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第18話 いつまでもおマヌケな俺じゃいられない


 翌、監禁四日目――


「うっ……苦し……」


 胸の上にかかる重みと不安定な姿勢で寝たために腕に痺れを感じて、俺は目を覚ます。

 ――と、今朝も俺の上に美少女が乗っていた。


「――ん……」


 カーテンの隙間から零れる朝の陽射しを受けてきらきらと輝く銀糸の髪。何かを捕まえる夢でも見ているのだろうか、細く華奢な指で脇のあたりをきゅっと掴まれ、くすぐったい。

 少女のもの、にしては些か大きくなり過ぎた胸のもっちりとした感触と、無駄な飾り気のないシャンプーの甘い香り。

 俺の左胸辺りに顔をうずめて、心地よさそうに寝息を立てる病み上がりの同居人……

(ここにいるってことは……風邪は治ったみたいだな)


「――起きろって、咲夜……」


 俺はくーくーと背中を上下させている咲夜の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「んん~……?」


 左胸に、再びもちもちとした圧がかかる。


「ひとの上で二度寝するなよ……」


 俺は両脇を掴んで咲夜をそっと持ち上げると、床に転がっている『人をダメにするクッション』の上に乗せて、ダメ人間をひとり完成させた。


「はぁ……毎度毎度……」


 『懲りないな』とは思いつつも、朝起きた時にどこかあたたかい気持ちになるのをようやく認めた俺は、そのあたたかい気持ちのまま、キッチンへと足を運ぶ。


(昨日の今日だ……咲月はまだ起きてないみたいだな……)


 顔を洗おうと洗面所へ向かうと、歯を磨いていた咲月と目が合った。


「「――あ」」


「おはよう、咲月――」


 俺は、『昨日はよくも逃げたな』の意を込めてジト目を向ける。

 口を(すす)いだ咲月は、タオルで口元を覆いながらジト目を返した。


「……おはよう……」

「…………」


 未遂に終わったとはいえ、なにせ昨晩はあんな暴挙に出たのだ。いくら俺より経験値が高そうに見えても、さすがに気まずいらしい。

 俺は短くため息を吐くと、蛇口を捻って歯ブラシを濡らした。


「昨日のことなら、もう怒ってないから」

「ほんとに……?」

「ああ、ほんとに。だが、強いて言うなら、朝ごはんを目玉焼きにしてくれたら許す」

「…………」


「それに、大事なことを思い出せない俺にも非がある。それについては、ちゃんと思い出せるように努力してみるから……」

「えっ……」

「具体策として、今日は一日咲夜と過ごす。一緒にいれば、何か思い出すかもしれないからな。尚且つ、思い出せるまではこの家から絶対に逃げ出さないと、約束する」

「それは……」

「だから、咲月も……昨日みたいな無茶なマネはやめてくれ。俺の為にも咲月の為にもならないし、その……心臓に悪いから……」

「…………」


 咲月は驚いたように目を丸くすると、俺の肩をぽん、と叩いてすれ違いざまに頬に口を寄せる。


「ほんとに、お人よしなんだから……そういうとこ――」

 ――『好きよ?』

「――っ!」


 咲月の唇が頬に触れる直前、俺はバッと身を引いてそれを回避した。『――ほう』と感心したように目を細める咲月。


「――ふふ、もう隙だらけじゃないのね?ちょっと残念」

「昨日の今日、だからな……さすがの俺も、そこまでおマヌケじゃない」


 冷や汗を隠しながら虚勢を張る俺に咲月は短く微笑むと、リビングへと去って行った。

 顔を洗おうと洗面台と顔を合わせる俺の背に、機嫌の良さそうな咲月の声が届く。


「哲也くーん。目玉焼きには何派―?」

「しおー」


 俺はリビングに届くように声を張った。

 廊下の奥から、『しょうゆじゃない人間がこの世に実在するなんて!』『逆賊だ!思い知れ!しょうゆの海に浸してくれるわ!』なんていう賑やかな双子の声が聞こえてくる。


「――塩分過多で殺す気か!」


 俺は急いで顔を洗うと、その賑やかな食卓の輪へと入っていった。


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