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「いってらっしゃい」と両親に見送るが、いつも通り無視される。
兄と私の関係が少し変わったことを両親は全く察する様子もない。兄が早く起きたことも両親は気付いていない。改めて彼らは私のことなんて眼中にないのだなと実感させられる。
私は今日も家族で一番最後に家を出る。ただ、今日は少し家を出るのが遅かった。
兄は朝練があるから、学校に遅く行くなんてことは考えられないだろうけど、私はいつ学校に着いても大丈夫。遅刻さえしなければいい。
早く学校に行って、荒川君と会うのが少し憂鬱だった。だから、今日はギリギリに学校に入ろうと思う。
家にいるのは嫌だけど、学校にいるのも嫌だ。……とうとう本当に居場所がなくなってしまった。
家を出るまでの間、私はこっそりと母の部屋に入る。私が昔兄から貰った誕生日プレゼントを突然取り戻したくなった。
何故か分からないけど、今しかチャンスがないと思った。
母にバレたら私はただでは済まないだろう。それでも、私は自分のものを取り返したくなったのだ。
畳の匂いが日本家屋の良さを感じさせる。部屋の隅っこに木材で作られた和風のドレッサーがある。
ドレッサーって言うよりかは鏡台の方が正しいのかも……。
グッと力を込めて引き出しを開ける。ずっと心臓がうるさい。ドクンドクンという音が鳴り止まない。
大胆なことをしているな、という自覚はある。人のものを勝手に漁るなんて許される行為じゃない。でも、母が持っている者は元々は私のものだから。奪われてものを返してもらうだけ。
そう自分を言い聞かして、引き出しの中をくまなく探す。
「あ、これ、私が貰ったリップ」
引き出しの奥から取り出す。このブランドで期間限定品だったこのリップ。間違いなく私が兄から貰ったものだ。
蓋を外し、中身を確認する。もうリップとして使用できるような状態じゃない。
きっと兄が私に似合うと思って、赤いリップを買ってきてくれたのだろう。そう思った途端、急に悲しさと悔しさと怒りの波が押し寄せてくる。
もう使い終わったリップをギュッと握る。ついに私の元に戻って来た。
守ってあげられなくてごめんね。私のものだったのに、母に使われちゃってごめんね。
私は心の中で何度もリップに謝った。
傍から見れば、頭がおかしいって思われるかもしれない。けど、それぐらい私の精神は限界だったのだろう。
今まで我慢して耐えてきたものが崩れていく。
「絶対泣いたりしない。泣いたりするもんか」
目に溜まる涙をグッと落ちてこないように手で拭い、私は立ち上がる。
両親が羨ましがるぐらいに幸せになってやるんだから。




