太陽を食べる話
あるところに悪魔たちが集まって話をしていました。
悪魔は夜に活動して、人間を困らせて楽しんでいましたが、太陽が苦手なので昼間は暗い場所でじっとしています。
このいまいましい太陽さえなんとかすることができれば、昼間も人間を襲うことができてもっと楽しくなるはずだと悪魔たちは考えました。
「太陽は苦手だけど、曇り空の日は外に出ることが出来る。だからなんとかして雲で覆ってしまえばいい」
「その雲はどこから持ってくるんだ? 雨乞いの祈祷は人間の専売特許だ。しかも効果はないときてる」
「ははは、違いない。傘を差して日の下を歩いた仲間がいたが、うっかり足をはみ出したら日の光に焼かれて足を失ってしまったそうだ。あんな小さい傘じゃ怖くて外を歩けない」
「いっそ街を傘で覆うか」
「だからそんな大きな傘はどこから持ってくるんだ?」
「……」
「あー……他にアイデアのあるやつ」
その時、大勢の悪魔たちの中で、一人の悪魔が手を上げました。
「太陽が嫌いなら、食べてしまえばいい」
悪魔たちはその意見に声を上げて笑います。
「冗談じゃない。あんなものを食べたらお腹を壊すに決まってる」
「大体手の届く場所に無いじゃないか」
「食べれるものならお前が食べてみればいい」
手を上げた悪魔は笑い合う悪魔たちを気にしません。
ただ一言
「分かった」
と言うと、それまで笑い合っていた悪魔たちはピタリと口を閉ざしました。
「私が太陽を食べる。それでいいだろう?」
悪魔たちは黙っていましたが、その目は鋭く、「嘘だったらタダじゃ済まないぞ」と言っていました。
手を上げた悪魔は他の悪魔たちに、太陽を食べる詳細な手順を説明しました。
自分が太陽を食べたら昼が夜になるから、自分たちの目で確認して欲しい、それが証拠になる、と言いました。
悪魔たちは完全に納得できませんでしたが、太陽を食べることができなかった事を確認したら、みんなで手を上げた悪魔を殺すつもりでした。
その日は雲ひとつない青空で、悪魔たちは物陰に隠れて、じっと外の様子をうかがっていました。
どういう方法かは分からないけれど、今日手を上げた悪魔が太陽を食べることになっていました。
そしてその時はやってきました。
空がどんどん暗くなっていきます。
悪魔たちは慌てて外に飛び出しました。
そこへ、手を上げた悪魔の声が響きます。
「どうだ! 見たか、太陽は私が食べた! お前たちはもう光におびえることはない。さあこっちへ来てお祝いのパーティを開こう」
悪魔たちは喜び勇んで手を上げた悪魔のいる広場に集まりました。
そしてあの憎らしかった太陽の消えた空を、万感の思いで見上げます。
そしてその時気付きました。
最初は小さな光でした。
その光がみるみるうちに強くなります。
最初の小さな光を見た悪魔たちは目を焼かれました。
そして顔を抑えてうろたえる悪魔たちを、姿を取り戻した太陽が強烈に照らし上げます。
悪魔たちはパニックになって暴れますが、目を焼かれたのでどちらへ逃げていいのか分かりません。広場には隠れる場所もありませんでした。
そうこうしているうちに悪魔たちは全員太陽の光に焼かれて、灰になってしまいました。
手を上げた悪魔だけが一人広場に残りました。
彼は悪魔ではなく人間だったのです。
彼は天文学者で、今日が皆既日食の日だと知っていました。
この日から皆既日食には悪魔を祓う力があるとされて、お祭りが行われるようになりました。
46年ぶりの皆既日蝕ということで、童話風の日蝕ネタです。