13
制服から雫がぽたぽたと滴る。廊下を濡らしながら特に恥じた様子を見せずに歩く。私は沢山の生徒達の視線を集める。
じろじろと遠慮がない。男子はニヤニヤと笑みを浮かべて、女子は目を細めて引いている。
私は誰とも目を合わさず立ち止まらず足を進める。
服が冷えて少し肌寒い。まだ夏で良かった。これが冬だと思うだけで背筋がブルッと震える。
もう一つだけ替えの制服があるから、明日はそれを着よう。問題は今からどうやって授業を受けよう。体操服に着替えるしかないか……。
「田原!」と聞き覚えのある声が後方から聞こえる。
荒川、と心の中で呟くが、私は振り返ることはしなかった。こんな状況で私と関わっても彼にメリットなんてない。
待て、と声が少し大きくなる。
今は荒川を守る余裕なんてない。自分のことで精一杯だ。
「待てって」
彼は私の右肩を少し強く握る。肩から荒川の熱を感じる。
男の子の手って案外大きいんだ。
荒川の髪から今にも水滴が落ちてきそうだ。私よりかは濡れていないが、彼も雨の中にいたことが分かる。
……これだと変に誤解されてしまいそう。私と荒川が一緒にいたって噂が広まる。
「手、離して」
「あ、ごめん」と謝り、荒川はそっと手を離した。
さっきまで教室で騒いでいた男子生徒達も私達の様子を窺う為に窓から顔を出している。コソコソと話していた女子生徒達も黙り込む。
私と荒川の声だけがその場に響いている。
「シャツ、その、透けてるから」
頬を赤く染めながら、私から目を少し逸らして荒川は小さな声でそう言った。
私は自分の胸元へと視線を落とす。白いシャツが肌にピッタリとくっついている。そこに浮かび上がるのは、真っ黒なEカップのブラジャーと瑞々しい白い肌。
普通ならキャッと手で隠すのだろうけど、今更隠そうとも思わない。もうそんな感情は無くなってしまった。
中学生の時に父に犯されそうになってから、私の何かが壊れた。なんとか未遂で終わらせたが、その時私の中で全て変わってしまった。
私がぼんやりとしていると、突然視界が真っ白になった。冷たい布が頭から覆いかぶさる。何がなんだか分からない。
必死に布の中でもがき、バッと頭が抜け出した瞬間、兄の上半身が目に入る。
スポーツしているのがよく分かる割れた腹筋。その鍛え上げられた筋肉からは色気が感じられる。彼は怒りに似た嫉妬に近い感情を私に向けている。
「お兄ちゃん?」
なんで裸? と聞こうと思った瞬間、自分が今着ている服が兄の着ていたものだと分かる。「行くぞ」と兄に強引に手を引かれて私はそのまま抵抗することなく連れられて行く。
荒川のことが気になり、後ろを振り返る。彼は切なそうな目で私を見つめていた。