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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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 兄が公園の入り口の方に息を切らしながら駆け足でやって来るのが見えた。

 まだ制服のままだった。きっと、家に帰ってすぐ私を探し出してくれたのだろう。部活後なのに沢山走らせてしまって少し申し訳なく思う。

 強豪サッカー部だから、練習は相当きつい。家に帰ればすぐにご飯を食べて宿題も手につかず寝てしまうのが普通だ。それなのに、私は晩御飯も作らずに家を出てきてしまった。

 お腹減ってないかな、なんて呑気なことを考えてしまう。


 ……今の時間まで私を見つけるために、ずっと走り続けてくれてたんだよね。

 遠くから見ても彼がどれだけ慌てていたのかよく分かった。額から汗が流れており、必死に私を探す彼の姿を愛おしく思えた。

 物凄く心配してくれていたのだと実感する。

 兄は公園の前で膝に手をつきながら、息を整える。暫くして、ゆっくりと顔を上げた。その瞬間、私達は目が合った。

「紗英」と低い声を漏らす。彼はまだ少し荒い息で呼吸しつつ、滑り台の方へと歩いて来る。

 どうすればいいのか分からず、体が動かない。

 

「そっち行っていいか?」


 兄は滑り台の前で立ち止まり、私を見上げながら優しい声で喋りかける。「うん」とだけ短く返した。

 滑り台の階段がガンガンッと音を立てる。兄が上って来るまでの数秒間、私は兄に掛ける言葉を探した。

 まずは謝罪をしなければならない。私のせいで兄は晩御飯も食べれず、部活の疲れを癒すこともできず、私を探す為に必死に動いてくれたのだから……。

 それから、その後に家を出た理由を言わなければ…………。

 頭でそう思っていても、私は昔あった父との出来事を兄に話すつもりにはなれなかった。兄にこれ以上迷惑を掛けたくない。

 ……上手く嘘をつければいいけど。

 気付けば兄は滑り台の上に到達しており、私の隣に立って柵に腰を掛ける。

 少しだけ気まずい空気が流れる。それでも私は先に口を開いた。


「……ごめんなさい」

 

 少しだけ声が震えた。

 兄が私に怒ることなんてないと分かっているのに、自分でも分からないけど、何故か怯えていた。


「…………何かあった? 学校でのこと、気にしてるのか?」


 そう言えば、教室の黒板に兄とのエンコウのことを書かれて、処女だって大声で発言したのは今日だった。

 あまりに今日が色々あり過ぎて、そのことを忘れていた。

 あの後、浅井雅人にモデルに勧誘され、荒川と会い、家出をして淳子に出会った。

 普段の私の生活を考えれば、今日一日で一か月分の出来事が起こった。濃厚な一日だった。

 いつもの生活が完全に崩れ去っていく。

「そんなこともあったね」と素直な感想を言う。

 すぐに兄は、私が家を出たことに対して他の理由があるのだと察した。


「家で何があったんだ?」


 私を射貫くように見つめるその瞳に、つい言おうと思っていなかったことを言葉にしてしまった。「父が怖くて」と。

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