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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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5 いつもと少し違う靴箱

 胸の辺りまである髪を一つにまとめてポニーテールを作り、家を出た。

 スタイルは悪くないし、顔も整っている方だと思う。身なりも整えているし、清潔感は意識している。

 誰かの悪口を言ったわけでも、騒動を起こしたわけでもない。それなのに、どうして毎日こんなに屈辱的な日々を送っているのだろう。

 家から学校までの十分間の通学路でぼんやりとそんなことを考えた。


「あ、向日葵」


 空き家が壊されてから更地になった場所に、向日葵が咲いていた。

 きっと、誰かが向日葵の種を植えたのだろう。花はこの暑さに文句も言わず、立派に咲き誇っていて偉い。

 私も花になりたい。

 


 学校に近くになると、高校生で賑わってくる。

 朝から元気な女の子の高い声と、男の子の楽しそうな笑い声。運動場の方からは、運動部の掛け声が聞こえてくる。

 サッカー部の練習を見たいが為に、朝早くから学校に来る生徒もいる。推しを見ることは「眼福」なんだそうだ。

 それだけだったらいいけど、他人に害を加えるのはやめて欲しい。

 人気者の妹になら、本来は媚を売っていいはずなのにな……。やっぱり、どこかで私と兄が本当の兄弟じゃないってことがバレてるのかも。

 とりあえず、熱烈なファンは怖い。もう無理な話だけど、出来れば関わりたくなかった。

 校門前に立っている生活指導の先生に挨拶をして、靴箱へと向かう。

 靴箱を開けると、ジャラジャラと音を立てて、画鋲が流れ落ちてくる。

「わッ」と思わず声を出してしまう。 

 こんな風に周りにあからさまに見えるような虐められ方は初めてだ。

 いつもなら、『消えろ』『シね』とか書かれた紙が入れられているだけなのにな。傍から見たら毎日ラブレターを貰っているように見えるだろう。


「え、やばッ」


 私の隣にいた同じクラスの男子が声を出す。

 荒川修吾。皆からは「修ちゃん」って呼ばれている。本人は嫌がっているみたいだけど……。

 あまり関わったことはないが、彼も頭が良い。テストではいつもクラスで二位。一位は私。

 周りには彼しかいなかった。大体の生徒はチャイムギリギリに登校してくる。私は家にいたくないからいつも早めにでる。


「なにこれ……。田原、大丈夫?」


 荒川は私の元へ近寄ってきて、心配そうな表情を浮かべる。

 女子のいじめの凄い所は周りに悟られず、私にだけ分かる嫌がらせをすることだったのに。

 いじめの質が落ちた……? 

 先輩に最初少しだけ嫌味を言われたことがあったけど、すぐになくなった。私が兄に告げ口すると思ったのかもしれない。

 けど、同期からの嫌がらせは決して終わらなかった。

 どうして彼女達は私が兄に何も言わないなんて思っているんだろう。


「お~い、田原! 聞こえてるか?」


 荒川の言葉にハッと我に返る。


「隠れるように入れられてなくて良かったよ」


 まさかそんな言葉が来るとは思わなかったのか、荒川は目を丸くして固まる。


「え、そこなの?」 

「だって、見えないように入れられてたら踏んじゃって、足の裏が血だらけになっちゃうもん」

「ええ、そういう問題!?」


 荒川は驚いた表情でいつもより少し高い声を上げる。


「あ、この画鋲売ったら、お金になるかな……」


 私は置いた画鋲を拾い上げて、掌に乗せる。

 今までだと、悪口を書かれた紙だったから、一文にもならなかった。けど、画鋲は実用性がある。


「う、売るんだ。売れる……のかなぁ」


 戸惑いながらも、真剣に荒川は答えてくれる。

 案外彼は良い人なのかもしれない。頭が良いはずなのに、いい意味で頭が良さそうに見えない。

 メガネはしてないし、クルクルとしたパーマを当てたような髪型。本人曰く、遺伝で生まれつきクルクルらしい。


「荒川くん、買ってくれる? この画鋲たち」


 私はニコッと彼に微笑んだ。

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