか言われてる気がするけど、スルーする。
フィーナの頬を引っ張りながら受付にくると、リエナさんが笑顔で待っていた。
「シュン様。ようやく、いえ――きていただけありがとうございます」
「すいません。……なんかフィーナがご迷惑をおかけしたみたいで」
「いえいえ。あの方も真面目に依頼をこなしておりますので、結果的には」
「そ、そうっすか……」
何があったかは、聞けないがまぁ結果オーライならいいか。
「それよりも、シュン様。初依頼の件での報奨金が算出できましたので、お渡しさせていただきますね」
そう言って渡された袋に入った額は、驚きの金額だった。
「いや、あの……これもらいすぎじゃあ……」
「ここだけの話、フィーナ様は冒険者じゃないのですがそこは先方が気を利かせてくれたみたいで……」
……ああ、そういうことか。
討伐のほとんどはこの妖精がやったことだけど、冒険者じゃないから何の褒賞もないわけだが協会のメンツとしてはってことで、俺を経由した口止め料+フィーナへの報奨金ってわけなんだなというのがなんとなく察せられた。
理解力が半減してる今の自分でも察せられるのは、元の察し力が高いせいだろうか。まぁいいか。
「わ、分かりました。おい、良かったな……って、あいつどこいった?」
「ちょっと、あんた今あたしを観てたわよね!何よ、文句があるならいいなさい人間!」
あいつは何絡んでるんだ。
そう思って振り返るとそこにいたのは、俺の監視役となっていた冒険者のゲインさんだったっけ。
「よ、妖精の嬢ちゃん……わ、悪いが」
「何が悪いのよ! もしかして――いたっ!」
「ゲインさんに絡んでるんじゃねえよ。……すいません、ゲインさん」
俺はそう言って、強引にこのクソ妖精にも頭を下げさせた。
なんであたしが人間なんかにとか言ってるが、気にしない。
「よう、シュンだっけ? あんときはどうもな。それでな、ちょっと相談があるんだ。時間あるか?」
というので、俺たちは外に出ることにした。
▽
「……行ったか?」
「ガルマさん。ええ、ゲイン様に後のことをおまかせいたしました」
そう言って、何やら胸を撫でおろしてリエナがガルマに答えた。
「数日は明けてもらわんとな。……でなければ、この国が終わる!」
「そ、それだけは阻止しないといけませんものね!」
彼らが危惧している国が終わるということ。
それは、瞬介たちが一時の間この町を離れてほしい理由があったからだ。
その理由とは、この町を中心に支配をする存在。
つまりは貴族の訪問である。
人間の間では、大人しくしていれば害にはならないが、あの妖精がひとたび暴れればその存在は明るみになり、また"あの時"のような妖精女王が出張ってくるという危険がある。
そのために、瞬介とセットであるフィーナには町を離れてほしかった。
「しかし、受けてくれるかのう。あの妖精に反対されそうじゃが……」
「先ほどの光景を見ていらっしゃったのなら分かると思いますが、あのフィーナ様を止められる唯一の存在があのシュン様だけですからね。それに……」
それは、瞬介が目覚める前の日、つまり昨日のことだ。
「また昨日もいらっしゃって、武器をよこせと言ってらっしゃったことがありまして……」
「昨日もか……。ああ、なるほど武器がほしいのであれば"あそこ"は都合がよいものじゃしな。
……にしても、どうして3日の間姿を現わさなかったのじゃ?あの少年」
そうガルマが聞くと、リエナは宿泊施設に確認を取っていたのだが、
妖精により口止めされているというエルフの経営者の言葉を返した。
「つまりは何か理由があるのじゃな……。まぁ、ああして元気にしておるということはいいのじゃがな」
2人してため息を吐くと、彼らはそれぞれの仕事に戻るのだった。
△
「え、護衛の依頼……? ですか?」
「ああ、君の影の薄さ。あれは君以外にも影響すると、それから……」
そう言ってご機嫌に何やらフルーツ系の飲み物を飲んでるフィーナに目線を送った。
ああ、そういうことか。
つまり、俺の影の薄さと何かあってもこいつの怪力で護衛ができそうだと判断されたわけだ。俺としては――
「なんであたしが人間なんかの指図で……ふぎゅ!」
「お前は黙ってろ。……いいですよ、他の町にも興味があったしその依頼受けます」
そう言うと、ガシっと俺の両手を握ってきたゲインさんが言い放つ。
心の底からの感謝という感じで。
「ありがとうな!ほんっとーーーーーーに!!」
な、なんだなんだ。
この謎の圧力の感謝は……。
それで、どこまで護衛するんだろ?
俺の言いたいことが分かったのか、両手を話したゲインさんが指を一本立てて一言伝えてきた。
「迷宮都市・ダイヤログだ」