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第30話 お膝の上の監禁犯


 夕方になり、玄関の開く音がしたかと思ったが、咲夜はリビングにあらわれなかった。


(大学、そろそろ終わるころだと思ったんだが……咲月も朝から部屋に籠りきりだし……)


 『外に出たい』と打ち明けたことで、何やら距離を置かれてしまったように感じて心がスース―する。


「やっぱ、無理な相談だったかな……?」


 記憶も無事に戻ったし、最近はふたりと良好(且つ未だ健全)な関係を築けていると思っていた分、イケると思ったのだが、早計だっただろうか。

 俺はキッチンへ赴き、冷蔵庫を開ける。


(明日だっていうのに、やっぱり無い……)


 俺が『どうしたもんか』とため息を吐いていると、咲月の部屋からふたりが揃って姿をあらわした。


「あ。おかえり、咲夜。咲月も、こんな時間まで何してたんだ?」


 俺が声を掛けると、ふたりは揃って目を泳がせる。


「た、ただいま……」

「お姉ちゃんと、女の子な話をちょっとね……」

「そ、そうか……」


 そう言われると、俺はこれ以上ツッコミようがない。それどころか、あらぬ妄想が膨らんでしまう。


(お、俺に内緒で『女の子な話』……??一体何を……)


 動揺を抑えながら、勝手知ったるキッチンの戸棚からグラスを三人分取り出す。


「何か飲むか?今日も暑かっただろ?」

「「――っ!!」」

「な、なんだよ……揃いも揃って、そんなに驚かなくてもいいだろ?俺が気を利かせたらなんかマズイのか……?」

「う、ううん!そんなことない!嬉しい!」

「じゃ、じゃあ、私は夕飯作るから、ふたりはソファーでごろごろしてて?」


 どこか落ち着きのない咲月に急かされて、咲夜は俺の腕を引く。


「ちょ、そんな強く引いたら飲み物零れるって……」

「えへへ、いいのいいの!」

「いや、よくないだろ……?」


 俺はソファー付近のローテーブルにグラスを二人分置くと、ソファーに腰掛けた。

 いつものようにテレビのスイッチを入れ、俺の膝の上に猫のように転がる咲夜の頭を撫で――


「――っ!?」


「……撫でてくれないの?」

「いやいや、ナチュラルに何してるんだよ?」

「――膝枕」

「それは見ればわかる……」


(あぶなっ……危うくペットみたいに可愛がるところだった……)


 最近の咲夜は甘え方が巧妙化している気がする。

 なんかこう、自然な流れで息を吸って吐くように甘えてくる。まったく、油断も隙もない。

 俺がもやもやとしているなんて露知らず、咲夜はごろごろとまるで喉でも鳴らすみたいに膝枕に頬をすり寄せて楽しそうにしている。


「ちょ、あんまり動くなって……」

(その辺はデリケートなんだから!)

「ん~?」

「おい……!」

(こっちを向くな!近い近い!顔がアソコと近いから……!)

「大人しくテレビでも見てろ!」


 堪らず頭を持ってぐりん、と回転させる。

 咲夜は構われたのが嬉しいのか、くすくすと背中を上下させていた。


「はぁ……」

(この生活も、明日で七日目か……)


 ――ハッ……


 俺は重要なことを思い出し、キッチンの咲月に向かって声を掛けた。


「咲月、そういえば朝言った頼みの件なんだけど――」


 口を開きかけると、膝の上の咲夜がぐるりと振り返った。その衝撃に、思わずびくりと膝が揺れる。

 しかし、振り返った咲夜の表情は真剣そのものだった。


「哲也君。その件についてはわたしから」

「あ、ああ……」


 膝の上からそう言われると少し拍子抜けしてしまうが、想定通りと言うべきか、双子の『報連相(チームワーク)』はやはり淀みがない。

 俺は固唾を飲んで返事を待つ。


「返事は、夕飯のあとで」

「――へ?」

「この夕飯が終わったら、必ず話すから……」

「おう……」


 そんな、死亡フラグみたいな言い方しなくても。


(まぁ、返事は最悪明日までに貰えればいいから構わないけど、なんかモヤつくな……)


「寝る前に、きちんと話すから……」

(微妙に延びてないか?)


 そうは思ったが、野暮なツッコミは入れずに首を縦に振って了承する。

 何せ相手は監禁犯。いくら俺が手懐けられているとはいえ、外に出すにはそれなりの覚悟が要るんだろう。

 俺がそう得心していると、膝の上からもごもごという振動が伝わってくる。


「ちゃんと、ちゃんと言うから……ちょっとだけ待ってて……」


 咲夜は何故か心細そうに、膝に寝ころんだまま俺のズボンの裾を握った。

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