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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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 兄は黒板消しを手に取り、高橋の元へ向かう。「消せ」と冷淡な声で差し出す。

 学校で人気者の兄がこんな冷たい声を人にかけるなんて、好感度下がっちゃうな。そんな呑気なことを考える。

 高橋は兄の圧に怯えて何も声が出ない。小刻みに震えた手で黒板消しを受け取り、自分で書いた文字をゆっくり消していく。エンコウ、という文字が段々薄くなり、やがてただの黒板を汚す薄いチョークの粉になる。

 ……援助交際じゃなくて近親相姦じゃないかな。

 私と兄の間に体の関係なんてない。不純とは無縁だ。私の体を売って、彼に優しさを与えて貰っているわけじゃない。


「本当はヤッってんじゃないの」


 後ろで小さく呟く女子生徒の声が聞こえた。沈みかけた怒りがまたこみ上げてきた。

 無意識に振り向いて、その女子生徒のことを睨んでいた。

 どうして外部にそんなことを言われなければならないんだ。非難の目を浴びるようなことなど何一つしていない。

 女子生徒は私に聞こえていないと思っていたのか、ビクッと肩が震わせた。

 私のことをろくに知らないくせに、陰でコソコソ悪口を言っている方が高橋より卑劣だ。押し殺せない怒りが私を覆う。


「処女だ! バ~カ!!」


 気付けば私はそう叫んでいた。兄も突然の私の大きな声に目を丸くしている。高橋も黒板を消す手が止まる。クラスメイト全員の視線が私に突き刺さる。

 高橋の時はこの怒りを抑えることが出来たのに、クラスメイトのたったその一言で私は壊れた。直接的な加害者じゃない傍観者。それも私の不幸を話題にして楽しんでいる卑怯者。哀れみの眼差しなんて一度も向けられたことがない。

 ほとんどの女子は虐めに気付いていた。高橋のいない時でさえ私は空気だった。誰にも声を掛けられることはない。

 こんな発言をしてしまったのに、羞恥心や後悔の念は一切なかった。ただ、私の心の中に爽快感だけが残った。

 普段何をされても静かだった私がいきなり声を上げたのだ。驚かれて当たり前だ。

 私は弱くなんかない。こんなふざけた日常に抗うことぐらい出来る。


「今度こんなことしたら殺すぞ」


 兄の氷のように冷たい言葉に高橋は弱々しい声で「ごめんなさい」と今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 誰も兄のこんな姿を想像しなかっただろう。

 この後、誰も私に声を掛けることはなかった。高橋も何もしてこなかった。クラスメイトの態度はどこか私に怯えているようだった。仕方ないな、と思いつつ、その日をやり過ごした。

 変に関わられるよりかは避けられる方が楽だ。これで暫くの間は嫌がらせをされることはないだろう。

 兄の噂はたちまち広まり、一日中その話題で持ちっきりだった。各学年、各クラス、そして先生までもが兄の話で盛り上がっていた。……勿論、私のクラスを除いて。

 そして、今日、荒川は休みだった。いるはずの席に彼の姿は見当たらない。

 昨日、雨に打たれたせいで風邪を引いたのか、それとも私と会うことに気まずさを感じたのか。どちらにしても、責任は少し感じる。

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