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第9話 作戦開始


チュンチュンチュン……。


小鳥のさえずりが聞こえる早朝、私は厩の影に隠れてリュシアンが来るのを待っていた。


「あ、来た来た」


リュシアンは私が見ていることにも気付かず、兵舎からまっすぐに厩に向かって歩いてくる。

荷物はそれほど多くはないようだった。


いつもの制服もいいけど、ああいう旅装も様になっていて素敵だな……。

本人は自覚しているのかいないのか分からないけど、背も高いし、足も長いし、金色の髪も紫色の目も、あらゆるところが女の人を魅了してしまう罪な男性なのだ。


(アタシちょっと嫌な予感がするんだけど)


「しっ、黙っててください!」


(黙るのはアンタの方でしょうが。アタシの声は聞こえないのよ)


まったく、ああ言えばこう言うんだから!


ブルルルル!


ノワールの勇ましい鼻息と共に、手綱を引いたリュシアンが厩から出てくる。

そして、リュシアンは鐙に足を掛けると、ひらりとノワールに騎乗した。


私はパカパカと足を進めるリュシアンとノワールを見送り、厩の中にいるブランのところへ走った。


(やっぱり! アンタ、後を付ける気ね!)


いまは麗しの薔薇の小言を聞いている場合ではない。

私は聞こえないふりを決め込んで、ブランの手綱を引き、厩から連れ出した。


厩の外に隠しておいた荷物をブランに括りつけて……、括りつけ……、あ、あれ?


「おや、レピエル様? こんな朝早くにこんな場所で何をなさっているので?」


モタモタしていたせいで馬番に見つかってしまった。

10名ほどいる馬番の中でも一番のベテランのユーゴだ。


「ちょっとブランと散歩しようかなって……?」


「馬に乗って散歩ですかい?」


ユーゴが首を傾げた。

うっ、苦し紛れの言い訳が苦しすぎた……! 


「ちょっと、この荷物をブランに括りつけてくれない?」


「大きな荷物を1つじゃあ据わりがよくありませんよ? かばんを分けたほうがいいでしょう」


そ、そんな!

今から部屋に戻って荷物を分けてたらリュシアンを見失ってしまう!


「すぐそこまでだから、適当でいいの! お願いよ!」


「わ、分かりました。ーーはい、出来ましたよ」


「ありがとう! じゃあ、私は先を急ぐから! あっ、ここで私に会ったことはしばらく黙っていてね」


私はひらりと馬に飛び乗って、ユーゴに声をかける。


「えっ!?」


「じゃあね!」


私は驚くユーゴを置き去りにして、慌ててリュシアンの後を追った。


(ちょっと! アタシのオスカーを忘れてるわよ! 戻って!)


あいにく戻る気はありません!


城門のところまで一気に馬を走らせると、運よく門扉が大きく開け放たれているのが目に入った。

ちょうど納品にやってきた農家の馬車のために、門扉が開かれたところだったのだ。


これなら門番に足止めされることなく抜け出せるだろう。


「あっ!? レピエル様、どちらへ!」


私を見咎めた門番が、ブランの手綱に手を伸ばそうとした。

危うく捕まりそうになりながらも、私はするりと馬車の横をすり抜け、城外に出ることに成功する。


「お父様とお母様にはしばらく内緒にしておいてー!」


(アンタ、馬鹿なの? 内緒にしておく訳がないでしょ!)


でも、お願いしておけば、もしかすると頼みを聞いてくれるかもしれないし。


そんなことより、早くしないとリュシアンに追いつけなくなっちゃう!

もともとブランよりもノワールの方が足が速い上に、私が荷物を上手く載せられなかったせいでだいぶ手間取ってしまった。


急がなければ……。

国を出るまでに追いつかないと、そこから先はどこに行くか分からないのだ。

私ははやる気持ちを抑えつつ、必死に馬を飛ばした。





「駄目だわ……、どこにもいない……」


プレシウス王国を出てしばらく馬を走らせたところで、私は絶望の淵にいた。

完全にリュシアンを見失ってしまったのだ。


(いないわね)


「リュシアン……、見失っちゃった……」


ここまで休みなく走らせて来たせいで、ブランの足もだいぶ鈍ってしまった。

さすがにこれ以上は限界だ。

気持ちは焦るけど、ここでしばらく休憩しよう……。


私が背中から降りると、ブランはもしゃもしゃと草を食み始めた。


(というか、スタート地点から付いていけてないのに見失うも何もないんじゃない? 途中まで付いていけて初めて言えるセリフだわよ、見失うって)


「ううっ……、麗しの薔薇さま、どうしましょう」


心細さに涙が出てきてしまう。

こんなところまで1人で来たのは初めてなのだ。


(どうしましょうって、今更言われてもどうにもなんないわよ。家に帰れば?)


「でもっ! 出会いを潰さないと! リュシアンが奥さんを連れて帰ってくるなんて絶対に嫌です!」


私はハラハラと涙を流しながら訴えた。

リュシアンの奥さんになるのは私なのに!


(は? アンタ、あれを真に受けたの? ヤダ、あんなのただの冗談よう。ほんの1ヵ月でそうそう出会わないわよ)


「でもっ! リュシアンはあんなに素敵なんだから、いつ何時どこの誰に目を付けられてしまうかわかりません!」


リュシアンと一緒にいると、通りすがりの女の人が必ずリュシアンをチラッと見て行くのは気のせいじゃないと思う!

いつもは私が一緒だから声をかけてくることはないけど、リュシアン1人にしようものなら危険は免れない。


(それほどでもないと思うけど。まあまあいい男かもしれないけど、まだ青いのよねー。アタシはオスカーの方がずっと男前だと思うわ。あれくらい熟れてる方がちょうどいい……ッ! ああっ、オスカー!)


麗しの薔薇と男の人を取り合うようなことには一生ならないということは分かったけど。


「特殊な趣味の方は置いておいて、一般的な感覚の女性ならリュシアンを好きになってしまいます……!」


(アンタもたいがい失礼な子よね。そんなに好きなら早く告白すればよかったのよ。相手から言ってくれるのを待ってるとかさ、アタシそんな女大っ嫌いなのよね)


「もちろん言いました!」


私これでも物心ついた頃からだいぶ危機感を持って生きています!

横から掻っ攫われたらたまりませんから。


(あ? 言ったの? 王女とは思えない肉食っぷりね……。嫌いじゃないわ)


「肉食? お肉は好きですけど……。何のお話ですか?」


なぜ急に食べ物の話に?

麗しの薔薇の話はあっちこっちに話が飛ぶのが特徴だな。


(なかなかいい根性してるって言いたかったのよ。でもね、本当に欲しい物なら1回言って断られたくらいで諦めちゃダメよ)


「いいえ、しゃべれるようになった頃から数えきれないくらい好きだと言っています。……でも、私のこと子ども扱いして本気にしてくれないんです……!」


私はしょんぼりと肩を落とした。


(あー、そういうことなの。ハアー、そりゃちょっと早すぎたわねぇ。年も結構離れてるし、そりゃ仕方ないわね。アンタたち、何歳離れてるの?)


「私が14歳、リュシアンは21歳ですから、7歳差ですね」


(7歳差ねえ……。15歳の男が8歳の女の子に好きと言われたとして、『じゃあ付き合おうか』とはならないわね。なったら犯罪よ)


そ、そんな!

断る方がまともみたいな言い方しなくてもいいのに!


「うう……、リュシアン、リュシアン……、リュシアーン!」


(うるさいわ! 何回言うのよ!)



「まったく。何度呼べば気が済むのですか」






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