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どれくらい時間が経ったのか分からない。気付けば辺りは真っ暗だった。
淳子は短パンのポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す。暗闇の中でピカッと画面が明るく光った。突然の明かりに思わず目を細めてしまう。
「やば、もう二十一時だ」
彼女が少し焦った様子で近くにあったビーチサンダルを履く。
裸足で海に来たわけじゃなかったんだ。
「ごめん、私、帰らないと」
淳子は申し訳なさそうに私を見る。「気をつけてね」と返すことしか出来ない。
彼女は堤防に手を掛けて、勢いよく堤防の上にのぼり私の横に並ぶ。
思ったよりも背が高く、少し自分が小さく見えた。私、百六十センチぐらいあるんだけどな……。
「…………うちの家来る?」
「ううん。行く当てあるから」
嘘をつく。
私に帰る家などない。二十一時ってことは、両親や兄は私がいなくなったことに気付き、大慌てで探しているかもしれない。
探してくれているのは、兄だけかな。
ザザザッと波が大きな音を立てる。海からくる少し強い風に淳子は少し目を瞑る。そんな様子を私は目を閉じることなく見ていた。
彼女は明日も明後日も明々後日もこの世界に文句を言いながら、生き続けるのだろう。
真っ直ぐに彼女を見据える。目を薄く開き始めた淳子と目が合う。私と目が合った淳子は少し身震いしていた。
それぐらい私は無意識に彼女を睨むようにして見つめていたのだと思う。
純粋に淳子が羨ましかった。
心配する家族が待ってくれているなんて私には一生ない出来事だ。過保護が嫌だと一度でもいいから言ってみたかった。
「バイバイ」
私はそれだけ言って、堤防から道路側へと飛び降りた。スクールバックがぐるんっと揺れる。
淳子がどんな表情で私を見ていたのか分からない。私は彼女の方を振り向かずにただ足を進めた。
もしかしたら、もう二度と淳子に会うことはないかもしれない。今日だけの出会いかもしれない。
けど、今まで話した女の子の中で一番楽しい会話を出来た気がする。
淳子と友達になれたのかもな~、なんて考えながら私は夜道を歩いた。
目的地もなくただ歩き続けた。
荒川の家に行くことも考えたが、場所は分かるが連絡先を知らない。
タワーマンションってインターホンあるんだっけ?
最上階の五十階だってことは覚えている。大きなガラス張りの窓から見る景色は凄かった。高所恐怖症の人からしたら地獄だろう。
部屋番号は確か……、5006だったような気がする。タワーマンションなんて初めてで、あの時はただ荒川について行っただけだから、ちゃんと見ていなかった。
あんな広い部屋で一人ぼっちなんだよね。寂しくないのかな……。




