2 数か月前
物心ついた時から私は家に居場所がなかった。
だから、学校が好きだった。
私にとって給食がご馳走だったから、中学生になりたくないと願った記憶がある。
朝ごはんと晩御飯は家族と違うものが用意されていた。大体納豆だけ。白飯を食べたことなんてほとんどない。たまに食パンを食べることが出来た。
けど、何の味もしないパンだ。バターもジャムもない素朴な味。だから、小学生に上がった時は驚いた。
パンにジャムを付けて食べてもいいなんて天国だと思った。
中学生の時のお弁当が一番苦労した。当時の食堂のおばちゃんと仲良くなり、こっそりと菓子パンを一つただで貰っていた。
私の家の事情を話すと、目に涙を溜めて「可哀想に」と哀れみの目を向けられた。
どうして可哀想だと思われているのか理解出来なかった。私にとって、この生活が当たり前だったから。
……おばちゃんがくれた焼きそばパンは最高に美味しかった。
私は少し周りの皆と感覚が違ったが、小学生中学生は虐められずに過ごしてきた。
家事をしないといけなかったから、放課後に遊んだことは一度もなかったが、友達もいた。学校生活は楽しい時間を過ごしていた。
けど、高校生になった今は、学校にも居場所がなくなった。
部活に入りたかったが、中学生の時も禁止され、高校生でもそれは続いた。理由は明快だった。私が部活に入ると、お金がかかるし、家事をする人間がいなくなるからだ。
二つ年上の兄は同じ学校のサッカー部に所属していた。彼は小さい頃からずっとサッカー少年だ。
彼の才能が認められた為、引き抜きで今の高校に入った。今じゃ、サッカー部のエースだ。
私達が行っている学校は波浦高校。強豪サッカー部があることで有名だ。
両親にとってはさぞ自慢の息子だろう。
小さい頃に私は本当の家族じゃないと教えられてから、兄との差別は普通だと思っていた。
地獄と天国の差に感じていたけれど、これが当たり前なんだって自分に言い聞かせてきた。
兄に負けないようにと、勉強に関しては私は学年五位以内には常に入っていた。
いつかこの家を出てやるって気持ちが強かったのかもしれない。そして、波浦高校は勉学にも力を入れており、超難関大学の合格者数もトップだ。
……けど、何故か高校では私はいじめの対象者となった。
兄はお弁当を持ってきているのに私にはない、という些細な疑問から大きないじめへと発展した。大人なようでそうでない高校生は子供じみたいじめが好きなのだ。
もし兄が人気者じゃなかったら、私の高校生活は変わっていたのかもしれない。私はこの学校でそれほど目立たなかった。
兄は顔は整っているが、私とは正反対な顔つきだった。爽やかな好青年。ユーモアがあり、朗らかな性格と身長は高く、その端整な顔で色んな人を魅了した。
人を惹き付ける才能を持った人だ。誰もが彼に好意を抱いていた。
けど、私は違った。そんな彼の妹だということで近寄ってきた人は多かったが、私は兄のように振舞うことが出来なかった。
同じ家族だけど、育った環境が違うのだからしょうがない。
兄はいつも母に私の分のお弁当も作るように言っていたが、母がそれを実行したことは一度もない。
お弁当のない私を不憫に思ってのか、いつも兄に誘われてお昼ご飯を一緒に食べていた。
兄の分のお昼ご飯が無くなることを心配したが、彼は足りなくなったら食堂で買えばいいと笑顔で答えてくれた。
私と違い彼はお小遣いがある。彼の知らない所で私はどんどん惨めな思いをしていく。
もちろん高校で虐められていることは兄は知らなかった。両親が私に酷く当たる時も兄のいない時だった。
そして、全てを知った時、兄は怒りと共に崩壊する。