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<R15>15歳未満の方は移動してください。

授業中にオナラをしてしまった隣の席の美少女の代わりに罪を被ってあげたら告白された。

作者: ユキオ。

 こういう青春を送りたかった。


 「一番後ろの窓際から二番目か……」


 席替えによって俺の新たな席が決まった。

 漫画やラノベの主人公なら窓際なんだけど、窓際から二番目ってのが俺らしいよな。

 俺の名は小笠原(おがさわら)

 クラスで浮いた存在だ。

 入学してからとにかく友達がほしくて、クラスメイトに声をかけまくっていたのが逆に必死に思われて敬遠された。

 元から暗い奴が無理して明るく振る舞ってもすぐにボロが出るんだよな。

 そんな俺にとって席替えなんてイベントは最悪だ。

 俺の隣になったら嫌な顔をする奴もいれば、 「最悪……」 なんて言う奴もいる。

 その度に俺の心を抉るような感覚が襲う。

 

 そして今回の席は最悪だ。

 一番後ろの窓際は話せる奴の範囲が狭い。

 その数少ない内の一人が俺になるわけだから、申し訳ないよ本当。

 今回もきっと、俺の心は抉られるだろう。


 「お……小笠原くん……よろしくね?」


 するとその窓際の席にやって来たのはーー


 「こ、小濱(こはま)さん……」


 やはり最悪だ。

 小濱さんは顔からみて分かる通り、クラスカースト最上位の明るくてよく話す子だ。

 俺なんかとは真逆の存在。

 はぁ……絶対嫌がってるよ。

 くそ、俺は運まで悪いのかよ。

 

 「……小笠原くんとは、話すのは初めてだよね?」

 「そ、そうだね……」

 「……」

 「……」


 き、気まずい。

 やはりクラス一の美少女でありリア充と話すのは尋常じゃなく緊張する。

 それに小濱さんも困ったような表情を浮かべている。

 あの小濱さんですら手に負えない俺ってやばくないか?

 はぁ……早く席替えしたい。


 そして六時限目。

 本日最後の授業は担当教師が体調不良で休みのため自習だ。

 教室内は静寂に包まれて、一層緊張してくる。

 早く解放されたい。

 

 「……ん」


 ん? 今隣ーー

 小濱さんから小さい吐息みたいなのが聞こえた気がしたぞ。

 俺はチラッと横目で彼女を見てみた。


 「……っ」


 やはり小濱さんは声を押し殺そうと唇を噛み締めている。

 それに、足を盛りにくねくねさせている。

 もしかして、トイレとか?

 そんなことを思っていると、ついにその瞬間はやって来た。

 絶望の瞬間が。


 「……っ、も、もぅダメ……」


 小濱さんは俺にギリ聞こえるくらいの声でそう漏らすと……


 ブウウゥゥ! ブッブフォォ!!


 盛大にオナラした。


 静まりかえった教室に、その女の子とは思えない豪快な音が響き渡った。

 一瞬の間があり、教室中のクラスメイトが音のした一番後ろの窓際を見る。

 

 「あ……あ……」


 小濱さんは顔を真っ赤にして俯く。

 ……やるしかないか。


 「あ! 悪い悪い屁こいちまった! 皆集中してるのに悪いな! さあ気にせず続けてよ!」


 俺は小濱さんの身代わりになった。


 「あはは! 小笠原くんかよ! キャラに似合わねえ」

 「小濱ちゃん! 臭いから逃げた方がいいよ!」

 「あんなでけえ音初めて聞いたわ!」 

 「臭いうつるから近寄んなよー」


 クラスメイトたちはニヤニヤした顔で俺を嘲笑する。


 「せ、生理現象だから仕方ないだろ!」


 ったく、人の不幸を笑い者にしやがって。

 

 「あの……小笠原くん……」


 ふと隣から名前を囁かれたので見てみる。

 小濱さんだ。


 「……ありがとう」


 俺にしか聞こえないくらいの声で、赤い顔で、優しい微笑みでお礼を言われた。


 「……ん」


 俺はそれだけ返すと、すぐにまた前を向く。

 何だ今の顔は。

 めちゃくちゃ可愛かった。

 一瞬で好きになってしまった……。

 この顔を見れただけで庇った価値があったぞ。

 この席、最高だ。

 そんな気持ちのまま自習は終わった。


 「おい小笠原、さっきの屁もう一回やってよ!」

 「あれ、なんかこの辺臭くね?」

 「もー、やめなよ男子! 小笠原くんが困ってんじゃん!」


 俺の席に何人かがやって来て、さっきのオナラをいじってくる。

 それをテキトーに受け入れる俺。


 「小濱ちゃんー! 一緒に帰ろー!」


 小濱さんの席にも何人かやって来て声をかける。

 相変わらず彼女は大人気だ。

 よかったよかった。

 彼女のようなリア充と違い、俺は失うものが何もないからな。

 人前でオナラをこくくらい、屁でもない。

 むしろ、それが俺の存在価値みたいなもんだからな。


 「あ、ごめん! 今日先生に呼び出しされてて、先帰っていいよ!」

 「あー、そうなんだ……。わかった! また明日!」

 「うん、またね!」


 へー、小濱さんみたいな品行方正な人でも呼び出しとかあるのか。

 まぁいいや、俺も帰ろう。

 俺をいじってきた連中も俺の反応がつまらなかったのか、いつのまにか消えてるし。

 俺は鞄を持って席から立ち上がると……


 「あ、待って! 小笠原くん」


 小濱さんが俺の腕を軽く掴んできた。


 「うおおい! ど、どうしたの!?」


 予想外の展開に動揺が隠せない俺。

 気がつけば教室には、俺たち二人だけだ。


 「さっきはその……あ、ありがとうね」

 「さっきの? あ、ああ、あれのことね」


 一応内容については伏せる。


 「小笠原くんには、言っておきたいんだ……あのね、私緊張すると……」


 ブゥ! プッ。


 「うぅ……オナラしちゃうんだ……」


 再びのオナラ。

 彼女は顔を真っ赤にして涙目になる。

 言葉だけでなく実際にやってみせるとは。

 こんなもの信じるしかないだろ。


 「そ、そうみたいだね」

 「だから……これからも、たくさんオナラしちゃうかもしれないよ……でも、もう小笠原くんに迷惑かけたくないよ……」

 「……そんなこと気にしなくていいよ。知らなかったか? 男は人前で屁をこいてようやく一人前になるんだよ。だから俺もあの時丁度屁をこきたい気分だったんだ。でも出なかったから小濱さんがしてくれて、むしろ感謝してるくらいだよ。お、これは乗っ取れるってね」


 正直フォローになってるが分からんが、これで小濱さんの気が少しは晴れればな。


 「ありがとう小笠原くん……優しい」


 小濱さんは俺の腕を掴んだまま立ち上がる。


 「でも、やっぱりこれ以上は私もオナラしたくないよ……」


 そして、俺を真っ直ぐ見つめる。


 「だから私と……緊張しない関係になってくれませんか?」


 ブ! ブブ!


 「あん……」

 「え……緊張しない関係ってつまり……」

 「わ……私と、つ、付き合ってほしいな……んん!」


 ブオゥ! プッ!


 何だこれは。

 夢か? こんな嬉しいことがあってもいいのか?

 そんなの決まっている。


 「う、うおお!」


 俺は小濱さんの手を振り解いて、う○こ座りのような体勢となり、両手は力強く握り拳をつくる。


 「え? え? 何が起きるの!?」


 困惑する小濱さんを他所に、俺はお腹に思い切り力を入れる。


 「うおおおおおおおお!!!!」


 そして……


 ブウゥ! ブオオオオオォォォォ!!!


 盛大にオナラをこいた。

 

 「これで……おあいこだぜ」

 

 俺は立ち上がり、小濱さんを見つめ返す。

 危ねえ、実まで出るとこだったぜ……こんな真剣な場面で脱糞とか笑えねえよ。


 「……ありがとう小笠原くん。そのオナラはOKって意味だよね?」

 「もちろんだ、俺も小濱さんが好きだ」

 「っ! 嬉しい! やっと伝えれた……!」

 「え? やっと?」

 「実は私ね、入学した時から小笠原くんのことが好きだったんだ。頑張って周りに声をかけてるあなたに惹かれたの。でも、私はこんな体質だから、きっと小笠原くんに話しかけたら緊張してオナラが出ちゃう。そしたら小笠原くんに嫌われるんじゃないかと思って声をかけれなくて……」


 小濱さんは照れながらも真剣に俺への思いを語る。


 「案の定隣の席になっただけで緊張して……オナラ出ちゃった……でも小笠原くんが庇ってくれて、すごく嬉しかった。やっぱりこの人を好きになれてよかったって思って、小笠原くんのことがもっと大好きになっちゃった。そして、気持ちを抑えれなくて、告白しちゃった……」

 「小濱さん……」


 教室は静寂に包まれている。

 まるでこの世には、俺たちしかいないかのように。


 「その思いが伝わって、本当に嬉しいよぉ!」


 小濱さんは俺に思い切り抱きついてきた。

 俺はそれを優しく受け止めて、手を彼女の背中に回す。

 華奢な体だ。

 この体のどこにあんなに空気がつまっているんだろうか。

 

 ブブッ! 


 「んあン……まだ出ちゃうみたい……」

 「大丈夫だよ。俺はたかがオナラで小濱さんを嫌ったりなんてしない。オナラごと小濱さんを愛してみせるよ。だから、もっと緊張することもしていきたい」

 「もっと緊張すること……?」


 小濱さんは顔を俺に向けて、ジッと見つめる。

 俺はその彼女の小さくて可愛い唇に、自分の唇を重ねる。


 「ん!? んんん! んあ……あ……ん」


 とても柔らかくて、とろけてしまいそうな感覚。

 甘い香りが、口の中全体に広がる。

 頭がおかしくなりそうなほど、気持ちがいい。


 ブウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!!!


 どうやらそれは、小濱さんも同じようだ。

 今日一番のオナラが教室中に響き渡った。

 しかしその音に不快感はなく、まるで小鳥の囀り(さえず )のように心地のいい音だった。

 

 それから俺たちは一緒に帰った。

 途中、何度も小濱さんからキスをねだられたので、何度もキスをした。

 そして、その度に響くオナラの音。

 これから先、俺たちはもっと緊張することをしていくことになるだろう。

 そして、それに比例して小濱さんのオナラの音は大きくなっていくだろう。

 でも俺はきっと、その音を聞く度にもっと小濱さんのことを好きになっているはずだ。


 「……大好きだよ、小濱さん」

 

 チュ

 ブッ!


 「あっ……ん……いきなり反則だよぉ!」

 「あはは」


 こうして夜遅くまで、キスをして過ごした。


 そしてその後もこの街には頻繁にオナラの音が響き、それを百回聞いたものは不幸になるという都市伝説が生まれたのだった。

 

 お読みいただきありがとうございました。

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