27
うるさい蝉。カラカラの喉。脳みそが溶けていくような感覚。
「ご両親は家にいるの?」
「いないよ。一人暮らし」
え、と驚きの声が漏れてしまう。てっきり荒川は実家暮らしだと思っていた。
あまり触れない方がいい話題なのかもしれない。
「今日、お兄ちゃんとお昼ご飯食べなかったんだ」
話を逸らす為に、今日の出来事を彼に話す。まるで放課後、仲の良い友達と会話しているように。
いきなり私の兄の話題になったのか、今度は荒川が驚く。
「初めてなんだよね、高校入ってから一緒に食べなかったの。今日、私が食べたかった唐揚げ入れたのに……」
「なんかあったの?」
「荒川君は私と会うのが気まずかったでしょ?」
図星だったのか、彼は何も言い返してこない。「私はその相手がお兄ちゃん」と付け足す。
朝、あんな出来事があったのだから、これ以上あまり兄に関わらない方が良いと思ってしまった。私といれば兄の評判を落とすことになる。
「あ、これ、荒川君に対しても昨日同じこと思ったな」
「何が?」
「私と一緒にいない方がいいって」と私は彼に微笑む。
けど、実際こうして徒歩で彼の家にまで会いに来ているのだから、矛盾している。
隣で荒川は急に立ち止る。不思議に思い、私は彼の方を振り向く。彼の真剣な双眸が私を捉える。
「……あのさ、俺、田原のこともっと知りたい」
「結構知ってると思うんだけど」
「ちゃんと田原の口から聞きたい」
返答に困る。同じクラスだったけど、ほとんど荒川とは関わったことはない。まだ友達と言っていい関係なのかも分からない。
だけど、彼とは波長が合う。きっと私の立場がこんなに脆くなかったら、もっと深い仲になっていただろう。
「ごめんね、荒川君は共犯に出来ない」
私の笑顔に荒川は怪訝な表情を浮かべた。
「どういうこと?」
「荒川君は殺したい相手っている?」
私の質問に彼は詰まる。これが私と彼の決定的な差だ。だから、彼をこれ以上巻き込めない。こんな息の詰まる世界に呼び込んじゃいけない。
「……いるよ」
暫く沈黙が続いた後、荒川は静かにそう呟いた。彼の表情は憎しみに満ちていて、こんな暑い中、鳥肌が立った。




