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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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「え、ん? 俺が? 買うの?」


 私の言葉で困惑する荒川が面白くて、つい笑ってしまう。 

 愛されキャラだな、と心の中で呟く。きっと、良い家庭環境で育ったのだろう。私とは違う人種だ。


「うん、買って。百円で」

「百円でいいんだ!?」


 荒川の声が大きくなる。


「買ってくれるの?」

「……百円なら」


 もっと大きい数字を言われると思っていたのか、彼はどこか拍子抜けしている。ゴソゴソと鞄からお財布を取り出している。

 二つ折りの皮財布。高校生が持つにはかなりお洒落で高級品のように思えた。

 はい、と私にピカピカに光った百円玉を一枚差し出す。

 まさかこんなにあっさりと渡されると思っていなかった。私は少しの間この状況を理解出来ずに固まってしまった。


「田原? いらないの?」

「いる! ありがとう! この靴箱に入ってる画鋲全部あげるね」

「えっと、……ありがとう?」


 疑問形で彼は答える。私は「どういたしまして」と愛想の良い表情を浮かべた。

 私達は人が来る前にせっせと画鋲を全て回収した。ビニール袋に全て入れたけど、ところどころから画鋲の針が飛び出ている。

「危ないね」と言うと、荒川は「なんだか武器みたいだね」とビニール袋をまじまじと見つめる。


「原始人にそれを売ったらもっと高値がついたのかな。画鋲爆弾があったら間違いなく頭になれるもんね」


 荒川は目をぱちくりとさせた。そして、楽しそうに顔を綻ばせた。


「田原って不思議だな。同じクラスなのに今頃田原の面白さに気付くとか、俺勿体ないことしてたわ」


 こんな風に同級生と話すのはいつぶりだろう。


「私も荒川君と会話出来て面白かったよ」

「なんでもうお別れみたいな言い方なんだ?」

「私に関わらない方がいいから。だから、話しかけちゃだめだよ」


 少し寂しいけど、しょうがない。

 荒川に迷惑をかけたくはない。折角画鋲を買ってくれたんだ。この恩に感謝しないと。

 どうして、と聞かれる前に私は笑顔を崩さずにその場を去った。

 私はきっと間違った選択をしていない。

 少しでも会話出来たことに満足しておこう。それに、今日は百円も獲得出来たし。

 まさかいじめで稼いじゃうなんて……。生まれて初めていじめに感謝する。

 画鋲が売れたおかげで、帰りにセールになっている菓子パンを買うことが出来る。

 二割引きかな、もしかして半額になってたりしないかな。クリームパンが食べたい。……あ、でも、メロンパンもいいな。

 放課後スーパーに寄って、どんなパンを買おうかという想像を膨らませる。

 ああ、もうなんて贅沢な悩みなんだろう。

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