表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

秋の桜子の物語集

闇夜色のサーカス ピエロと私と綱渡り

作者: 秋の桜子

 ソラは漆黒、闇夜色(やみよるいろ)銀色の星達が瞬き、お月さまが白く眩くまん丸い。


 ()は真っ暗闇夜、ポッカリと口を開けているみたい。小さくちいさく、チルルチルルと、ここ迄届く嘲笑(わら)イ声。


 ゆうらゆうらと身体が揺れる。足元には太い金の色したロープの道よ。手には白いパラソルと、ふんわり白い羽根の扇。頭には花を飾って、物乞いよりも短いスカート履いている。


 お袖もどこも短いのに、レースにフリルはてんこ盛り、ビーズの刺繍が七色十色、キラキラ、キラキラ、お月さまの光に跳ねている。


 ジャン!シンバルの音。ピエロが目の前に出てきたの。ぼうるを三つジャウリング。赤に黄色に水色に、くるくるくるくる円を描いているぼうる。


「レッツショータイム!さあ、お姫様、始まるよ!」


 ピエロが、ニタリと目を細め、ぼうるを一度手に収めると、何処かの国の王子様みたくお辞儀をしたわ。


「さっ!踊ろう、跳ねよう金の色したロープの上で、やらなきゃご飯は食べられない、少しばかりソラにとび、月光集め、星の欠片を纏わねば、尻からバリバリ喰われちま」


 ピエロは嘲笑う、今日もきょうとて。下に広がる()の世界はバッチリさぁ。ここから堕ちた者達が、喰われちまってカラダをなくし、ドロドロに溶けた姿で巣食う世界さね、キレイナきれいなお姫様。


「ほらご覧、アチラをむくんだお姫様」


 ピエロがそう言う。新入りさぁと指差して。私はときとき胸を打ちながら、指した方向見てみたの。


 ゆうらりゆらり、空中ブランコ、右からうごくブランコには、ピンクに赤色水玉模様、ヒラヒラ衣装のピエロが笑顔で手を振り座ってる。


 青い顔した男の子。首にヒラヒラかわいい道化の服を着て、左の飛び出し台の上で震えてる。ブランコの丸い棒をしっかり握ってる。彼の後ろにいる豪華な衣装を着込んだ男の姿。疑問に思う。私のピエロに問いかける。


「チ、チ、チ、アレはあの子の父親さ!子供に自分の食い扶持ちも稼がそう、そう考えてる親なのさ」


「母親は?」


 私は眉間にしわ寄せ聞いてみる。


「きのぉかね、練習してたらさきに堕ちて、下の穴に入ってら」


 ほら行けと、ドンと背を押す父という男、震える我が子の背を押した。ぶら下がる男の子、意を決した男の子、身体を鞭のようにしならせて、ブランコ大きくおおきく漕ぎ出した。


 振り子の様にゆうらゆら、音が外れたラッパのメロディ、ブランコブランコ、空中ブランコ。男の子がグイグイ力を込めて漕いでいる。


 彼のピエロに近づく、離れる、近づく、離れる。近づく……。


「さあこっち、コッチだ坊や、俺の手を掴め」


 ヒラヒラピエロは笑顔でくるりと回り、堕ちるフリをする。片手でぶらりとぶら下がり、足を上に振り上げて、棒を膝で挟んでぶら下がる。手を振り私に投げキッス。


 ケーケケケ、と笑い声。ぶうらぶうらと腕を下げ、近づく男の子に、この手を掴め、飛びつけと言っている。前に、ずっと前に目の前で、堕ちたあの子を思い出す。


 私はイヤなことに目を閉じて、夢の世界に溺れるの。



 私はお城に住んでたの、毎日挨拶のキスを受け、髪にリボンを飾って、七色の花染め色のドレスを着ていたの。集める糧と言われる月と星の光等、お父様が、お母様が集めて、かわいい娘の私にキスと一緒に、手渡してくれてたの。


 目を開ければゲンジツ、それともこれが夢?お城の高い塔の上、薔薇に囲まれ眠ってる王女様の夢なのかしら。


 トテトテチテタ、パラペラパ、音が外れたファンファーレ。


 私はおかしな衣装を着せられて、手には扇にパラソルに、胸のポケットにはソラに撒く、白い花びら詰め込み、金の色したロープの上、私のピエロがニヤリと嗤う。


「夢をミテタラ落ちるだろ、目をサマセ、オマエは道化、星の金貨と、月の銀貨合わせて三十と四百枚で買ったんだ」


 回していたぼうるを放り投げ、キッコギコギコ、キッコギコギコ、節が外れたワルツの調べ。バイオリンを取り出しひいてる私のピエロ。


 赤に黄色に水色に、おちてく落ちてく三つのぼうる。とぷんと音立て消えてく色。ゆっさゆさと足元が揺れた。ピエロがニマニマ笑いつつ、しゃがんだり立ったりロープを揺らす。


「お姫様、お姫様、さあさこちらにどうぞ」


 私とダンスを踊りましょう、キッコギコギコ、キッコギコギコ、はすっぱなワルツの調べ。じっとしていると落ちそうよ、私はクラクラ、フラフラ、スルリと片足を前に出してみる。続いて反対の足、それから……ひとつひとつ前に出る。


「お姫様、お姫様、とても上手ね、さあさ、私の側にどうぞどうぞ、お姫様」


 ピエロはバイオリンを、ギコギコギーコと弾きつつ、軽くその場で跳んでいる。意地悪しているピエロの側に、私はジリジリ進んでく。クラクラ、フラフラ、チリチリ、頭が、身体が、胸が音立てているわ。 



 パラペラパ パパパパーラ パパパパ。



 ()は真っ暗闇、小さいちいさい笑い声が、いつの間にか野太い声で、おうおう、おうおう吠えている。風が立ち昇る、血の色に満ちたそれが。何時も嗅ぎなれているその匂い。


 何時も?お城に住んでいたのは、やっぱり夢なのかしら?


 コチラがイマデアチラガ夢で。


 私は、ブワンブワンと上下左右に揺れる、金の色したロープの上で、ピエロが奏でるワルツの調べにのって、開いた白いパラソルをくるりと回し、扇でしゃなりしゃなりとあおいでる。脚を高く上げ、その場で優雅にピルエット。


「いよ!お見事!お姫様」


 ピエロがはやすわ、私は笑顔で羽根の扇をヒラリと、ソラへと投げ飛ばす。白がヒュウと風に乗り、黒の虚空のその向こう、蕩ける先に消えていく。


 キッコギコギコ、キッコギコギコ、パぺパラパ、キコキコ混ざるバイオリン、音の外れたラッパのメロディー重なるの。私は傘の柄を肩でくるりくるくる回しつつ、その場で膝を沈めるの。チカラを入れるわ、跳ぶために。



『この娘を買ってくれないか、仕事が無くなり家も屋敷も失った、金がいる』


 私の、ちいさいちいさいときの声が耳にヒュルヒュル蘇る。赤い屋根のお家で暮らしてた。私はそこで、何でも与えられ、そう、お姫様の様に過ごしていた。美味しいものもキレイなものも、かわいい服も、星や月の髪飾り、お花の帽子、なんだって持っていた。


 悪い病の風が吹き全てが、ガラゴロ音立て崩れる迄は。ソシテココデワタシハ、親に売られてピエロに捕まり、両手の指の数、年を過ごしてイキテイル。



 ニタリ、嘲笑う私のピエロ。

 ニタリ、嘲笑う私のオヤカタ。


 フフン、イヤな顔を私はワラウ。

 キリリ、イヤな目を私はニラム。


 ソラに跳ぶわ、高くたかあく、ソコニ瞬くチカラを得るために。とん!爪先がロープから離れると、金色の光が私を包む。


 闇夜色のソラへ、ソラへと跳ね上がる。



 そして私はそこで、星の煌めき身体にまとい、月の光をパラソルにてすくうわ。開いていたそれは、パサリと閉じる。銀色宿した石先が剣の様に磨かれる。


 空中ブランコ乗りの男の子。銀の光に包まれて、ヒュンと風切り、上にソラへと飛んでいく。月の光を手の中集め、星の煌めき身体にまとい、身体を丸めてその場でくるりくるり。



『ヨクヤッタ!フタリトモモドレ、ソレヲワタセ』



 ピエロの声が聴こえたの。私は柄をしっかり握って構えたの。ブランコ乗りの男の子、拳をぎゅぅぅと握ってる。何時もは取られてしまうそのチカラ、今日こそは、今日こそは……。


 オヤカタ殺して自由になるの。

 ソウスレバモトノクラシニモドレルノ、キットソウ。


 私はそうだと思ってた。あの子も同じだと思ってた。だけど違った、ブランコ乗りの男の子。一直線に飛んでって、飛び出し台の父親に拳を思い切りぶつけたの。


 奇妙にぐにゃりと歪んだ顔をして、おおおおお!おと声上げて、そこから底に堕ちていく。ナカマがキタキタ、コッチダヨ、()のモノ達が、歓喜の雄叫び上げている。


 七つ九つ六つに九十九、集りゃ身体が出来上がる。オマエタチ、オマエタチコイコイ、ココにコイコイ。


 戻っていたブランコ握る男の子、晴れ晴れとした笑顔でトンと、弾んで飛び出した。銀色に光る棒の上、すっくと立ち、片手を離して手を振るわ、片足上げてポージング。


 ……僕はブランコ乗りの王子になるよ、おねえさんは、王女様?


 そう声が聴こえたの。目の下には金色のロープの上で待つピエロ。ゆうらりゆらりとブランコ漕いでる王子様。


 私は、わたしは、ワタシハ……。


 握りしめてた両手を緩めて、柄から片手を離すわ。そして胸のポッケに突っ込むと、握りしめる白い花びらひとつかみ。


 そうれいけ!漆黒のソラから白い花びら撒き散らす。


 星の光を纏ってる、ゆるゆるゆると降りていく、ふあふあふあと堕ちていく。花びらが婚礼の祝福の雨の様に音なく、下に下にと広がり落ちる。


 私のピエロが私を受け止めようと、バイオリンをしまい込み、大きく腕を広げてる。


 ゆうらりゆらり空中ブランコ、男の子が再び離れて、差し出すピエロの手をとった。


 ……、ごめん少しばかり月のチカラを使っちまった。


 顔を見合わせ話してる。しゃあねぇ今日は許してやらあと、ヒラヒラピエロが笑ってる。



 ソラは漆黒、闇夜色(やみよるいろ)、銀色の星達が瞬き、お月さまが白く眩くまん丸い。


 金の色したロープに私のピエロ。手には閉じた白いパラソルと、頭には花を飾って、物乞いよりも短いスカート履いている。


 お袖もどこも短いのに、レースにフリルはてんこ盛り、ビーズの刺繍が七色十色、キラキラ、キラキラ、お月さまの光に跳ねている。


「お姫様!お姫様!ここだここだ!さあさ来い!」


 ヒラヒラチラチラ、白い花びら舞う中で、ぽん!とパラソル開いたら、ふわりと少しだけ浮き上がり、中の力がピエロに渡る。私はピエロの腕の中。


 これで私の寝床と食事が手に入る。()に、オマエ、能ナシと足蹴にされ、墜される事はない。食い扶持を、キチンと稼いだ。


 ()は真っ暗闇夜、ポッカリと口を開けているみたい。小さくちいさく、チルルチルルと、ここ迄届く嘲笑(わら)イ声。オウオウ、オウオウ、吠える底這うモノの声。


 七つ九つ六つに九十九、集りゃ身体が出来上がる。オマエタチ、オマエタチコイコイ、ココにコイコイ。


 私はそこにはいかないわ、ゼッタイゼッタイイカナイノ。おかしな衣装を着せられて、手には扇にパラソルに、胸のポケットにはソラに撒く、白い花びら詰め込んで、金色のロープの上で華麗にピルエット。


 これからも、キットソウ、ズットソウ、


 ワタシハココデツナワタリ。誰かが奏でるバイオリン。


 キッコギコギコ、キッコギコギコ、パぺパラパ、キコキコ……


 誰かが吹いてる、外れた音したラッパのその中で。


 生きる為。ワタシハココデツナワタリ。


 終。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ウチのパパは社長さんなんだからね!このビンボーニン!」 そう言って、威張り散らしていたアノコ。ある日突然“転校”していった。 今は………………詮無きコトよ。
[一言] 独特の世界ですね。 カタカナが、うまく機能し、異色の世界観を作っていますね。
[良い点] うん、とても良かったのです♪ 自分も綱渡りをしてるみたいな気になれました(*´∀`)♪ [一言] なんというか、 生きること、ものを書くということは、時に綱渡りをしているようなもののよう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ