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私は二階にある部屋へと向かう。けど、これは自室という名の倉庫だ。
掃除機やもう使っていないボードゲーム、箱買いしている体に良いと言われているオレンジジュース、常にストックされている十個ぐらいのカップラーメン。
この部屋で唯一私のものがあるとすれば制服と教科書とパジャマだけだ。わずかなスペースで私は布団を敷いてそこで寝る。
…………私、シンデレラかな?
けど、シンデレラには王子様がいる。私には誰もいない。
この地獄から救い出してくれる人なんて現れない。
制服に着替えて、一階へと降りていく。そこにはもう既に父と兄が起きてきて朝食を食べている。
何も知らない兄に苛立ちを覚えることもあったけど、最近はそんな気持ちさえなくなってしまった。
一刻も早くこの家から出たい。そればかり考えている。
「はい、お弁当」
母はにこやかに兄にお弁当を渡す。
さっき私が作った具材を詰めて、それを風呂敷で包んむだけ。猿でも出来る。
「いつもサンキュー」
私が貰うはずだった感謝の言葉。
……兄はいつかこの事実を知る日が来るのだろうか。
「紗英は? 朝ごはん食べ」
「もう紗英は食べたでしょ」
兄の言葉に被せるように母は声を発した。彼女の笑顔に私は「うん」と小さく頷く。
もし、私がここで爆発して暴れたらどうなるんだろう。
喚き散らして、お皿を割って、両親に暴言を吐いて、全て本当のことを言ったら、何か変わるのかな。家を追い出されるかな、それとも彼らが私に対する接し方がましになるかな。
変化が欲しいって思うけど、私はそれが出来ない。両親に反抗するのが怖いんだ。
「ごちそうさま」
兄は食べ終わったお皿をキッチンの方へと運ぶ。その皿洗いは私がすることになる。
両親には良心がないのだろうか。……なんちゃって。
朝の楽しみなんて何もないから、しょうもないダジャレでも言って気分を盛り上げるしかない。
大体こういう状況になった人は、どうしてあのまま死なせてくれなかったんだろうって思うだろう。
けど、私は死にたくなんかない。痛くて苦しいのは嫌いだ。
私を捨てた両親の遺伝子を受け継いだのか、私の性格は卑屈ではない。腹が立つことはあるけど。病んだりは鬱になったりすることはない。
「行ってくる」
兄は大きなバッグとサッカーボールを持って、駆け足で家を出る。キッチンから「いってらっしゃ~い」と母が叫ぶ。
父は目玉焼きを少し残して、席を立った。母はエプロンを脱ぎ、仕事へ行く準備をする。
私は母と入れ替えでキッチンに立ち、フライパンから洗い始める。
しっかりとたわしで磨き上げないと、フライパンはすぐに駄目になってしまう。
ガチャッと玄関の開く。革靴とヒールの音が消えた瞬間、私はホッと体の力を抜く。
両親も兄も出かけた。今日も上手く朝を乗り越えた。
誰もいなくなった家で、私は母と父が食べ残したトーストと目玉焼きを頬張る。目玉焼きについたベーコンの肉汁が美味しい。
肉汁だけで満足してしまう。