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プロローグ
ゆらゆらと身体が揺さぶられ、視界が揺らぐ。
記憶の中の何筋もの朱が、目の前で天に昇っていった。
月も星もない、完全な闇を照らす、目映い朱色。それは誰の心も癒さない、底なしに冷え切った、絶望の輝きだった。
叫びたい。恨みを、哀しみを…あの方の名を。
でも、だめだ。今は逃げなければ。絶望に腕を引かれても、ただひたすらに、逃げなければ。それがあの方の、最期の言いつけなのだから。
そう思っていたのに、私はここで尽きるのだ。あの方の、最期の言葉を守れずに。
こんな不忠では、あの世で貴方に出逢うこともできない。
さようなら。貴方は、私の宝でした。