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第38話(最終話)グッドモーニングMy監禁犯


 夜空に浮かぶ大輪の花。咲いては消えるその花を見て、俺は幸せを実感していた。そして、気がつけば感謝の言葉が口から漏れ出していた。


「ふたりとも、今日は来てくれてありがとう」

「「――え?」」

「俺、たぶん今幸せだ」

「「哲也君……」」


 少し照れ臭いその言葉に、ふたりは頬を緩ませる。

 すると、不意に咲月が口を開いた。


「ねぇ、私からも一言いい……?」


 遠慮がちに上目遣いで俺を見上げる咲月。


「私、ちゃんと言ってなかったよね……?その……」

「――?」

「私も、哲也君のことが――好きだ、って……」

「咲月……」

「…………」


「知ってたぞ……?」

「――っ!」

「だって、随分前からそれっぽいこと言ってたじゃないか。何回も」

「~~~~っ!」


 俺の返事に、咲月の顔がみるみる赤くなっていく。


「あのね、哲也君!君のその、『好き』に対して『知ってる』で返すところ、よくないと思うわよ!?!?」

「えっ――」

「お姉ちゃんのときもそうだったけど!」

「なっ――」


 咲月の言葉に、こくこくと頷く咲夜。


(俺は、そんな罵倒されるほどにデリカシーの無い奴だったのか!?)


 悪気がなかったとはいえ、乙女的には許されざるというその行為を指摘された俺は、素直に頭を下げる。


「す、すまん……!でも、じゃあこういうときは何て返すのが正解なんだよ!?」


 そう問うと、ふたりは顔を見合わせる。


「……『俺もだよ』?」

「……『ありがとう、愛してる』?」

「なんで両想い前提なんだよ!?」


(いや、実際そうだけどさぁ!)


「……『俺の方こそ、二度と離さない』?」

「……『病める時も健やかなるときも共にいると誓おう』?」

「なんでいつの間にか俺に言って欲しい台詞大会みたいになってんだ!?」


(最後の方、色々すっ飛ばしてるし!)


「あ~もう!わかった!わかったよ!っていうか、本当は最初からわかってたよ!」

「「――何が?」」


 やけくそ気味にそう言うと、ふたりは揃って俺を見上げた。


「一度しか言わないからな!よく聞けよ!」

「「うん……」」


 いつになく真剣に耳を傾けるふたりの気持ちに応えるように、深呼吸をして、素直に想いをうちあける……



「――――――――」



 ――その瞬間。大会のフィナーレを飾る空一面の大花火が空に咲いた。


 花火の音で、俺の言葉は掻き消えただろうか。

 そう思ってふたりの顔を見ると、揃って満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は、どんな花火にも負けない、咲くような笑みだ。


(ああ、俺の言葉、ちゃんと届いたんだな――)



 ――『これからは、鎖なんか無くても、ずっと傍にいる――』と。



      ◇



「――ん……」


 ふと、腹の上から胸にかけて重みを感じて目を覚ます。

 ――と、俺の上に美少女が乗っていた。


「――っ……」


(あれ……?なんか、今日は――)


 カーテンの隙間から零れる陽光を透かすように、夏の風に揺れる銀糸の髪。

 それと対になるような、艶やかな光を放つ夜色の髪が胸元にさらさらと触れてくすぐったい。

 もぞもぞと身体を動かす度にたゆんと触れる胸のやんわりとした感触と、その隣人につられてふにふにと触れる弾力のある胸部。足先が冷たいのか、俺に絡ませた白い脚をすりすりと擦りつけて、人肌で暖をとっている。


(……いつもより、多くないか……?)


 俺の胸部全体に顔をうずめて、心地よさそうに寝息を立てるこの少女たちは……


「――ふたりとも?」

「「ん~……?」」

「――狭いんですけど?」

(そして重い……)


 ため息交じりに見上げた天井は見覚えのある、白い壁。横目で見ると、部屋の壁に沿うようにして控えめな数の段ボールが並んでいた。


 ここは今日から、俺の部屋だ。


 とはいっても、咲夜の部屋に俺の荷物を置いただけの完全なる居候である。

 俺は、そのベッドに仰向けになってやや氾濫気味の『川の字』を味わっていた。

 身体を起こそうと力を入れると、俺の上に乗っていた少女たちが目を覚ます。


「ん……む……」

「……?」


 ふたりは眠そうに目を擦ると、俺の胸元に再び顔をうずめる。

 ――二度寝するつもりだ。

 少女たちは体勢を立て直そうとして、俺の脚の間にフィットさせた膝をこぞってもぞもぞと動かしている。


(やめろ!未だにやっぱくすぐったいし、朝から色々とヤバイ!)


 俺がうんざりとドキドキの狭間で揺れていると、少女たちが再び俺の上でもぞもぞと身体を動かす。


(あああ!もう!)


「お前ら!起きろ!っつか、シングルに三人は無理があるって!!」


 たまらず声をあげた拍子に転がり落ちそうになった少女たちは、その声を聞いてようやく顔を上げた。


「ん……あ――」

「ふぁ……もう朝?」

「目、覚めたか?」

「ええ。おはよう」

「おはよ~……」


 その寝ぼけた挨拶に、俺は心の中でため息を吐く。


(はぁ……朝から懲りないな。俺の大事な、元監禁犯(家族たち)は――)


 そして、自分とふたりの目を覚ますように、笑顔で挨拶を返した。


「……おはよう。今日もいい日だぞ?」


(朝からその顔が見られるなんて――な)






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《あとがき》


 こんばんは。いつも応援してくださる方々、最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。ここまで続けられたのも、ひとえに皆様のおかげです。

 これにてこのお話は閉幕し、これより、【第二部】が始まります。お楽しみいただければ幸いです!どうぞ、よろしくお願いします。


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