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チャイムと同時ぐらいにギリギリに学校に行くと人が少ないことも分かった。早すぎても遅すぎても生徒は少ない。
チャイムが鳴ってから、五分ぐらいは授業が始まるまで謎の休憩タイムがある。それなら後五分遅くても遅刻じゃないっていう制度が欲しい。
私が一年生の教室がある廊下を歩いていると、何故か生徒からジロジロとみられる。
昨日の兄とのことでざわついている様子じゃなさそうだ。この目は好奇心から来るものじゃない。
非難の目。白い目を向けられることには慣れているけれど、こんなにも大勢に見られることなんて今までなかった。
私は一年C組の扉をガラガラッと開ける。その瞬間、一斉にクラスメイト全員が私の方に視線を向けて静まり返る。
……な、なに?
戸惑いながらも教室に入って、状況を判断する。すぐにどうして私がこんな風に注目されているのかが理解出来た。
黒板に大きな文字で「田原紗英はお兄ちゃんとエンコウしてます♡」と書かれていた。その下には「そのおかげでお兄ちゃんに優しくしてもらってま~す」
私は恥ずかしさや怒りより先に驚きで動けなくなってしまう。
この丸っぽい字は高橋智花。私は一瞬でクラスメイトの中から高橋智花を見つけることが出来た。今日は茶色い髪の毛を耳のあたりでツインテール。先っぽはクルンと巻かれている。
彼女と目が合う。高橋は私を見て、ニヤッと楽しそうに笑みを浮かべた。
その瞬間、私の何かがプツンッと切れて、彼女にとてつもなく巨大な怒りが心の底から湧いてきた。
どうして私はいつまでもこんな奴になめられているのだろうって。
私が噴火しようとした瞬間、高橋の視線は私から外れた。私と高橋が乱闘する様子を皆見たいはずなのに、クラスメイトの視線は扉の方へと移る。私も一緒に彼らの視線の先に目を向ける。
「……お兄ちゃん」
今にも暴れだしそうな殺気を漂わせる兄を見ていると、何故かさっきまでの怒りが自然と消えていく。
自分よりも怒っている人を見ると、冷静になれるってこういうことなのか。
「誰だ? ……誰だよ、これ書いた奴」
兄は怒鳴ることはしないが、その静かな怒りにに全身の毛が逆立つ。兄のこんな冷たい声を学校の人達は聞いたことないだろう。
全員の視線が自然と高橋智花の方へと移る。高橋は兄が激高することを想像していなかったのか、顔を真っ青にして震えている。
私は少しだけ「ざまあみろ」と思ってしまう。散々私を虐めておいて、いざその怒りを向けられると怯えるなんて、私達を馬鹿にするのも大概にして。
「お前か?」
兄は高橋を真っ直ぐ見つめる。その鋭い視線に高橋は何も言えなくなる。
兄の気を引きたくて、私を虐めていたのかもしれない。……なんて歪んだ愛なんだ。「愛しているのに、上手く愛せない」と何かの小説で読んだ台詞を思い出す。
私もきっと兄に対して恋愛感情を持ったら、こうなってしまうのかもしれない。




