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第17話 教えちゃいけない、監禁理由


 俺の問いに、咲月は苦々しげに顔をそむける。


「それ、は――」

「…………」


「私の口からは、言えない……」


「――はぁ……!?」


「私に聞くのは、ナンセンスよ……哲也君……」

「いやいや、待てよ!ナンセンスだとか、そんなこと言ってる場合か!?これだけのことをしておいて、『それは言えない』!?ふざけてんのか!?」

「ふざけて、ない……」

「いやいや、ふざけてんだろ!?いくら俺がぼんやりしてるからって、バカにするのも大概にしろ!」


 激昂する俺に対抗するように、咲月は声を荒げた。


「ふざけてるのはどっちよ!お姉ちゃんはあんなに……あんなに君のことが好きなのに!ずっとずっと、大好きだったのに!それなのに!どうして何も覚えてないのよ!!」

「――っ!」

「バカにしてるの!?あんな別れ方しておいて……!『忘れた』なんて、ふざけんじゃないわよ!!お姉ちゃんが、どれだけ心配したと思ってるの!?諦めて、どれだけ心を痛めたと思ってるの!?どれだけ泣いたと、思ってるのよ!!」


(――ッ!?)


「――ッ、だ、だからそれを教えろって……」

「だから!それは言えないの!無理に思い出させると、『良くないこと』も思い出しちゃうかもしれないから、って……お姉ちゃんに、止められてるのよ……」


(なんだ、ソレ……?)

 俺は、急変した事態に頭がついていけなかった。


「俺が、いけないのか……?『忘れてる』、俺が……」

「さっきから……そう言ってるでしょ?」


 涙目で息を切らしながら、咲月は俺を見下ろす。頬の上に落ちてくる涙の粒が、冷房の風に晒されて、とても冷たい。


「…………」

「…………」


 俺達が無言で見つめあっていると、不意に扉の開く音がして、咲夜がリビングに姿を見せた。


「――咲月?こんな時間に大声出して、どうしたの――」

「――っ!?おねえちゃ――」

(咲夜っ!?しまった、起こしちまったか……!)


 風邪でまだぼんやりするのか、咲夜は目を擦りながらこちらに目を向ける。


「……あれ?わた、し……?」

「――っ!」


 咲夜の寝ぼけた声を聞いて、咲月は一目散に駆けだした。銀髪のウィッグを(なび)かせ、凄まじい速さで自室に戻ったかと思うと、鍵の閉まる音がする。

 リビングには、若干着衣の乱れた俺だけが残された。


(咲月のヤロウ……!俺に全部押し付けやがった……!)


 俺は着衣の乱れをさりげなく直しながら、ソファーから身を起こす。


「よ、よぉ、咲夜……眠れないのか?風邪はどうした?具合は、良くなったか……?」

「あ、哲也君。そっか、今日はリビングなのか……ごめんね?風邪、明日には良くなると思うから、そしたら一緒に寝よ?」

「いや、寝ないけど。明日もリビングだけど?」


 平常運転に戻った咲夜にほっとしつつも、さっき見たものを忘れさせようと別の話題を振る。


「ところで咲夜。咲夜はその……俺の、どこが好きなんだ?」

「え……」

「俺達、ひょっとして昔、会ったことないか……?」

「――っ!」


 俺はマヌケだがバカではない。その上ちょっとは人の心がわかるので、咲月に聞いたということは黙っておく。

 俺の質問に、咲夜は顔を輝かせた。膝をついて、ソファーに腰掛ける俺の膝に上半身を乗せるようにして引っ付いてくる。


「て、哲也君、思い出したの!?」


(やっぱり、忘れてる俺が百パー悪いみたいだな……)

 俺はそのことを申し訳なく思いつつも、話を続ける。


「それが……わかってるのは『会ったことがある』ってだけで……いつ会ったかとか、どこで会ったかとかは、わからないんだ……」


 その答えに、咲夜はしょんぼりと肩を落とす。


「そ、そっか……そうだよね……」

「ごめん……」

「――ううん、いいの。忘れちゃってるのは、きっとそれが哲也君にとってショッキングな記憶の一部だったからだと思う……」

「ショッキングな、記憶……?」

「う、うん……だから、無理に思い出そうとしちゃ、ダメだよ?」

「え、でも……」


 戸惑う俺に、咲夜は穏やかに笑いかけた。


「――忘れないで?わたしが哲也君を監禁する目的は、『幸せに暮らす』こと。だから、無理しなくていいの。無理にイヤなことを思い出さなくて、いいの……」

「けど、それは咲夜にとっては大事なものだったんじゃ……」

「いいの……今は傍に居てくれる。それだけで、わたしにとっては十分だから」


 『――ね?』と言って、にっこりと微笑む咲夜。


「いいわけ、ないだろ……?」


(そんな……寂しそうに、笑うなよ……)


 俺がうまく言葉に表せないでいると、不意に膝の上で咲夜が揺れた。


「――ふえっくしゅッ!」

「ああ、リビングはちょっと冷房効き過ぎてたか……」


 俺は咲夜の手を取って立ち上がらせると、そっと背を押して部屋に戻るように促す。


「――ほら、病人はあったかくして寝ないと。鳥肌立ってるぞ?」

「あ――」

「おやすみ、咲夜。起こしてごめんな?」

「う、うん……」


 名残惜しそうにしていた咲夜は、部屋に入る直前、俺の方を振り向いた。


「明日には風邪、絶対に治すから……そしたら、構ってくれる……?」

「ああ、勿論。構われないと、俺も暇だから」

「暇つぶし~?まぁ、一緒にいてくれるならいいけどさ……」

「許せって。風邪が治ったら、明日はずっと一緒にいるからさ」


 そう言うと、咲夜は俺にジト目を向ける。


「……約束だよ?」

「ああ」

「見てなよ?絶対に、風邪治してやるんだから……」

「わかってるよ。約束する」


 そう告げると、咲夜は部屋へと戻っていった。

 俺は咲夜の背中を見送りながら、その言葉を反芻した。


(約束するよ……たとえどんな思い出だとしても……絶対に、思い出してみせるから……)

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