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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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「どうしてお兄ちゃんはピアス開けたの?」


 学校から兄と返るなんて初めてだ。見慣れた帰り道なのに、今日はいつもと少し違う。だけど、居心地が良い。

 私の素朴な疑問に兄は少し悩んでから答える。


「……大人になれるって思ったから」

「なんかちょっと分かる気がする。けど、ただ耳たぶに穴が開いただけだったよね。てか、強豪サッカー部なのに、ピアスオッケーだったんだね」

「実力でアンチを黙らすことが出来るからな」


 恥じることもなく、そう返答した兄は流石だなと思う。

 私はそんな誇れるような特技がない。バスケットボールを習いたかったけど、とても習える環境じゃなかった。

 あと、そろばんも習いたかったなぁ……。

 昔抱いた思いを今になって思い出す。あのそろばんのパチパチという音が好きだった。

「紗英は?」と今度は私に問う。


「なんでピアス開けたの?」

「上手く言えないけど、痛さだけが本物だって実感できたから。この世界がもし夢なら私は瞬間的な痛みで覚めるかもしれないって。体のどこかに穴を開けることによって私はこの世界から抜け出せるんじゃないかって。愚かな理由でしょ? 伝わった?」


 兄は、なんとなく、と呟く。

 お互いに歩く速度がやや遅くなる。もう少しこの不思議で非日常な帰り道を堪能したい。


「もし今の世界が夢だったら、覚めた時にどんな現実世界がいい?」


 そう言った兄の声はとても穏やかだった。

 雨上がりの空に少し虹がかかっているのが見えた。兄はまだ気付いていない。私は少しだけ意地悪をして、虹が出ていることを言わず、彼の質問に答えた。


「目が覚めたら、本当の両親が目にいっぱいの涙を溜めて私を見ているの。私を捨ててなんかいなかったって。私は何か事故に遭って眠っているだけだった。それで、一緒にアイスクリームの乗ったパフェを食べに行く。隣の家には優秀なサッカー選手がいるの。その男子高校生とは幼馴染でずっと仲が良い。……私はそんな優しい兄のような存在の男の子に恋をする」


 どう? と、兄の方を振り向く。


「いい現実だ」


 悲しいことにこの世界は現実だ。夢ならどれほど良かっただろう。


「本当の両親に会ってみたい?」


 まさか、と私は鼻で笑う。「私は捨てられたんじゃなくて、私が両親を捨てたんだよ」と答えた。

 たとえ空虚な強がりだったとしても、私にはそれが必要だった。

 嘘でも自信があるように見せて、何も気にしていないふりをする。それがあるから私はまだ私でいられる。

 崩壊寸前の茶碗をセロハンテープでベタベタに修正しているみたいな感じ。

 今はもう、セロハンテープが腐ってこないことを願うしかない。

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