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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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 落ち着いて、なんてとてもじゃないけど言える雰囲気じゃない。

 兄の中にある爆弾が今にも爆発しそうだ。今は殴られたことの話題からはなれた方が良さそうだ。


「制服洗濯機に入れてくるね、明日には乾くから」


 逃げるようにして、私は兄の鞄を強引に奪って洗濯機の場所へ行く。まだ濡れた制服を鞄から取り出す。

 兄は本気で両親を殺したいって思っている。私よりもずっと強くそう思っているんだ。

 ……高校生って自分が一番じゃないの?


「終わった?」


 兄の声に私は思わずビクッと体を震わせてしまう。これだとまるで私が兄に怯えているみたいだ。


「俺のこと、怖い?」


 いつもの柔らかい声じゃない。兄の顔が見れない。

 ……けど、今まで私が感じてきた恐怖に比べたら全然だ。これぐらい何とも思わなくていい。だって、兄が私に酷いことをするなんて考えられない。


「怖い、かもしれない。でも、兄を怖がるほど私は弱くない」

「そっか。強くなるしかなかったんだよな」

「……お兄ちゃんは怖いものある?」

「紗英を失うこと」


 兄はそう即答した。

 ガタゴトと音を立てて洗濯機が揺れる。この沈黙を気まずくさせないように洗濯機が気を遣っているみたいだ。


「お兄ちゃんがモテる理由が分かるよ」


 私は何とか笑顔で言葉を絞り出した。

 きっと彼はこんな言葉を求めていない。それぐらいは理解している。


「けど、お兄ちゃんサッカーに一途だから女の子にすぐ振られちゃうタイプでしょ」とその場の空気が少しでも明るくなるように付け足す。


「俺、振られたことないんだよな」

「なんかムカつく。……けど、意外。振る方なんだ。まさか食って終わりとかじゃないよね?」


 私の言葉に兄は咳き込む。まさか妹からこんな質問されると思っていなかったのだろう。


「それはない……と思う」


 兄はどこか自信にそう言った。なんだかむず痒い。


「モテる男子高校生は違うね」

「なんか紗英に言われたくない」

「え、なんで? 私まだバージンだよ」


 あああ、と私の言葉に被せて兄は私の口を手で覆った。大きな兄の手に私はちゃんと喋ることが出来ない。


「ひょっと~~、ひゃなして」

「そんなこと男の前で言ったら駄目だからな」

「にゃんで?」


 私が小さく首を傾げると、兄はようやく手を離してくれた。呆れた様子で兄は説明する。


「紗英を狙っている男なんて山ほどいるぞ。俺の妹だから皆が遠慮してるだけだ」

「でも、私、学校で女の子に虐められてるよ? まず友達いないもん」


 さらっと何も気にしていないかのように私は言葉を返す。


「それ俺のせいだよな」

「まぁ、そこは気にしないで」


「気にするわ」と兄が少し声を大きくする。

 なんだか兄と話していると虐めていることなんて気にならなくなってきた。兄はマイナスイオンを発しているタイプじゃない。なのにどうしてこんなにも落ち着くんだろう。


「俺がなんとかするから」


 兄はそう言って、嘘っぽい笑顔を浮かべる。少し不安を抱きつつも「ありがとう」と苦笑した。

 私はそのまま夕飯の準備に取り掛かる。兄も手伝うと言ったが、断った。眉尻を下げてしょんぼりしていたけど、私は夕飯の時だけでもいつも通りの日常を過ごしたかった。

 だって、今日はルーティンがぶち壊された日だから。最後ぐらいは元に戻しておきたかった。

 私はお味噌汁を作りながら、ぼんやりと今日の出来事を思い返していた。

 なんだか濃い不思議な一日だった。明日の学校のことは明日考えよう。 

 兄との距離も縮まった気がする。ずっと一緒にいたのに、彼と腹を割って、ちゃんと話したのは今日が初めてかもしれない。

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