閑話「瞬介のいない異世界で①」
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あたしは、いつものとおり目覚めとともに羽を解してからあの人間――シュンスケのところにやってきた。
あの人間、あたしのことをいつもテーブルに置いて自分だけ人間の巣の寝床で寝やがっていたのでブーブー文句言ってやったらこれでいいだろう的に草と花を敷き詰めたあたしサイズのベッドを作った。
ふふふ、さすがあたしだわ。
号令が掛かってから、あいつに対しては直接害することはできなくてもああやって間接的にならチョッカイかけられると知って恐れ入ってるらしい!
そんなことを考えて飛んでいくとあいつはもう目覚めていた。
ぼーっとしてる。
「シュンスケ! なにぼーっとしてるの! 早く目覚めなさい!」
そう言って叩いたが、ぼーっとしていた。
あ、こいつ……。
この症状は前にも覚えがある。
あの時も同じように何度も何度もたたきまくったけど結局それなりの時間が経ってようやくって感じで、こいつの回りにいるときの気だるいあたしの力も通じなかったのが腹立った。さすがに本気でやるとこいつの頭潰しちゃうだろうし。
「こうなったらしばらくこっちには戻ってこないわね! つかえない!」
そう言ってあたしは、外へと出かけることにした。
なんかあたしに対して声をかけたような気がするけど、気のせいだろう。
気にせずに飛んでいく場所は、協会とか言われるあいつが所属している人間たちの巣だ。
あたしが"親切"にシュンスケのことを聞いたのに、絡んできた人間とか偉そうにあたしの前で話す人間だったり、あたしにとっては面白くない場所だ。
けど、あたしには他に行き場所がないし、話す相手もいないので仕方なくあそこにでかけるのだ。
華麗なる飛行の末にたどり着いた協会という巣で、あたしはあいつの担当とかいう訳の分からないことをいう人間の女に話しかけた。
……後ろから、暴力妖精だとか聞こえたけど、懐の深いあたしは気にしない。
「こ、これは、フィーナ様。当協会へ何の御用でしょうか? ……シュン様は」
「暇だったから来てやったのよ、感謝しなさい! 人間! あいつはまだ寝てるわ」
―暇だからって来る場所じゃねえよな。
―やめとけ、デイルのやつがどうなったか知ってるだろ。
というざわつきを無視してあたしの言葉に唖然とした感じだったが、あたしに一礼をすると人間の女は言った。
「冒険者でもないあなた様にこちらとしては……せめて、シュン様をお連れになってからお越しください」
そういえば、あたしは冒険者とかいう人間の集まりについてない。
なんせあたしくらいのレベルが一人間の集まりに就く意味が分からないし!
「ふん! シュンスケは寝てるって言ってるでしょ? 何か面白いことはないの」
そう、あたしは暇つぶしにきてやったのだ。
だからこの人間の女でもいいから、あたしの暇つぶしに付き合うべきである。
「そういわれましても――あ」
そこへ誰かがこの人間の巣に入ってきたらしい。
そしてあたしのほうに近寄ると、なんか言ってきた。
「おいおい、なんでここに妖精がいるんだ? 誰が飼い主だてめえは」
―あ、あいつ。
―誰だ?
―知らねえ。多分別の町からきたんだろ。
という言葉が聞こえてきたが、どうやらこの巣では新入りの人間らしい。
あたしは落ち着いて話しかけてやった。
「別にあんたには関係ないでしょ! 引っ込んでなさいよ、人間のくせに!」
ふふん。
これであたしに――と思ったが、何を思ったがこの人間あたしを摘まもうとするではないか。ここまであたしが引いてやったっていうのに。
――協会の外。
「うわああああああああああ。た、助けてくれええええええええ」
そこは大勢の人間がごった返していた。
何せ協会のすぐ外、そこで1人の人間が小さい妖精によって――ここに瞬介がいたらこういって言っただろう『胴上げ』と――空高く飛ばされては受け止められ、飛ばされては受け止められをされていたのだから。
赤ちゃんの高い高いを遥かに超えるハイ高い高いは、新しくこの町にやってきた冒険者の男にはたまったものじゃないし、何より周囲はその光景にドン引きである。
「あはははは! 楽しい言葉を出すじゃない!人間! お礼にもうちょっとだけ続けてあげるわ! あははははは!」
その光景は、ぼーっとしている瞬介も見えていたがそれに反応を示すことはなかった。
後日、瞬介が異世界側へと戻った際にフィーナとともに歩いたらモーゼのような道がしばらくできたことは言うまでもないことだった。