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第33話 監禁七日目の鍵


 監禁七日目。


「――ん……」


 ふと、頬と唇に柔らかい感触を覚えて目を覚ます。

 ――と、美少女が俺に口づけていた。


「――っ!?」


 カーテンの隙間から零れる陽光を反射しながら、お天道様のように輝く銀糸の髪。それと同じ色をした長い睫毛が頬にさわさわと触れてくすぐったい。

 少女、というには少し成長し過ぎた胸のやんわりとした感触と――以下省略。


んむむ(咲夜)んんんッ(お前ッ)――むぅむむッ(何してッ)……!!」


 ――ぷはっ……


「――おはよう?」

「おは――」

「ふふ……今日もキミの顔が見れるだなんて、嬉しいな」

「…………」

「朝の『挨拶』にはもう慣れた?心地のいい目覚めは提供できたかな?」

「…………」


(慣れるわけねーだろ……!!というか、これから毎日こうなのか!?)


 目を白黒させる俺をよそに、咲夜は俺に頬ずりをする。


「ふふ。朝ごはんできてるよ?一緒に食べよ?」


 言われた通り、リビングからはコーヒーと焼いたベーコンのいい香りが……


「…………」


(あああ!早く外に出ないと俺はとける!脳ミソが溶けてなくなっちまう!!)


 俺はこれ以上堕落を極めるまいとして、颯爽と立ち上がった。その拍子に俺の上からころりと転がる咲夜。『ああん、つれない』なんていうふざけた小言をスルーして、身支度を済ませて席に着く。


「おはよう、哲也君。お姉ちゃんとの夜にはもう慣れた?」

「紛らわしい言い方すんな。『二の字』で横に寝てるだけだからな?」

「ちゅーはしてるのに?」

「それは朝だけ」

「へぇ、つれない。それでも男の子?」


(どいつもこいつも……)


「咲夜―?早く来ないと朝飯食っちまうぞー?」

「やだー!みんなと食べたい!」


 ぱたぱたと慌てて席に着いた咲夜を見守って、三人揃って手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 ――今日の朝食も、文句なしに美味かった。

 俺の好みをいつ知ったのか。カリカリに焼いたベーコンに、マヨネーズ多めのたまごサンド。この、パンの方がおまけか?ってくらいに具材がたっぷりと詰め込まれているのがたまらない。

 付け合わせには彩を添える緑の葉野菜のサラダと、あたたかいミネストローネのスープ。


「美味い……!」

「ふふ、いつもそう言ってくれてありがとう?」

「いや、こちらこそ……」

「咲月!美味しいよ!」

「もう、お姉ちゃんまで……わかってるわよ。そんな張り合わなくていいのに」


 くすくすと可笑しそうに笑う咲月。


(こんなん、昼飯外で食うのが楽しみじゃなくなるな……)


 俺はそんなことを思いながら朝食を平らげた。席を立ち、食器を流しに片づける。そのタイミングでふたりも立ち上がった。


「じゃあ、足枷を外すわね?」

「ああ、頼む」


 部屋から謎のスイッチを持ってきた咲月は、おもむろにそれを咲夜に手渡した。


「はい、お姉ちゃん」

「え……?」

「哲也君を自由にするのは、お姉ちゃんに譲ってあげる」

「それは――」


 言い淀んでいた咲夜は何を思ったか、スイッチを持つ手に咲月の手を重ねさせる。


「『せーの』で押さなきゃ、ダメ」

「ふふ、それもそうか」


 俺は仲睦まじい双子の姿を見守りながら『そのとき』を待った。


「「せーのっ……」」


 ――カシャン……


 呆気なく、俺の足から枷が外れる。足枷は床に小さな音を立てて転がり、俺は自由の身になった。


「おお……」

「て、哲也君……」


 遠慮がちに俺の服の裾を握る咲夜。俺はその頭をそっと撫でた。


「心配しなくても、ちゃんと帰ってくるって」

「それは信じてるけど……」


 おずおずと俺を見上げるその瞳に映り込む俺の顔は、どこか寂しそうだった。


(できるだけ早く帰ってきたいのは、俺もだな……)


 そんな様子を見て、咲夜は再び裾を引っ張る。


「外、気を付けてね?」

「暑いから、アイスティー持っていく?ハンカチとティッシュは持った?」

「咲月……母さんじゃないんだから……」

「そうだけど!心配なものは心配なの!」

「足、痛くない……?」


 そう言われて足首を見るが、ふたりの配慮が行き届いた足枷は内側にクッションが貼ってあったので、痛みも無いし枷の痕もついていなかった。


「大丈夫だよ」


 俺が再び頭を撫でると、咲夜はいつの間にか持ってきていた俺のリュックを手渡してきた。俺は礼を言って着替えると、玄関に足を向ける。


「じゃあ、行ってきます」

「哲也君、これ……」

「……?」


 咲月から手渡されたのは、小さなくまのキーホルダーがついた鍵だった。


「これは……」

「合鍵。こんなこともあろうかと作っておいたんだけど、案外早く出番が来たわね」

「わたし達はこの家でキミの帰りを待ってるけど、何かあったらそれを使って?」


(…………)


 まるで今日から『家族』になるみたいな待遇。俺は、意を決してその鍵を受け取った。


「――ありがとう」

「「いってらっしゃい、哲也君」」

「いってきます」


 安心して俺を送り出すその視線に感謝しながら、俺は外へと踏み出した

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