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第27話 蕩ける朝の『ご挨拶』


「――ん……」


 ふと、手をぎゅっと握られている、あたたかいようなあついような温度を感じて目を覚ます。

 ――と、俺の上に美少女が乗っていた。


「――……」


 カーテンの隙間から零れる夏の日差しを反射しながら、さわさわと揺れる銀糸の髪。それと同じ色をした長い睫毛の奥から、穏やかな色を湛えた瞳がこちらを見つめている。

 少女、と呼ぶにはふさわしくない胸のしっとりとした感触と、徐々に近づいてくる首筋から漂う甘い香り。

 俺の上に密着して、『ある一点』を見つめているこの少女は……


「……さく――」


 ――ちゅ。


(――え……?)


 ――否。俺の唇を『はむはむ』しているこの少女は……!


「ん……んむ……」

「――っ!?」


 ――ちゅぅッ。


「……あ。おはよう」


 その言葉と共に、重ねられていた唇が離れる。


「……おは、よう?」

「いい朝だね、哲也君?」

「…………」


(――じゃねーだろ!?それどころじゃねーだろ!!)


「何……して……」

「何って、おはようのご挨拶?」

「いや、今のは明らかにご挨拶って感じじゃ――」

「だって、哲也君があまりにスリーピングビューティーなんだもん……」

「――は?」

(何言ってんだ?こいつ)


 動揺する俺に、咲夜はさも当たり前のように囁く。


「そんな囚われのキミへの『おはよう』は――キスから始まるものでしょう?」


(意味、わからん……)

 そう思った矢先――


 ――ぺろり。


「――っ!」

「今度こそおはよう、哲也君。目、ようやく覚めたみたいだね?」


 唇を離した咲夜はにっこりと微笑む。

 朝からまったく意味のわからないテロに見舞われた俺が理解したのは、咲夜は今日も元気だということだけだった。


(この双子は……!揃いも揃って過激派ペロリストかよ……!)


 俺はまだ若干湿っている唇を開いてようやく言葉を発する。


「おはよう……ございます……」


 気恥ずかしさを隠すように洗面所で諸々を洗い流し、リビングへと足を向ける。

 その間、俺は咲夜に対する認識を改めた。


(俺の嫌がることはしない咲夜が、今朝は直接手を出してきた……つまり、あいつはあの程度のスキンシップは『俺が嫌がらない』というのを知っている……)


 いくら記憶が戻ったとはいえ、俺と天ちゃん――もとい、咲夜は所謂幼馴染な友達。別に恋人だったわけではない。

 それにしてはなんとも過激なスキンシップだ。


「…………」


 心を許し始めていることが早々にバレ、俺は複雑な想いで席に着く。

 テーブルには、咲夜の好きなシロップでろでろのパンケーキに、俺の為に用意されたと思しき温泉卵が。


「――おはよう、哲也君。今日くらいは甘くてもいいわよね?」

「おはよう、咲月。俺のこと、そんなに気にしなくてもいいんだぞ?むしろ朝食があるだけありがたい……」

「咲月おはよ。朝から好きなもの食べられるなんて、やっぱり持つべきものは可愛い妹だよね~」


 そういって、咲月にすりすりと頬ずりしてから席に着く咲夜。


(朝の『挨拶』に、あたたかくて美味しい朝食……)


 シロップが山盛りにかかったパンケーキを口に運ぶと、脳に糖分が染み渡り、それどころか糖分過多でぐしゃぐしゃに蕩けそうな錯覚に陥る。


(このままじゃ……)


 そんな、くらくらとしそうな頭に鞭を打つように、俺は決意を改めた。



 ――なんとしても、【愛の檻(ここ)】から出なければ……!

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