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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
31/46

32 邂逅 

 コンクリートで造られた堤防にのぼり、穏やかに流れる波をぼんやりと眺める。

 太陽はもう沈んでいるから、海の美しさはそこまで伝わってこない。けど、夜の海は好きだ。心を落ち着かせて、静かに波の音を楽しめる。

 不規則なリズムを奏でる波。薄暗い空に三日月が浮かんでいる。完全に夜になったころには、家の中は騒がしくなっているだろう。 

 私は、もう家には戻れない。


「私が死んだら、誰か悲しんでくれるかな」

 

 ……私が言ったんじゃない。

 声がした方へと視線を向ける。軽く見下ろすと、砂浜に私と同年代ぐらいのショートヘアの女子生徒がいた。Tシャツに短パン、と身軽な格好をしている。足は裸足だった。


「この波じゃ簡単に死ねないよ。もっと荒波じゃないと」


 関わらない方が良いと思っていながらも、つい声を掛けてしまう。 

 もうおかしくなってしまった日常を今さら修復できない。どうにでもなれ、とやけくそになっているのかもしれない。

 私の声に反応して、女子生徒は私の方をゆっくりと振り向いた。シュッとしたきれの長い目にいっぱいの涙を溜めていた。

 表情は悲しさに覆われているのに、彼女の瞳の奥から激しい怒りを感じた。

 どこかで見たある顔……。


「相当な覚悟がないと、溺死は無理だもんね」

 

 私はどこで彼女を見たのか思い出せないままそう付け加えた。

 彼女は私をじっと見つめた後、目を見開いた。「田原、田原紗英?」と私に確認するように声を出す。ボーイッシュな見た目に反して、高い女の子らしい声だった。

 まさか自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったから驚いた。だって、彼女が着ている制服は私が通っている学校、波浦高校のものではなかった。


「うん、そうだよ。どうして知ってるの?」

「私、律の元カノなの」


 兄は他校にまで手を出していたのか……。まぁ、波浦高校であんなに人気があるのだから、他校でモテても不思議ではないか。


「部活で波浦に合同練習に行った時に、律と知り合って、なんだかお互いに波長が合って付き合ったって感じ」

 

 彼女が兄と波長が合うのはなんとなく分かる気がした。

「何部?」と聞くと「陸上」と返答された。確かに、陸上っぽい。ザ・短距離選手って雰囲気が滲み出ている。

 少し焼けた肌に筋肉はあるが細い足。全体的にスタイルがとても良い。身長も女子にしては結構高いと思う。

 彼女のことをどこかで見たことがあると思ったのは間違いではなかった。学校で兄を発見した時に、彼女が隣にいたような気がする。兄の彼女のことなんて、さほど興味がなかったから大して覚えていないけど、彼女は何故か印象に残っていた。


「紗英、ちゃんのことは波浦に行った時に何度か見かけてたよ。かわいい子いるな~~って思ったら、律も紗英ちゃんのこと見てたから、誰? って聞いたら、妹って言われた。……けど、あれは妹を見る目じゃなかったな~~」

「でも、私は妹だよ」


 少し疑いの目を向ける女子生徒に向かって私はいつもの外用の笑顔を向けた。彼女は私の言葉に納得していなかったが、「へぇ」と相槌を打つ。


「……まぁ、私にはもう関係のない話だけどね」


 なんで別れたの、と聞こうと思ったがやめておいた。これは兄と彼女の問題であって私が勝手に立ち入ってはいけない。

 代わりに「名前は?」と聞いた。


「淳子、松沢淳子だよ」


 彼女はフッと目を細めて笑みを浮かべる。

「淳」と呼ぶ兄の声が記憶の中で聞こえた。彼女が兄が唯一私の前で口にした女の名前だ。

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